『EIGHT BALL FESTIVAL 2024』MOROHA

サウンドチェックの最中からとめどなく増え続ける観客を前に、「すいません、何か人気みたいで。前の方に来てもらえれば出遅れた人も見られるので」と場を沸かせるアフロ(MC)。本編のセットリストにない曲をやり続けるMOROHAは、リハだろうが本番だろうが目の前にいるグレーゾーンを白にひっくり返すため、手を抜かない。昨年は、出演キャンセルとなったsumikaの代打でSOLID STAGE、今年は紛れもないSTRIPED STAGEのトリだ。

岡山のご当地ネタをさらりと織り交ぜた前口上から、いつの間にか曲の中にいる匠の技。そんな「革命」に気付いたときには、オーディエンスはもうMOROHAの術中にいる。完全に心をつかまれている。

「今日、会場に着いたら、俺好みの金髪のギャルが歩いてて、すげーきれいな後ろ姿で。追い抜いて顔を見たら、SUPER BEAVERの渋谷でした。そんなわけで、大好きだった岡山が大嫌いになりました。47都道府県中47位、大嫌いな岡山でぶちかましてもよろしいか? もう一回、好きにならしてくれるかい? 岡山へ、愛すべきあなたへ、言いたいことはただ一つ。「俺のがヤバイ」!」(アフロ、以下同)

UK(Gt)がギターでビートを作り出す、鼓動のようなスラム奏法に乗せ、アフロマシンガンのごとくまくし立てる「俺のがヤバイ」に圧倒される。聴こえてくるのは、アフロの声とUKのギターのみ。なのにこんなにも脳裏に浮かぶ風景に、時間も場所も何もかも忘れて意識が持っていかれる。これがMOROHAの音楽、MOROHAのライブだ。

「後方のお客さんへ報告です、最前のsumikaのTシャツを着てる女の子がおびえています。その子の頬をなでるように、触れるように、突きさすように、とっておきのラブソングを。この歌は、バカな男を愛したバカな女が、最後の力を振り絞って書いた手紙です」

一転、優しくも深いアコースティックギターの音色が導く「拝啓、MCアフロ様」では、リリックが進むほどに胸が温かくなり、そして切なくなる。誰かの代打をMOROHAができても、MOROHAの代打は誰もできない。そんなことすら思わせる唯一無二の人生劇場が繰り広げられていく。

夢を追う者が何度でもぶち当たる悪魔のささやき「やめるなら今だ」は、自らのコンプレックスも惨めな感情も全てあぶり出し魂を鼓舞するファイトソングだ。ハンズアップもシンガロングもモッシュもダイブもSTRIPED STAGEで起こりはしない。ただただ立ち尽くし、MOROHAを浴びる。曲が終わって沸き上がる歓声と拍手が、その答えだ。

「フェス、好きですか? 自分たちの音楽がフェス向きじゃないのは分かってるんだけど、俺も好き。99%好きなんだけど、声をそろえて歌ったとき、みんなで手拍子したとき、一体感と引き換えに、自分の人生が取り込まれて、自分が薄れていくような気がするの。俺はそんな気持ちになって、帰り道はその1%だけが膨らんで、俺のこれからはどうなるんだろうっていつも思う。この中にもしそんな人がいるとしたら、その心に向かって歌いたい。この曲だけは一体感を忘れて、独りぼっちになって、どうか自分と向き合って帰ってください」

何百何千といるアーティストが、同じ道のりをたどって夢を目指すのか? 自分のやり方で、自分の道のりで、何度も自分を疑い、何度も自分を信じて、本当にあるか分からない一筋の光に手を伸ばして、歩いていく。行く先に壁はあってもガードレールはない。いつでもコースアウトできる、もろさとはかなさの中で、胸に去来する「それでも」に突き動かされ、今日もまた歩いていく。「四文銭」、それはMOROHAの生きざま、MOROHAの道の途中。

「どうか元気で、どうか負けないで。命を懸けて、命を描け!」


2024年3月31日STRIPED STAGE。正真正銘のトリが、確かにここにいた。

取材・文=奥“ボウイ”昌史 撮影=センイチ

MOROHA 撮影=センイチ