ジェームズ・キャメロンが絶賛し、オバマ米国大統領も夢中になり、日本でも92万部を売ったという世界レベルの大ベストセラー小説『三体』。

あえて「世界レベル」と書いたのはこれが中国の作家、劉慈欣(リン・ツーシン/りゅう・じきん)による(邦訳のハードカバーで)5冊からなる壮大なSF小説だからだ。中国語の小説で、しかもハードSFというハードルを抱える作品が世界規模のベストセラーになるなど、これまでなかった。

そんな鳴り物入りの傑作SF小説がNetflixでドラマシリーズ化された。それもあのファンタジーの常識を変えた『ゲーム・オブ・スローンズ』のコンビ、デヴィッド・ベニオフ&D.B.ワイスコンビの手によって!

『三体』予告編

これはもう、期待しかない組合せだとはいえ、実のところ問題も山積みではあった。物語の中心となる舞台は中国で、メインのキャラクターもほほ中国人。さらに、描かれる期間は何と400年間にも及ぶ。それをハリウッドのクリエイターが世界仕様でドラマ化するとどうなるのか? 原作ファンの不安はある意味、大きかったのだが、蓋を開けてびっくり! まさに“神業”といいたくなる見事すぎる脚色で、しっかりと世界仕様のSFドラマに大変身していたのだ。

『三体』は、遥か彼方の惑星の、優れた科学力を誇る三体星人が地球に攻め込もうとする侵略SFだ。ただし、彼らの艦隊が地球に到達するのは400年後。その400年の執行猶予期間にあらゆる手段を駆使して殲滅を防ごうとする人類の姿が写し出される。小説は3章からなり、ざっくりいうと過去・現在・未来、地球・宇宙・三体星が交互に描かれる。当然、登場人物も多く、そのメインは舞台に合わせて中国人なのだが、今回の“神業脚本”では舞台をイギリスオックスフォードに変更。メインのキャラクターは中国系やヒスパニック、そして黒人と今どき仕様の人種配分にし、メインの言語は英語になっている。

脚色の大胆さがもっとも表れているのはそのキャラクターだろう。オックスフォード大学卒の仲良し5人組に原作の3章のそれぞれの主人公を当てているからだ。ということはつまり、原作では基本、章ごとにいた主人公が今回の第1シーズンですでにお目見えしているということになる。原作ファン的には名前が中国名から英語名に変更されていることから、物語が進んだ時点でやっと「この人が、原作のあの人なんだ!」と分かる瞬間があり、原作を読んでいるからこそのサプライズにもなっている。また、主要キャラを最初に結集させたことで、原作では第3章に書かれていたエピソードがこの第1シーズンに登場するのだからびっくりだ。

もちろん、映像にも手抜きはなく、原作で気になっていたシチュエーションやアクションも期待を裏切ることなくビジュアル化。VRゲーム仕立てになっている三体星の描写は原作どおりユニークだし、中には戦慄するような殺戮シーンもあり、映像ならではの凄みを感じることができる。

ベニオフ&ワイスは活字と映像というフォーマットの違いを深く理解し、原作ファンには驚きを、未読の人にはユニークすぎるSFドラマの醍醐味を、そして映画やドラマファンにはシリーズものだからこその面白さと迫力のビジュアルを用意してくれたのだ。

昨今、原作と映画やドラマの関係性が注目されているが、その多くは「原作と違うからよくない」や「原作どおりでよかった」という原作至上主義的な意見。が、『三体』はそれとは真逆。原作を換骨奪胎しつつも、原作のエッセンスと印象的なエピソードは残すというやり方を踏襲している。ここまで果敢かつ大胆に振り切った翻案は見たことがない。そういう意味でも非常に刺激的な作品になっているのだ。

配信が始まったばかりだとはいえ、ベニオフ&ワイスはやる気満々。シーズン4まで継続させて小説のすべてを網羅し「原作の美しいエンディング」を映像化したいと言っている。この第1シーズンを観れば、誰もがぜひ続けてほしいと願うはずだ。

文:渡辺麻紀

Netflixシリーズ『三体』独占配信中

Netflixシリーズ『三体』ビジュアル