翼を小刻みにパタパタと動かす。これは日本にも生息する野鳥のシジュウカラにとって、「お先にどうぞ」を伝えるジェスチャーなのだという。
東京大学のチームによるこの研究は、鳥の翼はただ空を飛ぶためだけのものではなく、メッセージを伝えるコミュニケーションにも使っていることを明らかにしたものだ。
この発見は、ジェスチャーによるコミュニケーションがヒトや類人猿だけでなく、鳥類でも行われていることを裏付けるもので、ジェスチャーだけでなく、私たちの言語の起源や進化をひも解くヒントになるという。
手を振って挨拶をしたり、手招きしてこっちにきてと伝えてみたりと、ジェスチャーは私たちにとって大切なコミュニケーションの手段だ。
それは人間だけでなく、チンパンジーやボノボのような類人猿でも行われている。ならば、他の動物たちはどうなのか?鳥はどうだろう?
鳥で、空を飛ぶ以外にも、翼を動かしている姿が観察されているが、それはジェスチャーと呼べるものなのだろうか?
そこで今回、東京大学の鈴木俊貴准教授と杉田典正特任研究員は、野鳥であるシジュウカラの観察を続けた。
その結果、翼をパタパタと動かしているのにはきちんと理由があることがわかった。シジュウカラも翼を使ってジェスチャーでメッセージを伝えていたのだ。
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餌をくわえて翼をパタパタさせてメッセージを送るシジュウカラ / image credit:Suzuki and Sugita, 2024/ Current Biology
シジュウカラの翼パタパタは、お先にどうぞのメッセージ
日本を含む東アジア、ロシア極東に生息する野鳥、シジュウカラは春になるとつがいを作り、樹にあいた小さな穴の中に卵をうみ、夫婦協力してヒナにエサを運ぶことで知られている。
鈴木准教授らは、2023年5~6月にかけて長野県北佐久郡の森に巣箱を取りつけ、その中で子育てをするシジュウカラのつがい(合計8組)を観察してみた。
巣箱の入り口は小さく、2匹が同時に入ることはできない。研究チームは、そんな巣箱を利用するシジュウカラが面白いことをしているのに気がついた。
シジュウカラが2匹同時にエサを持ってやってくると、片方が翼を小刻みにパタパタさせるのだ。すると、もう片方が巣箱に入っていく。
この行動をするのは大抵がメスで、それを見たオスが先に巣箱へと入っていく。メスのこの仕草が観察されたのは合計24回。うち23回はオスが先に巣箱に入って行った。
だがメスがこの行動を取らなかったとき、先に巣箱に入るのはメスだ。また1匹だけで巣箱に戻ってきたとき、翼パタパタは1度も行われなかったという。
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シジュウカラは何らかの目的(巣箱に先に入るよう伝える)のために翼を振るわせ、目的が達成される(オスが巣箱に入る)とこの行動をやめる。
これはジェスチャーの定義を満たすもので、このことから翼パタパタは「お先にどうぞ」を意味するジェスチャーであると結論付けられている。
ジェスチャーや言語の進化を理解するヒントに
今回、シジュウカラの翼はただ空を飛ぶだけでなく、コミュニケーションにも使われることが明らかになった。これはジェスチャーの進化の歴史を紐とくヒントになるかもしれない。
これについて鈴木准教授は、次のように説明する。
ヒトの場合、二足歩行でまっすぐ立てるようになり、両手が自由に使えるようになったことが、ジェスチャーの進化につながったという仮説があります。
同様に、枝にとまった鳥は翼が自由になります。これがジェスチャー・コミュニケーションの発達をうながしたと考えられます
研究チームは今後、ジェスチャーや鳴き声によって鳥が何を話しているのか解読していく予定であるそうだ。
それは動物の言葉だけでなく、人間自身の言語のはじまりと進化を知るヒントでもある
この研究は『Current Biology』(2024年3月25日付)に掲載された。
References:Wild bird gestures 'after you': Japanese tit uses wing movements for gestural communication / シジュウカラはジェスチャーを使う―翼をパタパタ「お先にどうぞ」― | 東京大学 先端科学技術研究センター / written by hiroching / edited by / parumo
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