Tsunagari Daisuki Club “Galileo Galilei×BBHF”
2024.3.21 EX THEATER ROPPONGI

Galileo Galilei・尾崎雄貴(Vo/Gt)が主催し、BBHFを対バンに迎えたスプリットツアーという今回きりかもしれない“対決”、しかも札幌、大阪、東京を巡るツアー『Tsunagari Daisuki Club』。ここではファイナルの東京公演を振り返る。それにしてもだ。Galileo Galileiが7年ぶりのアルバム『Bee and The Whales』をリリースしたのが昨年5月で、再始動ツアーのファイナルが6月下旬。まだ1年経っていない。その後、11月にはツアー『Galileo Galilei Tour 2023 "WINTER HARVEST" -冬の収穫祭- 』を行い、その時点ですでに次のアルバム2作同時リリースを宣言している。BBHFはというと、昨年3月にEP『4PIES』をリリース。12月には「エデンの花」をリリース、初のビルボードライブを開催した。しかも今回のスプリットツアーの初日には新曲「戦場のマリア」をリリース。新曲を聴かせることが目的ではないにしろ、両バンドの溢れる創作意欲やバンドとしての勢いがこスプリットにも現れていることに異論はないだろう。

Tsunagari Daisuki Club “Galileo Galilei×BBHF”

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“対決”の狼煙は彼らを古くから知るFM802の番組でも馴染みのDJ大抜卓人のタイトルマッチ風のMCでスタートした。先攻はBBHF。1曲目は強烈な白いバックライトも相まって、荒ぶる魂を叩きつけるBird Bear Hare and Fish名義時代の「ウクライナ」から始まった。<君の好きな曲はやらない 彼らはやらないよ>という一節が、今この目の前のステージでは対決姿勢のように思えてくるから妙だ。一気に最近のナンバーである「やめちゃる」につなぐが、UKロックバンド的なシニカルさがDAIKI(Gt)のエッジとひんやりしたギターサウンドで立体化する。テンポこそ走っていないが、感情は畳み掛けてくる。

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BBHFです。先輩バンド、Galileo Galileiを僕の手であやめに来ました」という雄貴のMCに笑いが起きる。続いても『4PIES』から「メガフォン」。ハンドマイクで自由に動く雄貴の佇まいが、派手なアクションをしていないのに先のMCのせいかやんちゃな暴君に見えてくる。ドロップアウト気味でヤングブラッドなロックの醍醐味というべきか。だが、そのムードもサポートの大久保淳也(Sax/Fl)のロングトーンから柔らかく溶けて「君はさせてくれる」に移ると、バンドにポップスターの色気すら醸成されてくる。サポートのYohey(Ba/Newspeak)が弾くシンセベースや音数を研ぎ澄ましたアレンジの「死神」では死神と対峙する歌詞と相まり、マタドールのような雄貴のパフォームが演劇的に映る。さらに「死神」で描かれた人生が生活へと主題を移すようだった「僕らの生活」への接続も見事。DAIKIと雄貴のユニゾンするリフ、そこに重なる大久保サックスの織りなす前向きさと感傷が相まった響き、それはまさにBBHFのものだった。6曲終えて、雄貴が「もっと早くMCするはずが殺気だってここまで来てしまいました。今日はGalileo GalileiBBHFを同じステージで見るという思い出をみんなで共有できればと思ってます」と、フラットに趣向を話した。

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後半は全身で集中して聴き入るタームに。尾崎和樹(Dr)のラテン的でもありアイリッシュミュージックなどのフォーキーさも融合したリズムが際立つ「花のように」、音数を研ぎ澄ませた「真夜中のダンス」ではグルーヴがじわじわとフロアに広がり、オーディエンスをゆらゆらと揺らしていく。アルバム『Family』からの選曲が次の「涙の階段」まで続き、ひと連なりの旅のような体感を醸し出していた。さらに君と僕の物語は続く「疲れてく」での雄貴のボーカルとSEのコーラスが醸し出す声が作るオーケストレーションのような響きでピークに達した。人間の精神に潜む真理が言葉と音で明らかにされていくような音楽性、これはやはりBBHFの強みだろう。

感情が溢れるような大きな拍手の後、雄貴が「BBHFは今、やんちゃしたい時期で。遅いけど」と話し、新作をまとった形で年内にリリースしたいと語り、ツアーも発表。ラストは1曲目と同じくBird Bear Hare and Fish時代のナンバー「Work」。青年が出会う様々な逡巡が明度の高いサウンドに昇華されていくオリジナリティに深く感じ入った。

 

転換も暗めの青いライトが照らされたまま行われ、ギターとシンセで作られたと思しきSEは海のイメージを作り出す。まさにGalileo Galileiのステージへの幕間にぴったりだ。程なくGalileo Galileiのメンバーが登場すると、イントロのSEに歓声が上がる、「リジー」だ。バンドアンサンブルが入ってくると、瞬時にBBHFとのサウンドの違いが鮮明になる。この曲の包容力や優しさのせいもあるけれど、特にギタリストのカラーの違いは鮮明で、岩井郁人(Gt/Key)のシューゲイズ色の昇華の仕方は際立っている。加えて、雄貴がフロアに向かって開かれたパフォームをしているのも顕著な違いだろう。

Tsunagari Daisuki Club “Galileo Galilei×BBHF”

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Galileo Galileiです。優しいGalileo Galileiです」と、冗談めかした第一声。肩肘張らないポップバンドの趣きは大久保サックスが大活躍する「あそぼ」へ繋がり、ステップを踏む雄貴につられる感じで自由に揺らせる人が続出し、中には高くジャンプしている男性も見受けられた。同じボーカリストなのだが、歌唱のアウトプットの種類が違う印象も受ける。サビの<遊ぼう>のロングトーンに含まれる祝祭の響き。歌うほどに調子を上げているようだ。さらに「バナナフィッシュの浜辺と黒い虹」でエネルギーを素直に放出させる様は先輩バンドがノリのいい曲で対抗してきたような、ワンマンでは感じない面白さを個人的には感じ取ってしまった。しかも、再始動後の大久保サックスをはじめとした大人なアレンジが新旧のナンバーをお同じ俎上に乗せているのも頼もしい。

「一個前のバンドが相当殺気立ってましたけど、僕らは音楽で争いたくないんで、今日で仲良くなりたいと思います。BBHFは挑戦者だから殺気立ってたのかな」と話す雄貴はこのレアなスプリットの機会を誰より楽しんでいるようにも見えたが、「めちゃくちゃハードでもうやりたくない」と本音も漏らす。異なるバンドのフロントマンであり、尾崎雄貴という一人の表現者である彼が見えるという意味でも、二度とないドキュメントになっている。

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強烈な白いバックライトが始まりの合図のように「ノーキャスト」が始まり、自然とクラップが起こる。<運命を盗み取り 書き直せる>と歌う力強さを獲得した今のGalileo Galileiを祝うようなクラップだ。そしてアトモスフェリックなシンセレイヤーで構成される「ピーターへ愛を込めて」へ。生音とエレクトロニクスの有機的な交差はそれそのものが会話のよう。岩井と岡崎真輝(Ba/Key)、もっと言えば和樹も大久保も含めた全員のユーティリティプレイヤーぶりが発揮された。

この日のGalileo Galileiセットリストでファンが歓喜した流れが、アルバム『ALARMS』からの「フラニーの沼で」と「処女と黄金の旅」だったのではないだろうか。インディロックの極みと言えそうなメロディラインや輝くギターサウンド。音のレイヤーは厚いのにどこまでも透明なアンサンブルで、これはこの時期の楽曲ならではのテイストだ。瑞々しくて無謀な恋が走り出すあの感じ。変わらないイノセンスにファンも大いに湧き立っていた。

Tsunagari Daisuki Club “Galileo Galilei×BBHF”

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しかし驚きはこの2曲で終わらず、雄貴が弾くざらついたリフに、歓声ではなく、驚きが音になったような声がここで発された。それも無理はない。よもや演奏される日がくると誰も想像していなかった初期のナンバー「SIREN」だったのだから。衝動と焦燥と少しの諦観がないまぜになったようなこの曲をもうずいぶん大人になり、圧倒的に歌えるようになった雄貴にしろ、和樹にしろ、最初のGalileo Galileiに存在した芯を2024年の今の演奏で観て、聴いているという実感が凄まじかった。意外な選曲に驚き、心酔したファンの反応が大きく長い拍手だったことにも感銘を受けてしまった。対バンという意味では先輩バンドは切り札を出してきたとも言える。

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ラストはシューゲイズギターが星雲のように空間を埋めて始まる「星を落とす」が、どこかの空とつながるように響き渡る壮大なエンディングを彩った。この日の選曲だけでは語り尽くせないのは重々承知の上で、それでもGalileo Galileiというバンドは自由を求めて生きる人間の成長をその都度ビビッドに描いてきたと感じる。透明な音の粒が私たちに降りかかる時、それは確信に変わった。

Tsunagari Daisuki Club “Galileo Galilei×BBHF”

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アンコールでは両バンドのメンバー全員が集まり、7人でBBHFの「黄金」を選曲。岩井の弾くピアノや、岡崎、Yoheyの2本のベースが醸す奥行きが、オルタナティヴフォークな味わいのこの曲をさらにユニークなものにしていた。そして恒例の洋楽の日本語意訳カバーは超がつくほどポピュラーザ・ビートルズの「Hey Jude」だと雄貴が告げると、小さなどよめきが起きた。雄貴はラストのリフレインで「音楽に酔っ払いましょう」と言っていたが、意訳のクオリティが素晴らしく、聴き入ってしまう。カバーを超えた熱量が生まれ、“ナーナナナナナナー”の大合唱はその情景がもう音楽でしかなかった。オーディエンスを含む全てが音楽だったのだ。

「人とでないと音楽できないんです。仲間とか友達とも違う、バンドメンバーと音楽を作っていくことが僕にとっては大切なプロセス」と言った雄貴の言葉がこのスプリットを実現した背景を最も的確に示していた。その事実を提示した上で、受け取り方は自由、それが今回の『Tsunagari Daisuki Club』だったのだ。

なお、Galileo Galileiは全国7都市のツアー『Tour M』を9月の札幌からスタートさせる。


文=石角友香
撮影=Masanori Naruse

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