国立アートリサーチセンター(略称:NCAR、センター長:片岡真実)は、国内の美術館・博物館(ミュージアム)で働く職員や、障害のある方を含むミュージアム利用者のために、具体的な事例などを解説した冊子「ミュージアムのから知る!学ぶ!合理的配慮のハンドブック」を制作しました。この内容は、3月28日からNCAR公式サイトにて公開するほか、国内の美術関係者等からの要望に応じて配布する予定です。
サイトURL:https://ncar.artmuseums.go.jp/reports/accessibility/post2024-941.html

 NCARラーニンググループでは、アクセシビリティ事業の一環として、昨年8月に「DEAI(であい)リサーチラボ」を発足しました。「DEAI」とは、『D』Diversity(多様性)/『E』 Equity(公平性)/『A』Accessibility(アクセシビリティ)/ 『I』Inclusive(包摂性)の4つの文字の頭文字をつなげた略語です。当リサーチラボは、外部から有識者を迎え、世界的な潮流となっているDEAIの概念についてリサーチするとともに、多様な人々が美術館の文化リソースを利用できるための具体的な方法や要件を検討し、美術館運営に資する提案を行うことを目的としています。

 今年度は、全国の美術館・博物館の具体的事例をもとに「ミュージアムにおける合理的配慮」について理解を深める活動を行い、それらをまとめた「DEAI調査レポート※」を公式サイトにて公開しています。本ハンドブックは、DEAIリサーチラボの活動を通した調査内容等をまとめ、発行することで、合理的配慮への深い理解を促進し、現場における行動変容につなげることを狙いとしています。今後は、このハンドブックを活用した研修・レクチャーの実施のほか、さらに調査対象を拡大して全国のミュージアムにおける事例を可視化していくことを計画しています。
※「DEAI調査レポート」URL https://ncar.artmuseums.go.jp/reports/accessibility/research    

  • ハンドブック概要

内容:「合理的配慮」の前提となる考え方の概念やポイント説明、図など
   「合理的配慮」実現までの3つのプロセス
   ミュージアムの事例から考える合理的配慮、「合理的配慮」が実現されなかった事例
   参考文献・ウェブサイト
仕様:B5 変型/40 ページ/無線綴じ
対象:国内の美術館・博物館(ミュージアム)で働く職員(受付・看視・警備業務に従事する職員を含む)、

   関係者、障害がある方を含むミュージアムご利用者 など

  • ハンドブック制作の背景

 日本では2000年代以降、「共生社会」の実現を目指した関連法が整備されてきました。2006年に 国連総会で「障害者権利条約」が採択され、初めて「合理的配慮」という概念が明文化され、日本では2013年6月に「障害者差別解消法」が制定されました。さらに法改正により、事業者における「合理的配慮」の提供が、公的施設だけでなく民間事業者も含め完全義務化され、2024年4月1日から施行されます。その他に2018年の「文化芸術基本法」改正で基本理念として「年齢、障害の有無または経済的な状況にかかわらず等しく文化芸術を鑑賞できるための環境の整備」が重要視されました。また、2022年にはICOM(国際博物館会議)のミュージアムの新定義に「誰もが利用でき、包摂的であって (accessible and inclusive)」という言葉が含まれ、多様性への認識が高まりつつあります。「博物館法」もこの国際的潮流を背景に改正されました。
 このように、世界的にも日本社会においても、ミュージアムや文化芸術の果たす役割が明示されるようになり、「合理的配慮」の考え方を含め「DEAI」の概念は、もはや世界標準(グローバルスタンダード)になっていると言えます。しかしながら、国内の美術館・博物館において「合理的配慮」への理解はまだ充分に浸透しておらず、障害がある方などに対する保障として充足しているとは言い難い現実があります。
 そうした課題に対応するべく、NCARでは「DEAIリサーチラボ」を立ち上げました。ラボメンバーが約半年間かけて、ミュージアムで実際に起こった「合理的配慮」の事例を集め、その事例をもとに「ミュージアムにおける合理的配慮」について検証と議論を重ねてきた内容がまとめられています。

  • 2023年度DEAIリサーチラボ メンバー

調査員:高尾戸美(元多摩六都科学館 特別研究員・多文化共生コーディネーター
    /合同会社マーブルワークショップ代表)
    亀井幸子(元徳島県立近代美術館 エデュケーター)
    柴崎由美子、高橋梨佳(NPO 法人エイブルアージャパン
プロジェクト進行:鈴木智香子(国立アートリサーチセンター 研究員)
         伊東俊祐(国立アートリサーチセンター 客員研究員)
         中野 詩(国立アートリサーチセンター 研究補佐員)

  • NCARラーニンググループのアクセシビリティ向上の活動について

 ラーニンググループでは、国立美術館のアクセシビリティ向上を推進し、今回の取り組みのほか、昨年3月には誰もが使いやすい美術館に向けた取り組みとして、発達障害のある方とその家族のための美術館案内「Social Story(ソーシャルストーリー) はじめて美術館にいきます。」を制作しました。
 また、情報保障の基盤整備も進めています。例えば、NCAR公式サイト内の「ラーニングチャンネル動画集」内にある国立美術館の取り組みを紹介する動画は必ず音声字幕を付けており、一部は視覚障害者の方も映像の内容を理解するための「バリアフリーテキスト版」を公開する予定です。加えて、教育普及事業においては手話通訳や文字通訳を付けるサポート事業も行っています。

配信元企業:独立行政法人国立美術館 国立アートリサーチセンター

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