仕事で誰かに話をするとき、相手が「面白い」と思っていれば、熱心に聞いてもらえるものです。でも、話術が巧みでもなければ面白い話し方もできない……。「そういうときには“希少な話”をすればOK」と話すのは、『「よい説明」には型がある。』の著者、犬塚壮志氏。どうやって話したら、相手は面白いと思って聞いてくれるのか?本記事では、あなたの話の希少性を高める裏技2つと、簡単に真似できる即効フレーズを紹介します。(大学受験専門塾「ワークショップ」情報科講師/株式会社士教育代表取締役 犬塚壮志)

「自分の話って、つまらないと思われていないかなぁ……」
「笑いを取りにいったほうがいいのかなぁ。でも、ウケ狙いって苦手で……」

 自分の話をつまらないと思われたくありませんよね。当然だと思います。とはいえ、笑いを取るのも難しい。

 そんなときに役立つ、簡単にできる方法があります。それは、「希少な話」をすればいいのです。話の内容に相手が希少性を感じてくれたら、笑いの有無に関係なく相手は「面白い」と思ってくれます。今回は、話の内容に希少性を演出するためのテクニックをいくつかご紹介したいと思います。

希少性がない人なんていない!
すべての人が「特別なオンリーワン」

 「希少性を演出する」。このテクニックを研修やセミナーなどで紹介すると、「私は普通の仕事しかやっていない。希少性なんて持っていません」とおっしゃる方がたくさんいます。でも、それはご自身を過小評価しています。

 「希少性のある説明ができない人などいない」。私はそう考えています。なぜなら、その人が「経験してきたこと」には、多かれ少なかれ希少性があるからです。

 極端な話、その人の経験の集積は人類80億人の中で必ずオンリーワンのネタです。まったく同じ経験をしている人は、この世の中にはいません。それは、仕事などの経験が浅くてもいえることです。希少なネタを持っていないのではなくて、希少なネタを持っていることに本人が気付いていないだけなのです。

大原則は「情報の価値は受け手が決める」


 たとえば、私が主催するセミナーの受講生に、Mさんという方がいます。彼女は旅行が趣味で、これまでにさまざまな国へ旅行に行ったそうです。

 そんな彼女が、40年前にとある発展途上国に出かけたときのことです。高級ホテルを堪能するだけでなく、現地の生活も知りたいという理由で、強盗に襲われる危険を冒してまで、その国の危険区域とされている街を歩いて回ったそうです。

 私からお願いしてそこでの経験をプレゼンしてもらったのですが、その時代の現地特有の生々しい情報ばかりで、聞いていて非常にワクワクしました。私は彼女の経験(ネタ)を非常に面白いと思いましたが、本人はまったくそう思っていなかったようでした。

 これは、とてももったいないことです。日本からの直行便のない国で、しかも危険区域で見聞きした生の情報となれば、情報の希少性は間違いなく高いはずです。それでも本人にとっては「ただの趣味の一環」に過ぎず、価値ある面白い経験だとはまったく気付いていなかったのです。

大原則は「情報の価値は受け手が決める」
では、その話が面白いかどうかを判断する方法は?

 情報伝達の大原則として、「情報の価値は受け手が決める」という考えがあります。自分が行ったプレゼンや話の内容が面白いかどうかは、すべて聞き手が決めることです。そのため、本記事で紹介するフレーズを使いながら話のネタを小出しにし、聞き手が希少と感じてくれていそうかどうかを確かめながら、説明を進めていくことをおすすめします。
希少性を確認する方法としては、相手の顔に「へーっ」という驚きや感嘆、意外そうな表情が浮かべば、当たりだと思って間違いありません。

 どストレートに、「○○というものを知っている方はいますか?」といった質問をしてしまうのもいいでしょう。そうすれば、その情報を知っている人の割合や少なさがわかります。

「希少性」を高める、とっておきの裏技2つ

希少性を高めるとっておきの裏技2つ
その1:聞き手に「競争」を意識させる

 最後に、希少性を高めるとっておきの裏技を2つご紹介しましょう。アメリカの社会心理学の権威であるロバート・B・チャルディーニの著書『影響力の武器』(誠信書房)を参考にして、私がフレーム化したものです。

 裏技1は、「聞き手に競争を意識させると、希少性を感じる度合いが高まる」という原理を利用しています。競争相手のせいで、この話が聞けなくなることを匂わせます。

 私はビンテージの古着が大好きで、時間があれば原宿や高円寺の古着屋に足を運んでいます。中でも行きつけの古着屋の店長さんが、こんな風にいうのです。

「そのリーバイスのXX(ダブルエックス)、昨日いらしたお客さんも気に入ってましたよ」

 こういわれると、「ちょっと無理してでも、このデニムを買いたい!」――そんな衝動に駆られてしまうものです。

 ビジネスシーンでも同様です。競争相手のせいで自分が話を聞く機会を失ってしまうシチュエーションを示されると、人は「その話、何がなんでも聞きたい!」と思うようになります。

 たとえば、セミナーや講演会などでの「定員」や「人数制限」は同様の効果を発揮します。

「来月開催のセミナー、残席がわずか1席のみとなりました。そこでしか話すことのできない、とっておきのネタをご用意しています。参加される方は、ぜひ楽しみにしていてください」

 このように伝えると、聞き手は、「競争相手のせいで残席が埋まり、その話を聞けなくなってしまうかもしれない」と思うのです。その結果、「その(聞けなくなる)事態は何がなんでも避けたい」という心理になり、その話をより「希少」で聞きたいものだと感じてくれます。

 当たり前のことですが、競合が存在することも残席が少ないことも、それが「希少だ」という情報は言葉にしないことには聞き手に伝わりません。「希少性」を感じ取ってもらうだけで聞き手を引きつけることができるならば、積極的に発信しておくに越したことはないのです。

もう一つの裏技は……

裏技2 :
これまでの自由に制限をかける

 続いて2つ目の裏技は「これまでの自由に制限をかける」です。この裏技は、「それまで制限されていなかったけれど、これから制限されるものに人はより希少性を感じる」という原理を利用しています。つまり、「これまではいつでも聞くことができた話だけれど、これからは聞けなくなる可能性がある」ことを示すことで、より一層、希少性を高める手法です。

 ここでは、「これまでも限定で、これからもその限定が続く」ということよりも、「これまでは限定ではなかったけれど、これからは限定になってしまう」ことのほうが人は希少性を感じることを利用しています。

 伝え方としては、たとえば、次のようなフレーズがあります。

 このように一言添えるだけで、聞き手に「近い将来、聞けなくなってしまうのなら、今のうちに!」と思わせることができます。ただし、ここにウソがあると信用をなくしてしまいます。

 ですから、希少性をアピールする際は、誠実さを絶対に忘れないようにしてください。希少性をうまく演出することで、聞き手の期待感を高め、ワクワク感を作り出してみてください。

あなたの話を「面白い!」と思って聞いてもらうには……?(写真はイメージです) Photo:PIXTA