―[貧困東大生・布施川天馬]―


◆中学受験に意味はあるのか?

 みなさんは、学歴には意味があると思いますか? 学歴社会を否定する声は数多く上がりますが、私の見ている限りでは、未だにその効力は強い。その証拠として、特に首都圏を中心とした受験ブームは衰えを知りません。

 早くは幼稚園入園以前から受験の準備は始まります。私立の幼稚園に入れて勉強をさせ、私立の小学校に入学。特別なカリキュラムを通して学力を高め、そのまま付属の中高一貫校に進学、さらに上位の大学を目指す……。

 こういった教育を施す親の真意は、「少しでも子どもに良い学歴を身につけさせたいから」だといいます。どこまでが本音かはわかりませんが、根幹をなすのは「子どもに幸せになってほしいから」なのでしょう。

 となれば、中学受験は子どもに幸せになってもらうために最適な手段かを考えなくてはいけません。ただ、私が見る限りでは、どうやらそうも考えられない。

 私は、2月20日に『東大合格はいくらで買えるか?』を上梓しています。本書では、東大生(卒業生含む)100人にアンケートを行い、そこから得られた生の東大生データを元に、様々な角度から東大受験を分析しています。

 今回は、「コスパがいいとは言えない中学受験」についてお伝えします。

◆中学受験の結果と大学受験の結果は関係がない

 そもそも、中学受験の結果は、大学受験に影響しているのでしょうか?

 今回、私が東大生に取ったアンケートでは、100人中38人が中学受験をしていないと回答しています。確かに、60%は中学受験をしており、これは高い数字でしょう。

 ですが、そもそも東大には毎年3,000人しか入れません。中学受験時の偏差値や、その人口を考えると、もしも中学受験と大学受験に強い相関があるのであれば、東大合格者のほとんどが中学受験経験者になってもおかしくはない。

 では、なぜ40%もの中学受験未経験者が東大に入学できているのか。それは、中学受験時の偏差値、学力と、大学受験には何の関係もないからでしょう。

 実際に、これを証明する研究もあります。現在、東大教授を務められている近藤絢子先生が2014年に発表した研究「私立中高一貫校の入学時学力と大学進学実績―サンデーショックを用いた分析」によれば、中学入学時の、その中学校の偏差値と、大学受験の結果には、何の相関関係もないことが示されています。

 近藤先生は、大学進学実績を決めるのは、中学受験時の偏差値ではなく、中学進学後の教育によるものが大きいと予想されています。そのため、逆説的に進学校進学の有用性が示されていると考えられています。

進学校に通うメリットはあるけれど

 私も、大学進学実績を決めるのは、中学校進学以降の学習内容に大きく依存すると考えています。だからこそ、進学校に進学することはひとつの大きな手段であることは認めざるを得ません。

 ただ、それが中学受験によって行われるべきかは、また別の話です。進んだ学習カリキュラムを手にするだけなら、進学塾に通えばいい話。開成や灘で東大受験特化型のカリキュラムを行われているわけではない以上、東大進学を目指すのであれば、むしろ進学塾に通わせた方が効率はいいでしょう。

 そして、これらの進学校は、多くが私立校です。進学塾に通えば済むだけの話なのに、さらに私立校に追加でお金を落とすのは、本質を見失い、中学校や高校のもつブランドに目がくらんでいるだけであると言わざるを得ません。

 こういった要素を加味すれば、中学受験で高偏差値帯の学校を闇雲に目指し続けることに意味はなく、むしろ中学校進学以降で教育資源を投下したほうが効果的と考えられるのではないでしょうか。

 私は、高い学歴を身に着けたいならば、中学校進学以降で勉強にいそしみ、各都道府県トップクラスの公立高校に入学するべきだと考えています。中学生にもなれば、ある程度子ども自身も物事の分別がつく歳であり、過酷な「受験戦争」に対して主体的に取り組んでいける可能性があると考えているためです。

 自我や認知能力が未発達な小学生の段階から、あまりにも多くの情報を詰め込んで優劣を決める中学受験は、子どもの将来を捻じ曲げてしまう可能性があります。首都圏に渦巻く異常な中学受験ブームですが、はやく悪い夢から覚めてほしいと願うばかりです。

【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。(Twitterアカウント:@Temma_Fusegawa

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