深海調査により、個性的な新種生物発見の報告が止まりません。

ここ1〜2カ月、チリ沖やニュージーランド沖の深海のそれぞれで「未知の生物」が一挙に100種以上も見つかるというニュースが連続して報じられましたが、今度はハワイメキシコの間にある太平洋の深海で「未知の生物」たちが新たに発見されたようです。

その中には、シカ角のような突起とずんぐりした短いでピョコピョコと歩く、可愛くて珍妙な生物も含まれていました。

本調査は英国のロンドン自然史博物館(NHM)と国立海洋センター(NOC)との共同プロジェクトで行われています。

目次

太平洋の深海「クラリオン・クリッパートン海域」とは?

今回の調査は、太平洋の深海に広がる生態系の理解を目指す「SMARTEXプロジェクト」の一環として行われました。

その調査地となったのが、ハワイメキシコの間にある「クラリオンクリッパートン海域(Clarion-Clipperton Zone:CCZ)」です。

CCZの範囲は、日本の面積の10倍以上に相当する約440万平方キロメートルに及びます。

深さは約3700〜5500メートルに達し、そこには5500種以上の深海生物が生息していると推定されています。

しかし、そのうちの90%はいまだに種の特定がなされていません。

つまり、CCZの深海も他の深海底と同様に「未知の生物」の宝庫になっていると考えられるのです。

クラリオン・クリッパートン海域(ピンク)の場所
クラリオンクリッパートン海域(ピンク)の場所 / Credit: en.m.wikipedia

それからもう一つ、CCZが探査地として注目されている理由があります。

それが”海のジャガイモ(sea potatoe)”の愛称で知られるマンガン団塊」が豊富に存在することです。

マンガン団塊は、深海底に存在する黒っぽい色をした球体状の鉱物を指します。

一見すると、ただの石ころ(直径は5〜10センチ、大きいものだと20センチ以上)に見えますが、マンガン・コバルト・ニッケルという3つの鉱物資源を豊富に含んでいるのです。

これらは例えば、電気自動車に使われるリチウムイオンバッテリー原材料として不可欠な材料です。

CCZには、世界最大量のマンガン・コバルト・ニッケルが埋蔵していると考えられています。

”海のジャガイモ”と称される「マンガン団塊」
”海のジャガイモ”と称される「マンガン団塊」 / Credit: ja.wikipedia

しかし今回の目的はマンガン団塊ではなく、CCZの水深4000〜5000メートルの世界にどんな生き物たちが生息しているかを調べることでした。

そして数週間にわたる海底探査の結果、珍妙な深海生物たちがたくさん見つかりました。

その姿を一挙に見ていきましょう。

角の生えた海のブタ?珍妙な深海モンスターを大量発見!

深海世界では、私たちの常識からは大きくかけ離れた姿をした生物たちがよく見つかります。

今回の調査でも期待を上回る面白い生物たちが確認されました。

例えば、こちらのシースルーの生き物。

これはナマコsea cucumber)と見られていますが、普通のナマコと違って全身が透明で、中の臓器がスケスケになっていました。

新種の可能性があり、今のところは「ユニカンバー(unicumber)」という愛称が付けられています。

「ユニカンバー」との愛称が付けられた生物。ナマコの一種と見られる
「ユニカンバー」との愛称が付けられた生物。ナマコの一種と見られる / Credit: Natural History Museum – Expedition to the Pacific deep sea reveals extraordinary creatures never seen before(2024)

それからこちら。

これは「ウデボソヒトデ目(Brisingida)」の一種と見られるタコ足状の生物です。

中央の白い茎状の海綿生物の上に乗っかって、上から落ちてくる餌を待ち構えているところだといいます。

タコ足のように垂れ下がっているのがウデボソヒトデ
タコ足のように垂れ下がっているのがウデボソヒトデ / Credit: Natural History Museum – Expedition to the Pacific deep sea reveals extraordinary creatures never seen before(2024)

また、白くて淡いエビのような生物も見つかりました。

これは「タナイス目(Tanaidacea)」というフクロエビ上目に含まれる甲殻類の一種とされています。

タナイス目は小型だと数ミリ〜数センチ程度、大きくても10センチ程度しかない非常に小さな生物です。

タナイス目の一種
タナイス目の一種 / Credit: Natural History Museum – Expedition to the Pacific deep sea reveals extraordinary creatures never seen before(2024)

脊椎動物の魚類の姿も確認されました。

こちらは「ソコダラ(rattail fish)」という深海に生息する魚で、水深4000〜5000メートル級の深さで生きられる脊椎動物としては数少ない一つだといいます。

魚類の「ソコダラ」も発見された
魚類の「ソコダラ」も発見された / Credit: Natural History Museum – Expedition to the Pacific deep sea reveals extraordinary creatures never seen before(2024)

そして今回の大目玉と考えられるのが、下に挙げる珍妙な深海生物です。

これは”海のブタ(sea pig)”の愛称で知られるセンジュナマコの一種で、その風変わりな見た目から新種の可能性が高いと予想されています。

ピンク色の肌にシカ角のような突起、ずんぐりとした短い足が無数に生えており、それらをピョコピョコと動かして深海底を歩きます。

研究者らは、バービー人形のピンク色と愛称の”海のブタ”をもじって、「バービーピッグ(Barbie Pig)」ニックネームを付けました。

短い足でピョコピョコと歩くセンジュナマコの一種
短い足でピョコピョコと歩くセンジュナマコの一種 / Credit: IFLScience – Sea pigs in the Clarion Clipperton Zone(youtube, 2024)

チームは現在、これらの標本を実験室に持ち帰り、形態や遺伝子分析および文献調査を合わせて、新種であるかどうかを調べているところです。

調査に参加した海洋生物学者のリーガン・ドレナン(Regen Drennan)氏は「今回見つかった生物の多くは科学的に未記載の新種となるでしょう」と話しました。

深海の世界はまだ8割以上が未調査のまま残されています。

今後も地球のあらゆる深海底で未知のモンスターたちが続々と見つかることでしょう。

呪印の刻まれたイカ?ニュージーランド沖深海探検「未知の生物」新たに100種以上

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参考文献

Expedition to the Pacific deep sea reveals extraordinary creatures never seen before
https://www.nhm.ac.uk/discover/news/2024/march/expedition-to-the-pacific-deep-sea-reveals-creatures-never-seen-before.html

Scientists Photograph Pink ‘Barbie Pigs’ Among New Species in Pacific Ocean
https://petapixel.com/2024/03/26/scientist-photograph-pink-barbie-pigs-among-new-species-in-pacific-ocean/

“Barbie Pigs” Among Strange And Possibly New-To-Science Species Discovered In The Pacific
https://www.iflscience.com/barbie-pigs-among-strange-and-possibly-new-to-science-species-discovered-in-the-pacific-73539

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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