法務省が今年1月に訓令を改正し、死刑囚が色鉛筆を再び使えるようになったことが分かった。

被害者への償いとして絵を描いてきたある死刑囚の支援者は今回の動きを歓迎するが、本人に満足した様子はないという。その理由とはーー。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

●2020年に「色鉛筆」利用不可に

受刑者が服役する刑務所と、死刑囚や裁判中の被告人らが収容される拘置所では、使用できる物品が法務省の訓令によって細かく定められている。

法務省は2020年、この訓令を改正し、拘置所で鉛筆削りや色鉛筆が使えなくなった。

大きな影響を受けたのが、福岡拘置所に収容されている奥本章寛(あきひろ)死刑囚(36)だった。

●絵をやめ精神的に落ち込み

奥本死刑囚は宮崎市内で2010年に家族3人を殺害した事件で死刑判決を受けた。

その後、独学で絵を描くようになり、それをカレンダーなどにして販売し収益の一部を遺族に送ってきた。

しかし、代理人を務める黒原智宏弁護士によると、筆圧の強弱や重ね塗りによって多様な色の表現ができる色鉛筆が使えなくなったことで、奥本死刑囚は絵を描くことをやめ、精神的に落ち込んだ状態になった。

法務省は色鉛筆の代わりにカラーシャープペンシルを使えるようにしたが、すぐに芯が折れるため使い物にならなかったという。

●2021年に国を提訴

奥本死刑囚は、拘置所で色鉛筆を使えなくしたことは表現の自由の侵害だとして、2021年に国を相手に訓令の取り消しを求めて東京地裁に提訴した。

奥本死刑囚の訴えは一審、二審とも退けられたが、法務省は2024年1月、再び訓令を改正し、色鉛筆の使用を復活させた。

法務省によると、全国の刑事施設で取り扱っているカラーシャープペンシルのメーカーが生産を終えるという話があったため、鉛筆削りを使わなくても良いタイプの色鉛筆を使えるようにしたという。

●ダーマトグラフでは理想の色出せず

黒原弁護士によると、奥本死刑囚が実際に使えるようになったのは「ダーマトグラフ」という、周りのひもをはがしながら使用する色鉛筆だという。

ただ、以前は24色の色鉛筆が使えていたが、今回の訓令改正後は12色のダーマトグラフしか使えず、思い通りの色合いを出せないため、絵を描くことを再開できていないという。

黒原弁護士は「色鉛筆が使えるようになったことは一歩前進で歓迎していますが、描くことは表現なので、本人が使いたいものが与えられるべきです。元通りにしてほしい」と話している。

色鉛筆を禁じられた「絵画で償う死刑囚」、再び使えるように 色数の半減には不満、表現追い求め