今日のにゃんこタイム~○○さん家の猫がかわいすぎる Vol.138


 大阪府天王寺にある「ねことカフェ」は車椅子の方も気軽に楽しめる、バリアフリー猫カフェ



「ねことカフェ」オーナーの梅本健一さん



 オーナーの梅本健一さんは地域住民と交流を深めながら、成猫の譲渡に力を注いでいます。


車椅子でも安心して入店できる猫カフェをオープン!



大阪府天王寺にある「ねことカフェ」



 梅本さんは、一般社団法人 和(わ)の代表。犬猫の里親マッチングサービス「ぽちとたま」を運営するなど、命のバトンを繋ぐ活動に力を注ぎ続けてきました。


「ねことカフェ」をオープンさせたのは、2023年11月。動物と直接触れ合う機会が少ない方にも来店してほしいと思い、店内をバリアフリー化。


「可能な限り制限を設けないことで、人が抱える生きづらさや選択肢の少なさを少しでも改善しようと思いました。タイヤの衛生面もあって、車椅子で入れる猫カフェは聞いたことがなかったので、チャレンジしました」


 バリアフリー化が実現された店内は段差がないため、高齢者や小さな子どもも安心。トイレは広く、手すりも完備されています。


◆なかなか魅力が伝わらない“大人の猫たち”



 また、梅本さんは人だけでなく、里親との出会いを待つ猫たちにとっても店内での暮らしが居心地のいいものになるよう、工夫がされています。猫のための家づくりやリフォームを数多く手がける不動産屋「ねこ大家」に工事監理をしてもらい、キャットステップやキャットウォークを設置しました。



「おもちゃを使って存分に遊べるよう、フロア自体も広くなっています」


 現在(※2024年3月取材時)、お店で新しい縁を待つのは11匹の成猫たち。梅本さんは動物保護活動に携わる中で、譲渡会に参加しても緊張から、なかなか本来の魅力が伝わらない大人猫の現状に心を痛め、譲渡を推進したいと考えるようになりました。



「譲渡可能な成猫がいる保護団体や個人で保護活動をされている方から譲渡可能な成猫を受け入れ、負担を減らしたいとも考えています。現在、お店には1歳未満の子はいません」


◆ねことカフェ“一番の卒業生”は7歳の成猫



 オープン当初にはお迎え予定だった子たちがエイズ陽性になり、積極的な譲渡が難しくなるなど、予想外の事態も経験。そうした事情もあり、現時点で「ねことカフェ」から巣立っていったのは、店内で最高齢だったリリーちゃん(7~8歳)のみ。


 しかし、梅本さんはその譲渡に胸が熱くなりました。


「この子はお店に来る予定ではありませんでしたが、団体様のところで引き受ける猫を探すためにキャリーを置いていたら、自分から入ってきて(笑)。『じゃあ一緒に行こっか!』と迎え入れたんです」


思いもよらぬ子が一番に“卒業生”となった…。その嬉しさを噛みしめつつ、これからも梅本さんは人同士の壁を感じさせない店内で、幸せを掴もうとする成猫の姿を見守り続けていきます。


◆「動物虐待がない社会」を目指して



「ねことカフェ」は子どもが多い住宅地にほど近い場所にあるため、梅本さんはあえて、入店にあたっての年齢制限を設けず、お店を“猫との関わり方を学べる場”にしています。


 猫に関心がない子や恐怖心を持っている子にも興味を持ってもらいたいとの思いから、小学生低学年向けの読み聞かせイベントも実施しています。



「上手く遊べないことで苦手意識を持たないよう、スタッフと共に、お子さんも猫も楽しく過ごせるよう、工夫しています。子どもの頃から猫と触れ合える環境が身近にあり、動物虐待という選択肢が頭の中にないという状態を、まずはこの地域から作りたい。そこからさらに、猫や動物たちを好きになってくれたら嬉しいです」


 また、同じビルにある児童発達支援・放課後等デイサービス「おおきな木」と連携。児童たちにお仕事体験として、ブラッシングなど猫たちのお世話を任せています。



 きっかけは「おおきな木」に通う、りなちゃん(9歳)が大の猫好きであると知ったこと。梅本さんは放課後等デイサービスの事業者・灰谷さんと話し合い、希望する児童には週1回30分ほど猫カフェでの就労体験をしてもらうことにしました。


放課後等デイサービスからお手伝いにきてくれる子どもたちは何かしらの背景を抱えていることもあるので、できる限り自己肯定感を高めるようなお手伝いや声かけをしています」


 梅本さんの優しい配慮は児童たちの心に届いているよう。灰谷さんによれば、動物との触れ合いは児童たちにとって、普段の活動以上に「誰かの助けになる」という自尊感情を育む機会となっているそう。


◆就労体験を通じてりなちゃんにも変化が



 また、優しいスタッフのもとで楽しく猫のお世話を体験ができていることに、りなちゃんのお母さんは喜びを感じています。


「娘は癇癪や衝動性が強く、集中力の持続や終わりの切り替えが難しい特性があり、動物を近くで観察することや触れ合うことがなかったので心配はありましたが、楽しく過ごせているようです」


 りなちゃんは猫のお世話や触れ合いを通し、落ち着く時間が少しできてきたそう。楽しい、かわいい、癒されるとの言葉を口にすることも増え、普段は読み書きが苦手なのに、お仕事体験をした日は率先して、その日の出来事をノートに書いてくれるのだとか。


◆りなちゃんのお母さんが感じている“喜び”



「ねことカフェさんで行われている保護活動やボランティアにも興味を持ち、どんなことをするのか調べてもいます。猫の種類も、少し覚えられるようになりました。就労体験を通して、自分にできることや知りたいこと、知ったことが増えました」


 放課後等デイサービス以外で、娘に新たな経験させてあげるのは簡単なことではない。そう思ってきたからこそ、りなちゃんのお母さんは梅本さんの粋な計らいや娘の変化に嬉しさを感じています。



「私自身も動物の癒し効果が気になってアニマルセラピーを調べていたら、逆セラピーというものがあることを知りました。お世話を通して癒し、癒される関係のことだそうです。メリットがたくさんあることに驚き、今は猫を飼うことを前向きに検討してもいます」


 なお、事業者の灰谷さんは受け入れてもらった恩返しができるよう、今後はより強固な協力関係を築いていきたいと考えているようです。


 地域住民と交流しながら、梅本さんは自治会内での外猫トラブルに対処したり、包括センターなどで多頭飼育崩壊の予兆や予防を話したりするなど、命を守るための積極的な活動を続けていきます。


◆スポンサーの撤退によりクラウドファンディングに挑戦



 そんな「ねことカフェ」は現在、クラウドファンディングに挑戦中。


 実はオープン前から、撤去可能な造作物といわれていたものが柱であることが判明して図面修正を余儀なくされるなどのトラブルに見舞われてきました。


 今回は、オープン当初から支えてもらえていた事業者が事業上の都合によりスポンサーを撤退。店舗の持続が厳しくなったため、クラウドファンディングサービスREADYFORにて支援を募っています。


 「やっとお店の認知度も高まり、週末にはお子様連れのお客様で賑わうようになってきたところでした。子どもたちも楽しく過ごせて、これまで猫カフェへの入店が物理的に難しかった方や何らかの背景を抱えている方にとって新しい居場所となっていることを、さらに広めていきたいです」



 梅本さんの挑戦は、2024年4月10日(水)23時まで。地域にとって、なくてはならないお店になりたい。そして今後はより事業を拡大させ、さらに多くの命を守っていきたいと願う梅本さんの熱意に触れると、自分にできる猫助けについて考えたくなります。


<取材・文/愛玩動物飼養管理士・古川諭香>


【古川諭香】愛玩動物飼養管理士・キャットケアスペシャリスト。3匹の愛猫と生活中の猫バカライター。共著『バズにゃん』、Twitter:@yunc24291