腎臓がんのため「もって今春」と余命宣告されながら、Xやブログ、YouTubeで自身の病状などを発信するガンプラモデラー・pajaさん(@paja7777)。今年1月、同氏のインタビュー記事を公開。多くの励ましの声が寄せられるとともに、「#pajaさんを応援しましょう」というハッシュタグが生まれたり、同氏制作のジオングをベースに新たな作品が生まれるなど、応援の輪が広がっている。七竈アンノ名義でマンガ家として活躍中の本澤友一郎さん(@nanakamado_anno)も、そのジオングをモチーフにイラストを制作。自身も腎がんを患った経験があるという本澤さんに、本作制作の想いを聞いた。

【写真】抗がん剤の副作用と闘いながら制作…本作のモデルとなったpajaさん「思い出のジオング」

■「もって春まで」、余命宣告されたモデラーの作品を偶然見かけ一目惚れしたマンガ家

 pajaさん制作の「ジオング」は、息子から初めてもらったクリスマスプレゼント。そのため気合を入れて制作し、親友とともにコンテストに出品し、見事賞を受賞。その後、結婚記念日のプレゼントとして、妻に贈った思い入れの深い作品。

――本作を描かれたきっかけは、1月に公開されたORICON NEWSの記事だったとお伺いしました。

【本澤友一郎】はい、偶然誰かのリポストが流れてきて、記事の見出し画像にあったジオングに目を惹かれました。

――pajaさんのジオングのどのあたりに惹かれましたか?

【本澤友一郎】完成度の高さです。RGは本当にディテールが多く塗り分けるのはかなりきついと思うのですが、パーツのディテールから逃げずにきっちりと塗り分けられ、きちんと仕上げられていました。本当にきれいで素晴らしく、こんなふうに作れたら自分もコレクションの横に並べておきたいなと思いました。

――ご自身はこれまで、ガンプラを楽しんだり、あるいは描かれたりしてきたのですか?

【本澤友一郎】僕はガンプラをほとんど作ったことがなく、もっぱら完成品に手を入れたりという程度ですね。メカが苦手で、モビルスーツ(MS)を本格的に描いた経験もほとんどないです。

■自身も1月に初期の腎がんに「記事の中のpajaさんの境遇とそこに向かう姿勢が重なった」

――話を本作に戻しますが、記事を読んだ後にイラスト化しようと思われたのは、どのような理由からですか?

【本澤友一郎】とにかく自分が描きたいと思ったということが全てです。自分が作品に感じたことをどうにか形にできないかと思って描き始めました。また、記事のなかにあったpajaさんの大変な境遇と、そこに向かう姿勢が今の自分に重なり、果たして自分はこう生きられるのかと考えました。pajaさんのように模型を通じて生きることに向き合う人がいる。自分は絵を描くことでならその模型の魅力を伝えることができると考えたことも、きっかけになりました。

――Xではご自身も腎がんであることを明かされていました。差し支えなければ、病状についてお伺いできますか?

【本澤友一郎】今年1月半ばに結石で搬送され、その際の検査でごく初期の腎がんが見つかりました。腎がんは症状も出ず、かなり進行するまで発見が遅れがちな本当に怖い病気です。自分は本当にたくさんの幸運が重なってすぐに切除ができたので、完治の可能性が大きくなりました。

――ご自身も病気を経験されたわけですが、pajaさんの活動についてどのように思いますか?

【本澤友一郎】pajaさんの活動は本当にすごいことです。とても僕には同じことはできないと思います。

――作品のお話にもどりますがこのジオングは「スカート」の中が見え、より巨大な印象を与える下からのアングルで描かれました。このアイデアはどのように着想したのですか?

【本澤友一郎】RGジオングの大きな見どころは、この分割するスカートとブースターの密度感だと思います。ジオングはやはり圧力を感じさせる機体であって欲しいので、上からプレッシャーをかけるように、こちらを見据える姿でここを目立たせるように描きました。ブースター周りのディテール、パースの取りにくいスカートや円の連続の形状はかなりメカの苦手な身には堪えましたが、なんとか形にできてよかったです。

――「pajaさんのジオング」を描くにあたって、どのような気持ちで制作に臨まれましたか? また、どんなところに苦労しましたか?

【本澤友一郎】「斜に構えず」「ディテールから逃げずに描き切る」という2つを意識し描きました。苦労したことは…、メカの上手い人はディテールを飛ばすのが本当に上手いと思うんですが、下手な自分はそれはできない。なので、とにかく描き切ることで絵の魅力を上げることに集中しました。

■つながる“ガンダムの絆”「みんな『いいことしよう』と思っているわけじゃない。でもそれが素敵なこと」

――完成してみて、いかがでしたか?

【本澤友一郎】「できた…」って感じでした。正直、pajaさんの塗装感はあまり出せなかったかなと思いますが、私が感じた魅力は込められたかなと思います。

――pajaさんに本作について伺ったところ「うれしくて、うれしくて、身体が痛い中、こんなに素晴らしい作品を作って頂き本当にうれしいです。(本澤さんを含め)たくさんの方から応援してもらえてます。だから、まだまだ頑張れます!」とコメントを寄せてくれました。

【本澤友一郎】全く連絡もなしに勝手に描いていたのですが、完成作をご覧になったpajaさんが喜んでくれて本当に良かったです。また、個人的にも「メカ」を敬遠していましたが、このジオングがメカ絵の苦手感から解放してくれ、次に何を描こうか考えるのが楽しくなりました(笑)。好きなアレンジでドムとかを描いてみたいですね。

――ご自身や、先日CG合成でア・バオア・クー」を生み出したうすたまさん(@zichi3150)のように、pajaさんの作品をもとに新たな作品が生まれ、それを同氏が励みとして受け取る素晴らしい連鎖が生まれています。また新たな作品ではなくても、「#pajaさんを応援しましょう」というハッシュタグが生まれ、ガンプラモデラー、ガンダム好きの方々がそれぞれの形でpajaさんを励ましています。こうした“ガンダムの絆”をどのように思われますか?

【本澤友一郎】きっとみんな「いいことをしよう」と思ってるわけじゃないんだと思います。好きなことを好きなようにやっていて、それで知った人の中に大変な境遇の人がいたら、「好きなことでいっぱいにしていこうぜ!」くらいの感じじゃないかなと。でもそれが素敵なことだと僕は思います。

『ジオング』完成形 制作・画像提供/本澤友一郎氏 (C)創通・サンライズ