「はかりの上に物を置かないでね」基本的なことを注意されただけなのに「攻撃的な言葉を言われた」「責められた」と感じてしまい、泣いてしまう。ちょっと注意しただけなのに泣かれてしまい、相手はびっくり!春野あめ(@AmeHaruno)さんの「発達障害が理解されにくいワケを自分で考えてみた」の「case.04 ちょっとした言葉を攻撃と感じる」をXに投稿すると大きな反響があった。今回は本書を紹介するとともに、発達障害である自分と向き合い特性を理解する難しさについて春野さんにインタビューした。

【漫画】本編を読む

■「なんで失敗を繰り返すの?」「わざとやってるの?」と、理解されにくい発達障害のトラブルや悩み解決の糸口に

幼い頃から人間関係がうまくいかず、さまざまなトラブルに悩まされていた、春野さん。「なんでできないの?」普通の人と同じようにできないことを責められ、自分でもその理由がわからずにいた。

case.01では、仕事中に手が空いてしまい、先輩にやることがないか尋ねたら「適当にほかのことやってて」と言われ「適当にほかのこと」を進行できる業務、整理しておきたい書類などが思いつかず、YouTubeを見ていたら「さすがにそれは…」とあきれられてしまった。「適当に、ほかのこと」とアバウトに言われると「話の意図を汲み取れない」につながってしまう事例を描く。

case.04では、物を片付けているときに「はかりの上に置かないで!」と注意された。「精密機械だから置きっぱなしにするのはよくないんだよ」相手は注意喚起のつもりで言ったことも「攻撃された」と思い、泣いてしまう。「ちょっとした言葉を攻撃と感じる」出来事を描く。

「なんで失敗を繰り返すの?」「わざとやってるの?」と、理解されにくい発達障害。当事者は都度落ち込んだり、傷付いたりする。蓄積された体験がネガティブな思考とつながりやすく、泣いてしまうこともあるという。

春野さんは、発達障害と診断されてから特性を理解し、二次障害と向き合える状態になるまで8年もかかったという。特性を知って「なぜ自分はそんな行動をしてしまうのか?」「どうすればトラブルを起こさなくて済むか?」を考えたのが本書である。監修は、臨床心理士の中島美鈴さんが務める。

■そのような言動をしたのはなぜなのか?気をつけていけば、周りとの関係も変わっていくのでは…?

――春野さんが本書を描いた経緯を教えてください。

きっかけは、前作も担当してもらった編集者さんからの提案です。前作は私の二次障害についても多く描いたのですが、その際に私から「当事者は周りから理解を得にくいため、二次障害を起こし、人間関係のトラブルが増えていく。さらに、特性からのトラブルも多い」ということを改めて聞いて、「トラブルの際にそのような言動をしたのはなぜなのか?当事者の思考回路を知りたい、知って納得できると周りとの関係も変わっていくのでは…?」と、この話を私に提案したそうです。

私自身、自分が周りの人たちを振り回した経験を包み隠さずに描くことは勇気がいりましたが、「発達障害についてもっと詳しく描きたい」「いろんな人に知ってほしい」という気持ちがあったので、引き受けることにしました。

――本書にはどのようなことが収録されていますか?

実際に自分が起こした対人関係のトラブルを中心に紹介しています。それをもとに当時の自分の思考回路、発達障害の特性について解説し、どうすれば自分をコントロールしやすくなるのか、周りとの調和がとれやすくなるのかということについて、実際の工夫や考え方、支援の窓口についてなど、あらゆる方面から改善策を考えて描きました。専門的な部分に関しては、最終的に臨床心理士・心理学博士である中島美鈴先生にご監修いただきました。要所要所で中島先生のコラムも収録されています!

――「どうしてそんな発言や行動をしてしまったのか」春野さん自身が行動を振り返ってみた体験談が描かれていますが、描くうえで難しかったことはありますか?

体験したことを漫画にすることや自分の思考回路を漫画にすることについては、自分のことなので難しくはなかったです。ただ、今回の漫画ではエピソードや思考回路を描くほかに、特性の解説や対策などのパートもあり、それらを描くにあたって発達障害に関する本、専門書、論文を読んで調べる作業が多く、さらにそれをまとめ、ひとつの漫画として仕上げることが難しいことでもあり、とても労力のいることでした。

――他人とは比べられないので「生きづらい」ってどれくらいなのか「努力(自分なりに)や我慢」をしている人も多いと思うのですが、「もしかして私も発達障害かも」と悩んでいる人にコメントがあればお願いします。

悩んだら、すぐに心療内科に行ってみてください!発達検査を受けられるなら受けてみてください!でも、診断はあってもなくてもいいです!まず自分にはどんな特性があるのかを知ると、どこでつまづいてきたのか、どんどん芋づる式にわかってくるはずです。

自分で自覚していなかったトラウマもわかってくるかもしれません。どんな考え方を持って、どんな生き方をしてきたのか、どんな親にどんな風に育てられたのか、どんなことに傷ついてきたのか、一歩一歩自分を知っていくことが大切だと思っています。今回の漫画は、自己理解のちょっとした足しにしてもらえたらうれしいです。

――読者の皆様にメッセージをお願いします。

この本に興味を持ってくれた方のほとんどは、発達障害当事者か、当事者と接している方、接したことがある方で、たくさん傷ついてきた方たちばかりかと思います。逆に傷つけてしまうこともあったかもしれません。そんな方たちにとって、少しでも助けになったり、癒やしになったりしたらいいなあと思います。ありがとうございました。

本書はほかにも「人との距離感がおかしい 」「融通がきかない 」「自覚なく人を不快にさせてしまう」「嘘をつく 」など、ASD、ADHD傾向の特性に分かれた13のケースが描かれている。発達障害で「生きづらさ」を感じている人は、解決の糸口のひとつとして本書を読んでみてほしい。

取材協力:春野あめ(@AmeHaruno)

ちょっと注意されただけなのに、泣いてしまう…/画像提供:(C)春野あめ/竹書房