シンガポールエアショー2024は、複数の中国企業が初めて参加したことでも注目を集めました。実機を展示し、最新旅客機をデモ飛行させるなど、精力的に活動したところもありますが、その対応力、営業姿勢には企業ごとに差があったようです。

世界市場へと動きだした中国の航空企業

2024年2月にシンガポールで開催された軍事・航空分野のトレードショー「シンガポール航空ショー2024」では、複数の中国企業が初めて参加し、注目を集めていました。なかには、軍用機メーカーのAVIC(中国航空工業集団)や、民間機メーカーのCOMAC(中国商用飛機)といった有名企業も含まれていました。

AVICが手掛けた代表的な軍用機というと、ロシアSu-27フランカー戦闘機を元に開発されたJ-11や、中国国産ステルス戦闘機J-20などが挙げられます。言うなれば、アメリカのロッキード・マーティン社や、フランスダッソー社のように、自社で戦闘機開発を行える高い技術力を持つ企業だと形容できるでしょう。

一方のCOMACは、従来存在した複数の会社や航空機生産部門を統合するかたちで誕生した民間機製造会社です。今回のシンガポール航空ショー2024では、C919とARJ21という2機種を持ち込んで、地上展示だけでなく、会場上空でのデモフライトも行いました。

これら中国メーカーの実機展示は、今回のシンガポール航空ショー2024の目玉にもなっていました。しかし、現地を取材した筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)が感じたのは、対応姿勢における両社の明確な温度差です。

軍民でアピール姿勢に明確な差が

AVICは独自開発した攻撃ヘリコプターZ-10MEの実機を展示したほか、屋内に大規模な企業ブースも設けるなどしていました。そこでは、同社が開発・生産する航空機の模型が軍民問わずズラリと並べられ、中には輸出向けに開発が進められているステルス戦闘機FC-31や、無人偵察・攻撃機GJ-11といった目新しい機体もありました。

しかし、そんな充実した展示内容とは対象的に、ブースを訪れるメディア関係者に対しては特に対応することもありませんでした。そのため、メディア関係者ができたことといったら、それらの写真を撮影することくらいだったのです。

筆者はブース内のスタッフ何人かに声を掛けましたが、「日本のメディア」だと伝えると、手のひらを返すかのように「ごめんなさい、質問には答えられません」と苦笑いされました。

AVICは対応する人物を厳格に分けているようで、実際に兵器輸出に関わる軍人や関係者などは、ブース奥のクローズドな商談室に案内し、そこで対応していたようです。

一方、COMACは民間航空機を主体に開発している会社のためか、スタッフは気さくに応じてくれました。ブース内には自社機の模型のほかに、それに関する技術的な説明を加えたパネル類も展示され、航空機に関するパンフレットも用意されていました。

また、展示されていたC919とARJ21の機内取材をリクエストすると、わざわざ別の責任者を呼んできてくれ、対応可能か確認までしてくれました。最終的に定員オーバーで実現しませんでしたが、こうしたスタッフの対応は「自社製品を広く知らしめたい」という意識を感じさせるもので、結果云々は別にして、極めて好感の持てるものでした。

中国企業のエアショー参加どう決まった?

各国のメディア関係者も今回の中国メーカーの初参加は気にかけていたようで、主催団体に対する質疑応答でも、「中国企業の参加はどのような経緯で決まったのか?」という問いがメディア側から出たほどです。それに対し、主催団体の回答は「中国企業の参加は、他の一般企業と同じように相手側から申し込みがあって実現した」というものでした。

つまり、いずれの中国企業も自らの意志でトレードショーに参加しており、企業ごとで展示内容や取材対応に温度差こそあるものの、そこでのPRを通じて海外への自社製品の輸出を目指しているのは確かだといえるでしょう。

AVICは、2023年にパリで開催された世界最大の航空関係のトレードショーである「パリ国際航空ショー」にも初参加しています。新しいステルス戦闘機であるFC-31は輸出を念頭においた機体とも噂され、実機を展示した攻撃ヘリZ-10MEはすでに数機がパキスタンへ試験的に輸出されています。

COMACも自社製旅客機の海外販売を狙っており、シンガポールへ飛来したC919やARJ21はトレードショー後、ベトナムラオスカンボジアマレーシアインドネシアを巡るアジア実証飛行のツアーを行っています。海外の商業運航に必要な欧米機関による型式証明の問題も、C919に関しては欧州航空安全機関との協議が進められており、それによっては今後の海外セールスが拡大していく可能性もあります。

イメージ向上が10年後、花開くか?

一昔前までは中国製といえば「安かろう悪かろう」というイメージがありましたが、近年では電子機器や自動車などで高い評価を得るまでに至っており、昨今は販売だけでなくブランドイメージの向上にも努めています。

今回のシンガポールエアショーへの出展は、航空分野においても中国企業の進出が進む予兆だといえるかもしれません。中国企業はトレードショーや海外ツアーなどで海外の当事者たちと直接交流を深めています。そのような動きは、すぐに結果が出なくとも、将来の潜在的な顧客を増やすことに繋がります。

日本国内では、AVICやCOMAC の機体について、一部でネガティブなイメージが強いようですが、こうした地道な活動の積み重ねによって、10年後には世界の航空市場において一角を占めている可能性も充分にあるといえるでしょう。

AVIC独自開発の中国攻撃ヘリコプターZ-10。同機が中国以外のトレードショーに展示されたのは初めてのこと(布留川 司撮影)。