女優・イ・ジウンとして映画「ベイビー・ブローカー」やドラマ「ホテルデルーナ」「マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~」など数々のヒット作に出演している韓国の国民的歌姫のシンガーソングライター・IU(アイユ)が、3月23日と24日に横浜アリーナにてコンサート「2024 IU H.E.R. world TOUR IN YOKOHAMA」を開催した。日本でのコンサートは12年ぶりで、チケットはソールドアウト。彼女もファンも待ちに待った、3時間超の公演の2日目をレポートする。

【ライブ写真】IU、真紅のミニ丈ドレス姿で美脚も披露

■MCでは、出来る限り日本語で思いを伝えようとするIU

オープニングは、2月に発売した最新アルバム「The Winning」から「Holssi」。「HER」の文字をかたどったゴンドラにもたれかかって銀のヘッドホンをしたIUが登場すると、12年越しで遂に“生IU”に会えたファンは大歓喜。左右のLEDには歌詞がハングル表記と共にカタカナでも表示され、掛け声のタイミングもわかるようになっていて、観客は大きな声で掛け声を。1曲目からすごい一体感だ。

2曲を終えて最初のMCに。「こんにちは。お久しぶりですね」との日本語での挨拶に、会場が大声で応える。「私は、歓声を聞くのも歌を一緒に歌ってくれるのも好きだから、皆さんの声をたくさん聞かせてください」と言うと、さらに大きな歓声と拍手が起きた。久々の日本公演で日本語を忘れてしまったと言いながらも、出来る限り日本語で話すIU。韓国語で話した時は通訳が入るのだが、それをマネて日本語で言い直して、自分の言葉で想いを伝えようとする姿に、ファンに対する誠実さが感じられた。

■IUのお母さんから、来場者全員にプレゼントが!

ファン想いで有名なIUは、韓国でのコンサートではいつも来場者全員に座布団をプレゼントしている。韓国では着席したまま公演を楽しむルールの為、硬い椅子に座りっぱなしの観客を気遣って、彼女の母親が用意しているのだ。だが、サイズが大きくて日本に持ってくるのが難しく、代わりに、全員に彼女の似顔絵にツアータイトルが入ったキーリングと、ポートレートが入ったホルダーが配られた。これもIUの母親からのプレゼント。彼女は「別に重要な事じゃないけど、座布団より原価が高いと聞きました(笑)」と言って笑わせた。

昨日、1日目の公演を終えて、「とても感動的だった」と母親に電話で報告したところ、「12年ぶりに会いに来た昔の友達(=IU)のことを覚えていてくれて、ありがたいね」と言っていたとの事。IUはファンに対して、“スター”である前に“友達”なのだ。そんなスタンスは、1~2曲ごとに挟まれる、飾らない気さくなMCからも伝わってくる。

そして、「次はかわいい曲」と紹介して「Ah puh」を、水中を思わせるCGをバックにステージの端から端まで移動してステージサイドの観客にファンサービスしながら歌った後は、「bbi bbi」。のんびりしたレゲエリズムに乗せて、過干渉だったり誹謗中傷してくる相手に「一線を越えたら許さない」と警告するこの歌では、ペンライトの色がイエローカードを思わせる黄色に変わり、会場を染めた。

■観客の大きな声の完璧な掛け声に大感激

今回のコンサートは、「Hypnotic」「Energetic」「Romantic」「Ecstatic」「Heroic」の5つのパートに分かれていて、各パートで衣装チェンジ。彼女曰く「明るくエネルギッシュでかわいらしい雰囲気」の「Energetic」パートでは、ネコ耳を着けて登場。「Celebrity」を披露した後、歌の合間の掛け声が完璧で感動したと語り、「ずっとがんばってください」と言って笑った。そして、「皆さんの(掛け声の)練習の真価が問われる曲です(笑)」と、「Blueming」が始まった。彼女の期待に応えるように、ひときわ大きく掛け声が響き、彼女が間奏で思わず「上手!!」と叫んでしまうほどの完璧さだった。

12年前の公演時、すごい集中力で静かに聴き入るばかりだった日本の観客が、今回は韓国での公演さながらに掛け声をしてくれて、1曲目から「これが日本で可能だなんて!」と驚き、感激したんだそう。集中力にエネルギーが加わり、“完全体”になった日本のファンに対し、何度も「素晴らしい」「幸せになりました」と伝え、「皆さんの努力とご苦労に本当に本当に感謝いたします」と、最上級の敬語の韓国語で感謝の意を表した。

■「皆さんは、“IU”を完成させてくれる大きなピース」

超満員の客席と共に記念撮影をした後、最新アルバムの最後に収録されている「I stan U」(原題の意味は「観客になる」)について語り始めた。彼女にとって、観客は“IU”を完成させてくれるとても大きなピースなんだそう。そして、「私は小さな人間だけど、皆さんの人生の何か小さなピースになれたらいいな、私も皆さんの観客になりたいな」という気持ちでこの歌詞を書いたんだとか。「これまで以上に大きな声が必要」と言われたファンは、精いっぱいの掛け声で彼女に応えた。そしてIUもペンライトを持って、ファンの“観客”になりながら心を込めて歌いあげた。

■ファンのIUを想う心に、感謝の言葉が止まらない

Romantic」パートでは、桜色のシフォンワンピで登場。バンドのメンバー紹介を挟みながら「Havana」を披露した後、「今、嬉しい気持ちを抑えきれない」とIUは言った。昨日は久々の日本公演で緊張しすぎて、あまり見えていなかった観客の顔が今日は少し余裕ができてよく見え、みんながあまりにも幸せそうな表情をしていて、彼女も嬉しくなったんだそう。

「私がありがとうを言いすぎて、もう飽きてるかもしれないけど」と言いながらも感謝の言葉が止まらない。長らく来日しなかったせいで忘れられていても仕方ないはずなのに、今回の来日を記念して街頭ビジョンに動画を出してくれたり、アリーナクラスを埋めつくすほどたくさんの人々が集まってくれたのを見て、「皆さんがこれほどまでに私の歌を聴きたいと思っていてくださった事を、私だけが知らなかったんだ…と、申し訳ない気持ちでいっぱいになった」と詫びて、「私に対して片想いしてると思っていたかもしれないけど、私もたくさん愛してます!」と、ファンへの愛を伝えた。

そして次の曲のタイトルを日本語で「金曜日に行きましょう」と伝えた後、イントロが始まった時に「行きましょう…?あっ、会いましょう、だ!」と慌てて言い直し、なごやかな雰囲気の中、柔らかな歌声で魅了した。

■IUがファンに禁止した事とは…?

歌い終わるとIUは、「他の歌手を好きなのは大丈夫。他の歌手の公演に行くのも大丈夫。でも、良い雰囲気で一緒に歌うのは、全然ダメ。絶対ダメ。これは警告です(笑)。これは独占したい。約束できる?」と日本語で問いかけ、会場から「はい」を意味する韓国語の「ネー!」が大音量で返ってきた。「他で一緒に歌ったら嫉妬しますよ?(笑)」と念押しした後、「strawberry moon」をアコースティックver.で披露。マイクを会場に向けて、本当に幸せそうに観客の歌声を聴く彼女の表情がとても印象的だった。

Romantic」パートのラストは「夜の手紙」。これは、「遠い将来、私が引退した時に代表曲として残ってほしい3曲のうちの1つ」と言うほど彼女にとって大切で大好きな曲で、「第32回ゴールデンディスク大賞」の大賞の他、いくつもの賞を受賞した曲でもある。この日が発売からちょうど7周年にあたるとの事で、「この曲の誕生日に皆さんと一緒に歌えて、本当に意味深いし、嬉しいです」と、特別な想いを込めて歌い上げた。後のMCで語っていたが、1コーラスが終わった時に会場から沸き起こった温かい拍手を聞いて、涙が出そうになったのをガマンしたそうだ。

■日本のファンの好きなところは、拍手と「えぇーっ」の言い方

真紅のドレスに着替えた「Ecstatic」パートで、「もう最後のパートです」と告げると、会場から一斉に「えぇーっ!!」の声が。それを聞いて「三段階の“えぇーっ”が聞けた」と嬉しそうなIU。「日本のファンの、特に好きなところが2つある」と言う彼女。1つは拍手。豊かな拍手の音は日本でしか聞けないとの事だ。そして、もう1つが「えぇーっ」で、この言い方は日本のファン独特で、彼女も上手くマネできないし、他のどこの国でも聞けないんだとか。20歳の頃の日本活動時に初めて聞いて、「かわいすぎる!」と思ったんだそう。老若男女誰が言ってもかわいいとの事で「学校で言い方を習うんですか?(笑)」と尋ねていた。

「皆さんが、私にとっての“IU”です」と言い、「皆さんがペンライトを一生懸命振って応援してくださるように、皆さんがつらい時や哀しい時は、私がペンライトを振って応援している姿を思い出して元気を出してほしい」と告げた後、「above the time」に続く「YOU & I」で盛り上がりは最高潮に。「私の名前を呼んで!」と歌う彼女に、「アイユ!」と大声で応え、一緒に歌い全力で掛け声をかけるYUENA(IUのファンの名称)たち。「観客は“IU”を完成させる大きなピース」との彼女の言葉が実感できる1曲だ。

歌が終わると、大声援と鳴りやまない拍手。IUは「うわぁ本当に素晴らしかった」と何度も言い、「忘れられない『YOU & I』になりそう。“胸がいっぱい”という歌詞があるけど、本当に胸がいっぱいになって鳥肌が立ちました」と興奮気味に語った。深呼吸をして高鳴る心を落ち着けた後、「12年前には。こんな瞬間が来るなんて想像できませんでした。本当に感激です。日本で活動していた当時も今も、日本での出来事が良くないと思った事が一度も無いんです。これからは頻繁に来ますね!」と告げ、ファンは大歓喜した。

■「憎しみより愛に集中できる人生を」

本編のラストソングは「Love wins all」。「私たちが次にいつ会えるかわからないけど、その日まで、憎しみより愛に集中できる人生を心から願っています。私もそのように生きようとがんばって、いつかまた会った時に、お互い愛を分け合いましょう。横浜の皆さんのおかげで、幸せな週末でした。愛してます」と日本語で伝えて、彼女の想いが観客に届くように心を込めて、歌声を届けた。そして、MVとは違うエンディングの、BTSのVとの映像が流れて、静かに本編が終了した。

■「間奏での拍手は、新世界でした」

会場の「IU!」コールの中、アンコールとなる「Heroic」パートが「Shh..」でスタート。そして再び、「他の歌手のコンサートで一緒に歌うのはダメ」と念押しした後、「1番が終わって拍手するのも、他では禁止」と新たな禁止事項が付け加えられた(笑)。間奏での拍手は経験が無いのか、「新世界でした」と感激しきりだった。そして「ありふれた言葉かもしれないけど、夢のような一日、夢のような週末でした。夢よりももっと良い週末でした」と、感謝を述べて、「これもすごく好きな曲」だという「23」を。続けて、再びオープニングで歌った「Holssi」に。「HER」をかたどったゴンドラも現れ、それに乗った彼女は、登場の時にしていた銀のヘッドホンを着けて去って行った。

■「打ち上げ」の位置付けのダブルアンコールは、撮影OK

ダブルアンコールでは、「IU」コールのかわりに、「愛の不時着」のOST曲「Give You My Heart」を観客が歌い、彼女を待った。歌の終盤でIUが登場し、アカペラで観客と共に歌った。このパートは打ち上げのような位置付けなので、全編撮影OK。歌う曲も会場からのリクエストで決めるのだ。だが、一斉に口々にタイトルを叫ぶ為、なかなか聞き取れない。曲名を打ったスマホの画面を見せてアピールする事になり、キーの高い「私の海」のリクエストを見つけ、「少しだけなら」とアカペラで歌った後、「someday」のリクエストに応えた。

「Good Day」コールの大合唱が起きたが、何曲も歌った後の喉の状態で歌うのは困難。だが、次回の日本公演では必ず、この歌の見せ場の三段高音まで完璧に歌うと約束してくれた。そして、リクエストが多かった「一日の終わり」を。最後は、昨日の公演後から歌いたいと考えていたという「Epilogue」。「今日、いただいた力で、私はずっとずっと歌えるような気がします」との最後のメッセージの後、「夢よりももっと良い週末」を締めくくる最後の曲が始まった。「皆さんに心から贈る言葉を歌詞に込めた曲なので、日本語訳もLEDに出してほしい、とお願いした」と、歌詞の内容を観客に伝える配慮も。IUは、この幸せな光景を目に焼き付けるように会場を見渡しながら歌い、頭上で大きなハートポーズをした後、深く一礼して去って行った。

IUと幸せな週末を過ごし、歌手としてはもちろん、人柄にも魅了されて、誰もがさらに彼女を好きになったはず。次の来日公演は、7月の大阪。こちらもプラチナチケットになるのは間違いない。「頻繁に来ます」との約束を信じて、また会える日を楽しみに待ちたい。

◆取材・文=鳥居美保

この横浜公演がワールドツアーの皮切りとなるIU/Photo by Aaru Takahashi