本物の赤ちゃんにそっくりな人形、リボーンドール。リボーンが「生まれ変わり」を意味するように、そこに本物の新生児がいると見紛うほど精巧に作られています。



提供:リボーンドール工房POPO(以下、同じ)



 高齢者や一人暮らしの人、子どもを持てない人など、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちがリボーンドールを迎え、心を癒やしているとのこと。


 国内でリボーンドールの制作・販売を行う工房「POPO」オーナー・ぽぽさんに、セラピーの側面を持つリボーンドールについて話を聞きました。


リボーンドールはアメリカ発祥。日本での認知度は低い



――リボーンドールとの出会いを教えてください。


リボーンボールはアメリカが発祥で、まだ30年ほどの歴史しかありません。日本ではここ10年ほどで、インターネットを通じてリボーンドールを知る人が少しずつ増えてきました。私が初めてリボーンドールの存在を知ったのも、アメリカのeBayというECサイトがきっかけです」


――それから会社を立ち上げようと考えたきっかけは?


「もともと医療関係の仕事に携わっていたこともあり、初めてリボーンドールを見たときはセラピーやケアの要素を持っていると感じたんです。それから、日本でも必要としている人がたくさんいるのではないかと考えるようになりました


最初は数人でリボーンドールを作っていたのですが、周りに譲ってみたところ想像以上に好評でして。日本ではリボーンドールを制作する場所が少なく、ほとんどが海外からの輸入に頼っていることもあり、2023年8月に自分たちで会社を立ち上げることにしました」


◆SNSにはさまざまな反響が寄せられる



――どのようなメンバーが働いているのでしょうか?


「3人で日々コツコツと活動しています。私はリボーンドールをセラピーの観点から見ているのですが、他のメンバーは可愛らしさに魅力を感じていたりなど、さまざまなところで愛着を持っています。


とはいえ、制作サイドとして関わる時は、メンバーは完成度の高い作品を作りたいという強い意志を持っていて、チーム内は職人気質な雰囲気があります。単純に可愛いだけでなく、高品質でより良い作品を作りたいという共通認識は常に持っています」


――POPOを通してリボーンドールを知った人の反響はどうでしたか?


リボーンドールは実際に見てもらったほうが伝わりやすいと思ったので、TikTokやinstagramでも発信をしています。動画を見てくださる方のほとんどがリボーンドールを初めて知り『可愛い』と感じてくれる人もいれば『怖い』という反応もありました。


最初は怖いと思ったけど、次第に可愛らしく思えてきたと言ってくださる方もいます。見た目のインパクトは強いですが、何度も見ていくうちに慣れていく方もいるようです。賛否両論さまざまな意見がありますが、そのことを含めリボーンドールは人間の感情を引き出す存在なのかなと思います」


リボーンドールはどれも“世界に1つだけの作品”



海外から取り寄せているキット



――日本でリボーンドールを中心に扱う工房はどのくらいありますか?


「業界自体の歴史も浅く、法人や個人事業主として活動しているところは非常に少ないです。正確な数を調査したわけではないのですが、インターネットで検索をすると、継続的に活動している大きな工房は現状5社ほどではないかなと思います」


――工房によって完成した人形の雰囲気は違うのでしょうか?


「海外にいる造形師さんが作っている、何も手をつけていない“のっぺらぼう状態”のキットを取り寄せて制作をするのですが、同じ職人が同じキットを使って作ったとしても、まったく同じ人形にはならないんです。


例えば、オーブンで焼いて何層も色を重ねていく色付けの作業で肌の色が微妙に変わったり、目を入れる過程で瞳の大きさが異なって見えたり、制作過程で微妙な違いが生じます。そういう意味では、どのリボーンドールも世界に1つだけの存在です」



――欧米系やアジア系など、顔立ちもさまざまですよね。キットからではなく、一から作ることはないのですか?


「海外の造形師さんはたくさんのキットを生産するために、アジア風や欧米風、月齢の違いなどさまざまな“型”を持っています。その型を作るのに数百万単位の費用がかかるので、現状、国内で一からリボーンドールを作るのは難しいです。でも将来的に自分の理想の赤ちゃんを制作できたらいいですね」


◆1ミリの妥協も許さない制作過程



――制作へのこだわりはありますか?


「顔の表情が動いたりすることはないので、目を開けている子は顔を見たら人形だとわかります。ですから、目は自然な輝きと奥行き感があるグラスアイを、唇や鼻には湿った感じを出すことでよりリアルに制作するよう工夫しています。また、うちの工房では後ろ姿が本物の赤ちゃんに見えるようにこだわっています。実際、抱っこしたときに他の人が見ても、お人形だとはなかなか気づかないと思います。特に髪の毛にはすごくこだわっています。


赤ちゃんの毛は細くて柔らかく、日本にある素材ではなかなか再現できません。日本の市松人形に使われているような毛は、太く固すぎて頭にフィットしてくれないんです。なので、自然に見えるモヘアというヤギの毛をポーランドから取り寄せて植毛をしています」



1本1本丁寧に植毛している



――リボーンドールの制作の流れを教えてください。


「まずは海外から届いたキットを洗浄し、きれいな状態にします。次に、人間の肌の特徴を再現するためのペイントです。肌の赤みや血管の青さも再現するので、ペイント自体には約20ほどの工程を重ねます。


具体的には、真っ白なキットに黄、紫、緑色などを薄く重ね、肌の色となるベース色を作ります。そして、肌のツヤ感を出す作業を行っていきます。それができたら、ガラス製の目を取り付け、最後に髪の毛を1本1本植え込みます。これらの工程が終わったら、リボーンドールの完成です」


――オーダーメイドを受け付けることもあるのでしょうか?


「オーダーは受けておらず、完成したお人形の写真を見て購入をお願いしています。というのも、お客さんが望む雰囲気や特徴を映像や文章で共有していただいても、実際に完成した作品は必ずしもリクエスト通りに仕上がるわけではありません。


髪の毛のウェーブや長さ、ほっぺたの色合い、眉毛の形など、細かい部分の微妙な違いでもお客さんのイメージから離れてしまうことがあるんです。なので、工房のサイトの写真をじっくり見ていただいて、納得いただける作品があればお迎えしていただいています。


リボーンドールは安価とはいえない値段ですし、ネットショップなので気軽に手に取れないこともあり、みなさん吟味しながら最終的にどの子にするか選ばれています」


◆購入者のタイプは主に3つ



――どんな人がリボーンドールを購入するのでしょうか?


「お客さんの9割がSNS上で偶然見つけてくださり、調べていくうちに購入に至ったというパターンです。ほとんどが女性のお客さんで出産経験がある方もない方もいます。男性はプレゼントとして購入される方が多いですね。年齢層は10代から70代と幅広い印象です。


リボーンドールを迎え入れる方のタイプは主に3つあると考えています。1つ目は芸術的な作品として購入する方、2つ目はもともとぬいぐるみや人形が好きな方、そしてセラピードールとして購入する方です」


――セラピーの効果もあるんですね。


「セラピードールとして購入する背景はさまざまなので、人によって、どのように癒やされるかはさまざまです。子どもを授かれなかった方、子育てを終えた方、孫を思い出して懐かしくなる方や、お子さんが小さい頃に訳あって離れて暮らさなくてはならなくなった方、一人暮らしでなんとなく寂しくて、誰かがいる感覚が欲しい方など、本当に多様です。


また、認知症の患者さんの中には、不穏といって精神的に不安定になる方も少なくないのですが、リボーンドールに触れることで穏やかな気持ちになったり、不安感が軽減されたりするケースもあるようです」


◆子どもを授かれなかった夫婦にも



――子どもを授かれなかった方が購入すると聞くと、購入者さんにはなかなか葛藤もあるのではと想像しますが……。


「葛藤を感じる方もいると思います。ただ、勘違いされやすいのですが『赤ちゃんができないから、じゃあリボーンドールにしよう』と購入される方はいないんです。赤ちゃんがどうしても欲しいという気持ちは、もちろんリボーンドールで埋まるものではありません。そういう方は養子縁組であったり、他のルートをまず考えるのだと思います。


むしろ赤ちゃんが欲しくてたまらない感情のときは、ネットでリボーンドールをふと目にすると悲しい気持ちになる方もいるようです。


リボーンドールへの感じ方は人それぞれなので、そういう気持ちになる方は“リボーンドールが適用ではない”のだと思います。なので、なかなか赤ちゃんを授かれない方に対して、わたしたちから『これいいですよ』とおすすめするようなことは決してありません」


――では、子どもを授からずリボーンドールの購入をする方は、どんな方が多いのですか?


「不妊治療に今まさに取り組んでいる方というより、授かるためのあらゆる手をしつくして、年齢も重ねて、我が子が欲しいという気持ちがある程度落ち着いた方が購入されることが多いように感じます。


街中で妊婦さんや子連れの家族を見るとつらくなるという方でも、リボーンドールであれば“誰かの赤ちゃん”ではなく“自分だけの大切なものの一つ”になるというのは大きな要素なのかもしれません。もちろん赤ちゃんの代わりではないけれど、見るたびに『かわいいな』『癒やされるな』っていう気持ちが湧き上がる自分を感じられるというか……」



――実際に購入した方からはどのような意見をもらいましたか?


「『毎日が明るくなった』『子どもが自立して寂しくなったけど、昔を思い出して幸せな気持ちになれた』『寝てる姿を眺めているだけで癒やされる』など、たくさんの好意的な意見をいただいています。


子どもを授からなかったあるご夫婦は『人形だけど、見るたびに可愛いと感じる。子どもには恵まれなかったけど違う形で赤ちゃんと接することができてよかった』とメッセージをくださいました」


◆自宅で一緒に過ごす人がほとんど



――購入者はリボーンドールとどのような生活を送っているのでしょうか?


「ほとんどの方が自宅で一緒に過ごされています。リボーンドールはまだまだ認知が広がっていないので、知らない人が見た時に驚かれる可能性もあります。その反応に傷ついてしまうこともあるので、自宅以外で過ごした場合は皆さん悩まれると思います。


抱っこ紐やベビーカーで一緒に外出してみたいという時は、毛布や帽子を被せてあまり見えないようにするなど、うまく工夫されている人が多い印象です。一緒に買い物に行ったり散歩したり、前向きな活動につながっています」



――SNSを見ていると、1人でたくさんのリボーンドールを所有している方もいますよね。


リボーンドールはコレクターの心を刺激するところがあるようで、1人迎えて可愛いとなると、ついたくさん集めたくなる方は多いですね」


リボーンドールは“推し”と同じ



――国内ではまだ始まったばかりの業界ですが、SNSの発信を通じて感じる世間の反応はどうですか?


「現状、多くの人がリボーンドールを知らないため『何に使うの』『怖い』といった不安や疑問の感情が先走ることも無理はないかなと思っています。


特にTikTokでは辛辣なコメントをいただくことも多々ありますが、それが今の社会全体としての反応だと受け止めています。そういった反響のおかげで認知が広まり、その分可愛いと思ってもらえる機会も増えているので、反応をいただけるのはありがたいです」


――リボーンドールについて世の中に知ってもらいたいことはありますか?


「見た目がリアルなので身構えてしまうかもしれませんが『推しのグッズを見ているだけで元気が出る』ことと同じで、リボーンドールは癒やしや元気をもらえる存在の一つです。


自分を癒やす手段を持っている人って、長い人生を生きるうえでとても幸運だし、幸せに生きていけると思うんです。リボーンドールはそうやって、誰かにとって人生を豊かにする存在だと信じているので、まだ出会っていない人たちに存在を知ってもらえたら嬉しいです」


<取材/鴨居理子 文/Honoka Yamasaki>


【Honoka Yamasaki】昼間はライターとしてあらゆる性や嗜好について取材。その傍ら、夜は新宿二丁目で踊るダンサーとして活動。Instagram :@honoka_yamasaki



提供:リボーンドール工房POPO