反響の大きかった2023年の記事から選ばれたジャンル別トップ10。今回は集計の締切後に、実は大反響だった11月12月公開記事に注目。惜しくもトップ10入りを逃した記事を順不同で紹介!(集計期間は2023年11月~2024年1月。初公開2023年11月19日 記事は取材時の状況)
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貧困などで困窮しているのに“男性だから”と手を差しのべてもらえない男性が「弱者男性」と呼ばれている。先行き不安な時代が彼らを社会の隅に追いやったのか? 彼らが抱える“生きづらさ”の正体を突き止める。

◆引き出し屋に抵抗するため動画投稿を開始

’19年、政府は就職氷河期を「人生再設計第一世代」と命名。

これには「失政の責任転嫁だ」とする批判の声が多数上がったが、「ずっと自分なりに、もがき続けてきました」と再設計の苦しみを語るのは、就職氷河期世代の“限界ひきこもり”YouTuber、イエティさん(45歳)だ。

胸まで伸びた髪、部屋に溢れたゴミ袋から虫が湧くといった動画が話題となった。

「動画投稿を始めたのは’22年12月、父親が呼ぼうとした『引き出し屋(ひきこもり支援をうたい法外な費用を請求する事業者)』に抵抗するためでした。いざ部屋に踏み込まれた際の証拠にしておこうと考えたからです」

◆就職氷河期に50社以上受けるもすべて不採用

イエティさんが社会人となったのは’03年、まさに就職氷河期のピークだ。

「学生生活は割と充実していましたが就活は全滅。50社以上受けましたが、すべて不採用でした。唯一入社できたのが詐欺まがいの信販会社。過酷な労働状況と将来への焦りもあり、転職を試みるも、今度はリーマンショックで難航しました。当時、年越し派遣村の映像を見て『これは他人事じゃない』と思ったのをよく覚えています」

◆不動産業界に転身したが不遇は続く

その後、なんとか不動産業界に転身したが不遇は続く。

「たどり着いたのは薄給のやりがい搾取パワハラが横行するブラック企業ばかり。入社前に提示された月給も噓だった。それまでは『30代で結婚して、一家を養う』といった“まっとうな生活”を思い描いていましたが、結婚はおろか女性にも縁遠くなりました。どんなに過重労働でも『男たるもの努力で乗り切らなければ』という思い込みもありました。しかし、最終的には睡眠時間3時間、38連勤の末、精神疾患に陥って現在に至ります」

◆YouTubeは収益化に成功するも…

YouTubeではイエティさんの人生の“再設計”を応援するコメントも多い。

「YouTubeは収益化できましたが、とても生活できる稼ぎには程遠い。この7年間で人並みの生活はムリだと諦めざるを得なくなりました。せめてこれからは“人ならざる者”として、“社会に敗れた男の姿”を記録に残して、誰かの今後の生き方のヒントになればいいですね」

先月、7年間伸ばしっぱなしだった長髪を切ったイエティさん。心機一転、“氷河”から脱する日は来るか。

◆“弱者”にのしかかるコミュニケーション重視

今回、週刊SPA!が日本人の平均年収である450万円以下で「自分を弱者男性だと思うか」を20~60代の男性3800人にアンケートしたところ約3割が認める形に。そこから500人を抽出すると、その平均年収は236万円と過酷な経済状況が浮き彫りになった。

「Q.あなたが『弱者』という状況に陥った原因は何だと思いますか?」の問いでは、35.2%の男性が「コミュニケーションが苦手だった」ことを挙げ最多となった。

これについて臨床心理士の濱田智崇氏は「現代ではコミュニケーション能力が過剰に重要視されている風潮がある。もっと多様でいいはずなのに基準となる物差しが少ない」と分析する。

◆ネットにおいてもコミュニケーションスキルが必須に

ほかにも、SNSをはじめとしたスマート化が進んだことで、批評家の杉田俊介氏は「現代は対面だけでなく、ネットにおいてもコミュニケーションスキルが必須になった。うつ病や依存症の問題もそことは切り離せません」と警鐘を鳴らす。

ライターのトイアンナ氏も「女性は職業が異なっていても愚痴や弱みを分かち合えることが多い。一方で男性同士のシーンでは弱みを話すと“仕事に耐えられない”、“重要な仕事を任せられない”と判断されるなどデメリットに繫がりやすい」と、男性社会ならではの生きづらさを指摘する。

コミュニケーションスキルに続く理由を見ていくと、「給料が少ない会社に入った」「勉強をしなかった」など、自分の選択を過ちとする自責的な回答が目立つ結果となった。

◆Q.「弱者」に陥った原因は何だと思いますか?

他人とのコミニュニケーションが苦手……35.2%
給料が少ない会社に入った……31.8%
勉強をしなかった……28.8%
その他……20.8%
家庭環境が悪かった……17.0%
見た目がよくなかった……15.4%
正社員になれなかった……12.4%
男に生まれた……7.0%
ギャンブルにのめり込んだ……5.8%
結婚して身動きが取れなくなった……5.2%
離婚してすべてを失った……4.8%

「その他」には「心身の病気」や「転職や事業の失敗」を挙げる声も多かった。

※アンケート概要:全国の20~60代男性500人に調査を実施(調査期間:9月25日~27日)

【臨床心理士 濱田智崇氏】
京都橘大学総合心理学部准教授。’95年、日本初の男性専用相談ホットラインを開設。全国の“男の生きづらさ”の相談に取り組む

【批評家 杉田俊介氏】
文芸評論や労働/貧困問題について著述。近著に『男が男を解放するために非モテの品格・大幅増補改訂版(Pヴァイン

【ライター トイアンナ氏】
マーケターとして勤務後、ライターとして独立。恋愛とキャリアを中心に執筆。近著に『ハピネスエンディング株式会社(小学館)』

取材・文/週刊SPA!編集部 撮影/宮下祐介 モデル/高橋一路

38連勤の末、精神疾患に陥ったイエティさん(45歳)。部屋はゴミで溢れている