今年の1月、このコラム欄でジェラール・ドパルデューの#MeTooスキャンダルを伝えたばかりだが、それをきっかけに目下フランス映画界では同様のケースの告発が噴出し、世論を揺るがせている。

もっとも大きな注目を集めているのは、2月初頭に正式に告訴した女優、ジュディット・ゴドレーシュの件だ。彼女は14歳で出会ったブノワ・ジャコー監督と、15歳の時に仕事をしたジャック・ドワイヨン監督のふたりをそれぞれ性的虐待で訴えた。14歳で初めて映画出演した「Les Mendiants」(1987)の現場で、25歳年上のジャコーと出会った彼女は、「自身の家族から引き離されるように"略奪"され、性的関係を強いられた」と主張。それが6年間続いたという。ジャコは「恋愛関係だった」と主張しているものの、当初彼女が未成年だったことが問題視されている。

一方ドワイヨンからは、「15歳の少女」(1989)の制作時に、彼の自宅(当時はジェーン・バーキンと同居中だった)で2度性的虐待を受けたと語っている。これに対してドワイヨン側は名誉毀損だと否定している。

告訴以来ゴドレーシュは連日テレビ番組に出演したり、政府に幼児虐待に対する対策を考えるよう訴えたり、セザール賞の授賞式で発言したりと活発な活動を続けている。折しもフランスでは昨年秋、作家ヴァネッサ・スプリンゴラが小児性愛作家との自らの体験を綴った小説を映画化した「コンセント 同意」(横浜フランス映画祭2024でも上映された)が公開され、大きな反響を呼んだばかり。恐れずに告発することを励ますゴドレーシュのもとには、同じような体験をした女性たちから毎日相談の連絡が入るという。

またフィリップ・ガレル監督も、アナ・ムグラリス、ロランス・コルディエら、5人の女優たちから、「同意なしに愛撫やキスを迫られた」と糾弾された。ガレルは、「(好意を持たれていると思った)こちらの誤解により、無遠慮な行動で気分を害してしまったのであれば申し訳ない」としながらも、一線は超えていないことを主張している。

それだけではない。3月に入ってからはさらにアンドレ・テシネ監督が男優から起訴された。「ピガール」や「あるいは裏切りという名の犬」などで知られるフランシスルノーで、彼はすでに2018年に出版した自伝「La Rage au coeur」のなかでもテシネのことに触れ、昼食を共にしたあるとき、彼に迫られ手を握られるなどした際、拒否をしたら「ブラックリスト」に入れられ仕事が来なくなったと暴露している。今回彼はテシネとともにキャスティング・ディレクターのことも告訴した。一方テシネ自身はあくまで「口頭による」口説きにすぎなかったと主張している。

また16歳で映画デビューを果たし、キャリア20年以上を誇る男優のオレリアン・ウィイク(「女はみんな生きている」)は、10代から自分のエージェントに性的虐待を受けていたことを告白。さらに複数の監督やプロデューサーたちからセクハラを受けた経験があることを明かし、ゴドレーシュの勇気を讃えながら、#MeTooGarçonsのムーブメントを支援している。

それにしてもここまで相次いで事例が上がり、しかも業界で尊敬されていた有名監督たちの名前が羅列されると、暗澹たる気分にならざるを得ない。アーティストという名のもとに、いかに多くの許されざることが見逃されてきたのかを思い知らされる。残念ながらこれはまだまだ、氷山の一角に過ぎないのかもしれない。(佐藤久理子)

恋愛関係にあった「デザンシャンテ」(1989)でのジュディット・ゴドレーシュとブノワ・ジャコー監督 Photo by Yves Forestier/Sygma via Getty Images