韓国で年を取っても変わらない美しさを意味する“防腐剤美貌”という言葉を生み出したビジュアルもさることながら、演技力で数々のヒット作を生み出してきた俳優ソン・ジュンギ。現在、映像配信サービス「Lemino」では、ソン・ジュンギの出演作を多数配信中。本記事では、「太陽の末裔 Love Under The Sun」「優しい男」「財閥家の末息子~Reborn Rich~」に触れながらソン・ジュンギの名演を改めて振り返っていく。

【写真】背後から女性の肩を抱くソン・ジュンギ

■演技だけではないソン・ジュンギの才能

現在38歳のソン・ジュンギ。出演作が毎回と言っても過言ではないほどヒットし、どんなキャラクターでも安定感のある演技力で“期待を裏切らない、信頼できる俳優”と呼ばれている。現在では韓国を代表するトップ俳優として活動をしているが、彼の才能は演技だけではなかった。

幼少期にはショートトラックスピードスケートの選手として活躍。過去には大田広域市代表として、全国大会にも3度出場するほど将来有望な選手だった。さらに学業も優秀で、韓国の名門大学・成均館大学校経営学科に入学。TOEICも900点超えの成績を残しており、2年生の在学中にKBS 1TV「クイズ大韓民国」に出場して準優勝を果たした。

さらに大学在学中の2008年に映画「霜花店(サンファジョム)―運命、その愛―」で俳優としてデビュー。数々のドラマに出演し、2010年にKBSで放送された人気ドラマ「トキメキ☆成均館スキャンダル」の主要キャストに抜擢されたことで人気俳優の仲間入りを果たした。

同ドラマでソン・ジュンギが演じたク・ヨンハは、プレイボーイながら鋭い観察力と聡明さを兼ね備えている人物。頭脳と美貌を持ち合わせたソン・ジュンギにとって、絶好のハマり役というわけだ。同ドラマは、いまやスター俳優として不動の地位を確立したソン・ジュンギの出世作としても有名で、彼のスター街道はここから始まったと言われている。

しかしヒット作への出演は世に強いイメージを残すことになるが、脱却も一苦労。清純な役で出世した俳優がパブリックイメージに縛られてダーティな役へ挑戦できない…といった話はよく聞く話だ。だが彼の深い洞察で掘り下げられた演技の説得力は、そんな壁を感じさせなかった。

■「太陽の末裔 Love Under The Sun」でソン・ジュンシンドローム

「トキメキ☆成均館スキャンダル」でプレイボーイ役として世に知られたソン・ジュンギ。そんな彼の代表作とも言われるのが、最高視聴率41.6%を叩き出し、アジアで大ムーブメントを巻き起こした「太陽の末裔 Love Under The Sun」だ。

2013年に陸軍へ入隊したソン・ジュンギが除隊後に出演した復帰作品でありながら、特殊部隊に所属するエリート軍人ユ・シジン役というタイムリーな役を演じたことでも話題に。

ソン・ジュンギが演じるユ・シジンは、自分の仕事に強い責任感や使命感をもち、思いやりにあふれた陸軍大尉。兵役後ということもあり、作品に出演するにあたって軍務の経験が役に立ったと彼自身も語っている。駆け引きは一切しないストレートなユ・シジンの愛情表現に、女性ファンがトリコになったのは言うまでもない。韓国やアジアだけでなく世界中で話題を呼ぶヒット作となった。

同作ではストイックで文武両道の完璧な軍人を演じたソン・ジュンギ。「トキメキ☆成均館スキャンダル」や「私のオオカミ少年」といった繊細な演技の印象が強かっただけに、甘い言葉を次々と発するソン・ジュンギの本領発揮ともいうべき、役に入り込んだ演技が見られる一作だ。

■「財閥家の末息子~Reborn Rich~」「優しい男」で見せたソン・ジュンギの“解釈力”

ソン・ジュンギを語るうえで外せない作品といえば、「優しい男」を挙げずにはいられないだろう。自分の人生を棒に振ってでも添い遂げようとした女性に裏切られた男が、さまざまなすれ違いを経て真実の愛を取り戻していくストーリー。

同ドラマでソン・ジュンギは愛する人に裏切られて心が凍りつき、女を騙して金を巻き上げる“ツバメ”の役を演じた。なにより驚くのは、ソン・ジュンギの演技のグラデーションだ。

愛する人を守るために罪をかぶる演技、女性不信になり復讐に燃える冷たい表情、そして最後の最後に描かれる“普通の恋愛”を楽しむ姿。それぞれがまったく別人のような目の色をしており、「月日を過ごすなかで心が変わったのだな」と物語の時間経過に強い説得力をもたらしている。

また2022年に韓国で放送された「財閥家の末息子~Reborn Rich~」では、1987年タイムリープした秘書の役を熱演。会社に忠誠を尽くしていたにもかかわらず切り捨てられ、殺されたのち、会社を経営する一族の末息子として転生する。それからは自分を殺した人間を探し出すために奔走するのだが、なんといっても頭脳を武器に立ち回る演技がドハマりしていた。

「優しい男」でもそうだったが、ソン・ジュンギは表情の操り方が巧みだ。大人の魂が入っていることを悟られないようにしつつ、自分の有能さを会長にアピール。綱渡りのような緊張感のなかで社内政治を牛耳る手管や緻密な伏線も魅力的だが、“策”が思い通りに動いたときにソン・ジュンギが見せる微かな笑みが強烈。強い歓喜を封じ込めた“ドヤ顔”は、視聴者に1発で「計算ずくだったのか!」と知らしめる威力がある。

各役で共通するのは、ソン・ジュンギの深い“解釈力”だ。「この人生を歩んできた人間が、このシーンでどんな表情をするだろうか」の洞察が驚くほど真に迫っているように感じる。先にあげた表情の操作も、「誰にも表情を悟られないように」という重要ポイントを外さないための抑制した演技が目を引くのだろう。

さまざまな役柄を演じ、自身の努力と演技力で数々のヒット作を生み出してきたソン・ジュンギ。2023年第76回カンヌ国際映画祭で脚光を浴びた「ファラン」の主演など、まだまだ勢いが止まらない彼の次回作にも注目していきたい。

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