「夢を仕事に」「大好きな文章で生きていく」

 ここ数年で“Webライター”が急増した。出版社や編集プロダクションから独立した人だけではなく、一般企業に勤める会社員の副業や、子育て中のママでもOK。特別な資格は不要で未経験から始められる……。

 とはいえ、クラウドソーシングサイトでは文字単価1円未満の案件がほとんど。現実として食べていけるほど稼げるライターは、ほんのひと握りなのである。1文字1円の壁が超えられず、辞めていく人も少なくない。

 また、ChatGPTClaude3などのAIツールの登場により、今後はSEO対策(検索エンジン最適化)に特化した“SEOライター”の仕事は激減していくとも言われている。

 そんななかで、いま「稼げるらしい」と注目を集めているのが、“取材ライター”や“インタビューライター”と呼ばれる人たちだ。ネットで調べた情報だけではなく、自分の足で現場に出向き、見たり聞いたりした内容を原稿に落とし込んでいく。

 取材やインタビュー記事におけるギャランティは1本いくらの「記事単価」になるケースが多いものの、文字単価に換算すれば1文字10円以上の案件も珍しくない。ライターの仕事を中心に生計を立てたいならば、近い将来、もはや取材のスキルは必須かもしれない。

「それはわかっていても第一線で活躍する取材ライターや編集者にツテやコネがあるわけじゃないし、具体的にはどうすればいいのかわからない」

 そう感じているWebライターも多いことだろう。

◆Webライターは“取材”のスキルに活路

 ライター・編集者として活躍する國友公司さん(31歳)が本格的に活動を始めたのは25歳の頃だった。現在は『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』や『ルポ歌舞伎町』(共に彩図社)、『ルポ路上生活』(KADOKAWA)など、累計15万部のヒットを叩き出しているが、じつは5〜6年前までは右も左もわからず、苦しい状況だったことはあまり知られていない。

 クラウドソーシングサイトの1文字1円未満の案件に応募し、必死で書き散らす日々。大学卒業を目前に控えるなかで就職先も見つからない……。そんな國友さんが、駆け出しで実績ゼロの状態から一体どんな手を使って這い上がってきたのか?(記事は全3回の1回目)

◆最初はクラウドソーシングで1文字1円の記事を書いていた

 まずは國友さんが歩んだ軌跡を振り返っていきたい。そこにライターになって活躍するためのヒントがあるはずだ。

「僕は大学を卒業するまで7年かかっています。猿岩石の『ユーラシア大陸横断ヒッチハイク』が好きで、3年間休学して海外旅行をしていたのですが、その道中でクーロン黒沢さんが書いた『裏アジア紀行』(幻冬舎)という本を読んで、こんなライターになろうと決意しました。

 帰国後、旅行について書いた原稿を色んな出版社に送ってみたのですが、反応はあまりなくて。仕方なく某クラウドソーシングサイトに登録して1文字1円の記事を毎日1万文字分ぐらい書いていたのですが、正直かなり大変でしたね」

 そんななかで、いくつかの転機が訪れたという。

「大きかったのは、クーロン黒沢さんのトークイベントに参加したことです。そのイベントに申し込みする時に『自分の過去の変な体験について書いてください』という項目があって。僕はゲイマッサージ店でアルバイトしていたので、いろいろ書いてみたんです。それが目に留まったみたいで、話す機会をもらえました。そこでライターをやっていると話したら、クーロン黒沢さんが編集・発行人を務める『シックスサマナ』というKindle電子雑誌のなかで連載を持たせてもらえることになりました」

 ツテやコネがなくても自分から行動することでチャンスが舞い込んでくるケースもあるのだ。

◆たった5〜6年の間でギャラは約20倍に!

 だが、その後もライターとしての営業活動はあまりうまくいかなかった。そこでクーロン黒沢さんに相談してみたことで、Webメディア「日刊SPA!」の編集者につないでもらえたのだ。当時の担当編集者がこう話す。

「國友さんからもらった企画案の内容や、クーロン黒沢さんの知り合いということで、当初は40代ぐらいの“ヤク中のおじさん”だと思っていました。しかし実際に打ち合わせに顔を見せたのは20代の好青年だったので驚きました(笑)。コンプラうるさい時代に裏社会などのテーマを若者がガッツリやろうというのは“ギャップ”があって面白いし、なんとなく未来の可能性を感じたんです」(日刊SPA!編集者

 多くのライターがひしめく中で、編集者になんらかの“引っかかり”があることが大事なのかもしれない。ともあれ、日刊SPA!で定期的に記事を書き続けたことで、“ライター”として道が開けていったという。ただし、大学卒業後の進路は相変わらず決まっていない状態だった……。

「その編集さんが、『出版社の仕事に興味があるなら、直筆で手紙を書いてみるといいよ』と教えてくれたんです。それで、『実録 ドラッグリポート アジア編』や『裏のハローワーク』などの著書がある草下シンヤさんが彩図社の編集長だと聞き、直筆で5000~6000字ぐらいの手紙を出してみたんです」

 今ならば、手っ取り早くX(旧Twitter)などのSNSで編集者にDMを送るなどの方法もあるだろうが、デジタルの時代にあえて手書きで長文の手紙を送ったことが功を奏したのか、実際に会ってもらうことに成功したのだ。

「編集長の草下さんから『さすがに手紙で就職は決まらないよ』と笑われましたが、『今まで書いたものを見せてくれ』と言われたので大学の卒業論文を見せました。内容は新宿のホームレスがどんな生活をしているかというものだったのですが、それを見た草下さんから『就職が決まっていないなら、4月から西成で生活してみてよ。面白かったら本にする』と言われたんです」

 躊躇はあったが、他にすることもなかったため、西成で78日間生活し、その体験を綴った。こうして発売された『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』がベストセラーに。まさに“名刺代わりの一冊”となり、その後はさまざまな仕事が舞い込むようになったのだ。

 現在はライター・編集者として有名メディアに引っ張りだこ。ギャラは文字単価に換算すると、たった5〜6年の間で15〜20倍ほどになったと話す。“行動力”で変わる未来もあるのだ。

<取材・文/松本果歩、企画・編集・撮影/藤井厚年>

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ライター・編集者の國友公司さん(31歳)