こんにちは。伝説のレディー暴走族雑誌『ティーンズロード』3代目編集長をやっていた倉科典仁と申します。ティーンズロードは1989年に創刊され、90年代には社会現象に。現在は廃刊となっておりますが、そんな本誌に10年以上携わっていました。

◆毎日が“戦場”の編集部、暴走族から鳴り止まない電話…

 ティーンズロードが売れ始めた頃の編集部は、まるで「戦場」だったことを今でも覚えています。毎日、段ボール2箱分の手紙やハガキが届き、全てに目を通していたことは以前にもお伝えしましたが、じつはそれ以上に“大変なこと”がありました。

 それは、様々なところから掛かってくる電話の対応です。簡単にお話すると、まずは暴走族からの取材のお願い(オファー)です。

「〇〇県の〇〇連合〇〇っていうんだけど、ウチらのチーム取材してくんない?」

 そんなオファーの電話が1日に何件も掛かってきます。当時は携帯やSNSなどはないので、彼ら暴走族の詳細をメモして確実につながる家の電話番号を聞きます。

 おそらく1ヶ月に100件近くはオファーが届いていたので、写真を送ってもらい、その中からスゴそうなチームをチョイスして撮影スケジュールを決めていくという流れです。

 ただし、すでに何ヶ月も先までスケジュールが詰まっているので、「取材には行くんだけど、雑誌に掲載されるのは半年~1年後ぐらいになるよ」と言って、納得してもらったうえで現地に飛んでおりました。ひと月に3回~4回ぐらい飛行機に乗って地方に行くということもしばしばです。

◆クレームや警察からの問い合せも

 そんなオファーの電話はいいのですが、大変だったのはクレームです。

「この前ティーンズロードに載った〇〇だけど、チーム名の漢字が間違ってんだけど、どーしてくれんだよ!」
「〇〇チームより扱いが小さいのはどーいうことだよ!」
「〇〇チーム撮影したらしいけど、絶対載せんなよー、もしも載せたら編集部まで襲撃に行くからよ!」

 きちんと対応してあげると結局は納得してくれるのですが、当時どの編集部員も電話を取った瞬間にクレームだとわかると、苦い顔をしていたのを覚えています。

 また、雑誌で扱っているのが暴走族だけに、こんな電話も……。

警視庁の〇〇と申しますが、ティーンズロードの◯月号に載った〇〇チームの〇〇という子に関して調べたいので、編集部にお邪魔して本を見せていただきたいのですが」

 何らかの事件を起こした暴走族メンバーを調査するために、撮影した日時などの詳細を聞きたいということでしょう。

暴走族のたまり場だったティーンズロード編集部

 そんな毎日が戦争のような編集部で最もスゴかったのが、暴走族たちが編集部に遊びに来ることです。

 多いときには週3~4チーム、少ないときでも1〜2チームが「編集部を見てみたい」と言って来るわけです。

 編集部としては、むげに断ることもできません。編集作業の合間を縫って手の空いている編集部員が対応するという感じでした。

 ただ、ときには同じ日に同じ地元の“敵対チーム”同士が遊びに来たいという連絡が来たりもするので、時間をズラしたり、別の日にリスケしてもらったり、さりげなく気を遣うこともありました……。

◆リアルに“読者参加型”メディアだった

 いま振り返ってみれば、毎日がバタバタではありましたが、彼らが編集部に遊びに来てくれてコミュニケーションを取ることができたおかげで、情報収集にもなりましたし、リアルな企画が誕生したと言っても過言ではありません。

 とにかく色んな意味で「活気がある編集部」であったことは間違いないでしょう。

 私が編集長を務めていた期間には、編集部をスタジオ代わりにティーンズロードビデオの収録やちょっとしたオフショット企画などもやりました。

 汚い編集部だったんですが、読者たちにとってはむしろリアルを感じられることから人気でしたね。今の時代では考えられないことですが、編集作業をしているその横で暴走族たちがお菓子を食べながらバックナンバーを読んでいる姿は、まさに「昭和的」編集部かもしれません。

 もしかすると令和の“読者参加型”メディアにとっても大切なのは、“どのくらい取材対象者と近い存在になれるか?”なのではないかと思ってしまいます。

<文/倉科典仁(大洋図書)>

【倉科典仁(大洋図書)】
伝説レディー暴走族雑誌『ティーンズロード』をはじめ、改造車だけを扱うクルマ雑誌『VIP club』や特攻服カタログ『BAMBO』、渋谷系ファッション雑誌『MEN’S KNUCKLE』など、数々の不良系雑誌の編集長を務めて社会現象を起こす。現在は、大洋図書発行の実話誌『実話ナックルズ』のYouTubeチャンネル「ナックルズTV」や、ギャル男雑誌『men’s egg』をWebで復活させたYouTubeチャンネル「men’s egg 公式」のプロデューサーとして活躍中。

―[ヤンキーの流儀 〜知られざる「女性暴走族」の世界〜]―


編集部員やスタッフたちでヤンキーコスプレをして撮影した写真