日本の90年代を代表する岩明均原作のコミックス「寄生獣」が、鬼才ヨン・サンホ監督によるNetflixオリジナルドラマシリーズ「寄生獣 -ザ・グレイ-」として4月5日より独占配信される。リリースに先駆け韓国で行われた制作発表会見には、監督をはじめキャストが勢ぞろいし、撮影秘話と見どころを語ってくれた。

【写真を見る】撮影現場について、チョン・ソニやク・ギョファンら俳優陣からは「緊張感がありながらも楽しさを忘れない空間」と称賛が相次いだ

■“学生のバイブル”として「寄生獣」にのめり込んだヨン・サンホ監督が念願の実写ドラマ化

スーパーで働くスイン(チョン・ソニ)は暴漢に襲われ致命傷を負うが、奇跡的に生還を果たす。恵まれない境遇にいる彼女の親代わりに気遣う刑事チョルミン(クォン・ヘヒョ)は安堵するも、スインの回復に首をかしげる。巷では、人間を宿主にして勢力を拡大しようと目論む謎の寄生生物パラサイトの襲来の話題で騒然となっていた。実はスインの顔の右側にも、寄生生物の“ハイジ”が入り込んでいたのだった。そんななか、チンピラのガンウ(ク・ギョファン)はかつて所属していた組織に追われて逃げるうちに妹が謎の失踪を遂げたことを知り、寄生生物が失踪に関わっているのではないかと怪しむ。警察ではパラサイト襲来の事態を収束させるため、犯罪プロファイラーで大学教授のジュンギョン(イ・ジョンヒョン)率いる特殊部隊「ザ・グレイ」が結成される。スインに疑いを向けるジュンギョンと彼女に反発するチョルミン、さらに「ザ・グレイ」と連携して名を上げようとするチョルミンの後輩刑事ウォンソク(キム・イングォン)の野心が絡み合いながら、ついに寄生生物と衝突する。

ヨン・サンホ監督は、『新感染 ファイナル・エクスプレス(17)で韓国におけるゾンビジャンル、いわゆる“K-ゾンビ”という世界観を確立し、近年では「地獄が呼んでいる」などのドラマシリーズでも異彩を放つ唯一無二のクリエイター。その一方、元々は『ソウルステーションパンデミック』(16)などアニメーションを主とする作り手だ。「寄生獣」についてヨン・サンホ監督は「学生たちのバイブルのような存在で、私も元々ファンでのめり込んでいました」と振り返る。

そして「『日本でもしこんなことが起きているのであれば、韓国ではどんなことが起きていたんだろう』と想像しました。それが出発点だったように思います」と、ずっと構想を温めてきたと明かす。

そうした心意気に、原作者も呼応した。「アイデアを岩明先生に手紙としてお送りすると、幸い先生もとても興味深く受け止めてくださって、『思う存分やってください』と言われました」と喜びをあらわにする。自らも口にしていたが、心願成就したことで“成功したオタク”となったのだ。

シナリオは、「怪異」や『新感染半島 ファイナル・ステージ』(20)など、これまでもヨン・サンホ監督と共同作業をした経験を持つ脚本家のリュ・ヨンジェ。彼もアニメーター出身だ。もちろん「寄生獣」の原作ファンでもあり、ヨン・サンホ監督とよく話をしていたという。「当初私は、権利を獲得するのが難しいのではないかと言ったんです。でも岩明先生に手紙を差し上げると、むしろ先生の方から『ヨン・サンホ監督の気持ちが変わってしまう前に早く作業をしてください』と仰ってくださったとのことで、驚きました」。

今回、原作を尊敬しつつもオリジナルのアプローチを加えたが、その1つが“共存”という主題の追求だ。「副題の『ザ・グレイ』というのは、ドラマに登場する特殊部隊が、身分を明かすホワイトと身分を隠すブラックという2種類の要員で構成されていることに由来しています。それと同時に、作品のメインテーマである“共生”や“共存”という意味合いも持たせています。ある意味、人間と寄生生物の境界にいるスインは、(ホワイトとブラックのどちらでもない)グレイの存在でもあるのです」

“これがもしも韓国で起こったら?”というヨン・サンホ監督の想像からスタートしている本作は、脚色でもアクチュアリティ(現実性)を重視した。岩明均の原作では、寄生生物が人間に入り込んだ後から、徐々にその存在が明かされ、寄生生物もまた、時間をかけて人間を理解していく。リュ・ヨンジェ作家によれば、SNSが格段に発達している現代韓国社会を反映し、「大衆の前に寄生生物が突然現れるところから始まるのなら、寄生生物も人間に早く正体が明らかになり、対策チームもいち早く組織されるはずです。お互いへの理解と対峙を展開させることで、原作とは違うアプローチができるのではないかと思いました」と、スピーディーな展開で視聴者にリアリティを与え、飽きさせない工夫をしたことを明かした。

■韓国を代表する実力派俳優が集結!語られた撮影秘話とは?

主役のスインを演じるチョン・ソニも、なじみ深い原作が韓国を舞台にどう動いていくか興味が湧いたという。「スインは、世の中にひとりぼっちだと思って生きてきた人だと解釈しています。責任感だけで踏ん張っている女性で、私はそこが魅力的だと思いました。孤独で自分自身の命に対し消極的な態度の彼女が、自分の体の中で他の存在を受け入れることになり、ガンウにも出逢うことで初めて共存と人間の絆に気づいていくのだと考えました」と、役作りのポイントを語った。

一方で彼女は“ジキルハイド”のように相反する人格を表現しなければならない難しさも口にした。「ハイジを表現する時は他の寄生生物との共通点を考えたり、逆にハイジだけの特徴を考えました。また、スインを演じ切れればハイジとのギャップが出せるので、スインについてはもう少し性格やバックグラウンドの細部を作り込みたいと思いました」

演じ分けのポイントとなったのは、“声”だった。撮影前、チョン・ソニは自分なりに考えた様々な“ハイジ”の声色を録音して聞かせた。最終的に「スインは感情の豊かな人間。ハイジは逆に、全く感情が乾いている。そうした真逆の存在が同じ体の中でお互いを理解していくストーリー」(ヨン・サンホ監督)に即しながら、最終的な声のトーンを作り上げていったそうだ。

妹を探す過程でスインと出逢い、彼女の顔の右側に寄生した生物を“ハイジ”と名付けたガンウを演じたク・ギョファンは、寄生生物ミギー”の絵を描いた右手を振りながら登場。

ガンウというキャラクターについて「とにかく逃亡マニアで、回避型」と解釈したうえで、ハイジとの出逢いが彼にも変化をもたらしたと明かした。さらにガンウの役割を、次のように語った。「ガンウは何かを目撃するシーンが多いので、登場人物の中では目で見て得た情報をたくさん持っている人物。それをスインと視聴者に伝えるメッセンジャーなんです。また、登場する人間の中で、一番フィジカルで戦うシーンが多くて戦闘力が高い。なので疲れた感じを出さないようにしようと体力を使うバランスを注意しました」

クォン・ヘヒョは、「僕は唯一、いまだに原作を読めていないんです。もちろん原作には原作の価値があると思いますが、私としては視聴者の皆さんにドラマを見ていただいてから読んでみたいんです」と、ドラマへの格別な愛情を明かした。

続けて「一番現実的で周りにいそうな人がチョルミンだと思います。そして私が果たすべき役割としては、とにかく最後までスインを信じて守ろうとすることでした」と話した。

スインに匹敵するほど強烈な個性を放つのが、「ザ・グレイ」のチーム長ジュンギョンだ。彼女はある理由から寄生生物へ並々ならぬ憎悪を抱き、寄生生物を殺すことをゲームのように考えている。演じたのは『新感染半島 ファイナル・ステージ』に続いてのキャスティングとなったイ・ジョンヒョンだ。

ジュンギョンは情熱的なキャラクターだと思います。でも平凡に見えてはいけないので、最初にコンセプトを決めるとき、監督と相談を重ねたりと本当に苦労しました。声のトーン、抑揚などを少し変える工夫もしました。撮影が終わった後、『監督、どうでしたか?』と何度も質問しました」と、悩みながらの撮影だったと語った。

■“ボディースナッチャー”の生々しさを可能にしたVFXとヨン・サンホ監督の熱血アプローチ

寄生獣」は、日常的な存在が自分が知らない存在になるという根源的な恐怖を描く“ボディースナッチャー”というジャンルに属している。原作では、人の顔が不気味に開いていく描写で表現していた。これをドラマで可能にしたのが、最大の見どころともなるVFX技術だ。

「従来のクリーチャーの描写は私も何度かやっていますが、これまでの表現は形態が一定だったんです。今回は形が変わるんです。実写で俳優の顔からクリーチャーになる過程を自然に表現するのは、VFX的にも難易度の高い作業だったと言えます。まるで我々の日常でも起こりうることだというリアリティのあるデザインに挑戦しなければなりませんでした」と、作品における重要な要素を再現するための努力を明かした。

その苦労は、“ハイジ”を演じるチョン・ソニも同様だった。「私にとっても初めての経験でしたので、視覚的にどのように表現されるのか分からない怖さもあったんですが、監督が明確なディレクションとデモンストレーションをしてくださいましたし、やると決めた以上は疑わずにとにかくひたすら演技しようと思ったんです」と、ヨン・サンホ監督に導かれた力演だったことを語る。するとク・ギョファンも「実はヨン・サンホ監督は、『新感染半島 ファイナル・ステージ』の時も私の撮影前に自分が車に乗って運転してくれたんですよ」と貴重な秘話を披露。会見の会場では、迷いなくクリーチャーになりきり大胆な演技指導を行うヨン・サンホ監督の映像が流れたが、まずは自らやってみせる作り手の熱意があってこそ引き出されたチョン・ソニの力演だったようだ。

チョン・ソニは「全く新しいストーリーになっていると同時に、原作を思い浮かべるポイントが隠れているのが本作の強み」と、出来映えに胸を張った。ヨン・サンホ監督のファンはもちろん、原作の愛読者たちにも新たな発見をくれる傑作ドラマの誕生に、期待が高まる。

取材・文/荒井 南

制作発表記者会見に臨むヨン・サンホ監督と俳優陣/[c]Netflixシリーズ「寄生獣 -ザ・グレイ-」4月5日(金)より独占配信開始/[c]岩明均/講談社