子どもがいる人は、ほぼ誰もがかかわることになるPTA(Parent-Teacher Association)。いまや共働きの家庭が普通にもかかわらず、専業主婦が前提の体制となっていることなど、さまざまな謎や問題がつきまとう組織です。日本には、同様の問題を抱えた制度のまま運営されている組織がほかにも数多くあります。本記事では、同志社大学政策学部・同大学院総合政策科学研究科教授の太田肇氏による著書『何もしないほうが得な日本 社会に広がる「消極的利己主義」の構造』(PHP研究所)から、組織の再設計について解説します。

「民主化の三原則」をもとにした制度設計

PTAの存在意義は認めるも、「関わりたくない人」が多数

喫緊の課題として組織・制度の抜本的な改革が迫られているのは、PTA町内会である。

PTAにしても町内会にしても、その存在意義や必要性は認める人が多い。

たとえばPTAについて朝日新聞が2015年5月に行った調査(回答数968)では、「PTAは必要ですか? 不要ですか?」と聞いているが、「絶対不要」「不要」「なくてもよい」という否定的回答が56.3%と過半数を占めるものの、「絶対必要」「必要」「あってもよい」という肯定的回答も37.2%存在する(「どちらでもない」を除く)。

また同じく朝日新聞が同年4月~5月に行った調査(回答数2104)では、「PTAに期待するもの」として「子どもの教育環境の向上」「親同士のネットワーク作り」「先生とのつながり強化」をあげる人がいずれも4割~5割程度いる(複数回答)。

おそらく町内会についても同様の調査を行えば、表れる傾向はPTAと大きな違いがないだろう。

このように多くの人が存在意義や必要性は認めている一方、「深く関わりたくない」という人が多数を占めるのが現実である。ここでも「総論賛成、各論反対」がはっきりと表れている。

生活パターンが変化したいま、「自由参加」に設計し直す必要がある

人々の生活パターンが大きく変化し、意識も多様化した現在、メンバーの利害一致を前提にした共同体型の組織と、その運営は壁にぶつかっている。これ以上、内部最適化を貫こうとするなら、脱退者が増加して組織が成り立たなくなるか、もしくはメンバーの不満や機会主義的行動がいっそう広がるに違いない。

そこで一人ひとりのメンバーが開かれた世界で生活し、多様な利害関係を持っていることを前提に、組織を設計し直すことが必要になる。

再設計の指針として、私は「民主化の三原則」を提示した※1。

1.自由参加の原則  

任意団体である以上、有形無形の圧力によって参加を強制することはできない。したがって加入は任意であることを明示し、自由意志で選択させる手続きが必要になる。

2.最小負担の原則 

かりに役務的な活動が必要で、やむを得ずメンバーに参加を求めなければならない場合でも、時間、労力、出費の負担を最小限に抑えるべきである。

3.選択の原則

メンバー自身が引き受けられる役職、参加できる年度や時間帯などを自己申告するなど、個人の選択を最大限尊重する。

要するに強制参加は言うに及ばず、たとえ自由意志によって参加した場合でも強制色をできるかぎり排除していくべきだというのが趣旨である。

存立基盤を失った共同体型組織を変えていくうえで、強制色の排除と並んで大切なのは組織を開かれたものにすることだ。

PTAのなかには役員のOGやOB、地域の高齢者、学校の卒業生などに「PTAサポーター」として活動に参加してもらっているところがあるそうだ※2。またアメリカのPTAは参加が強制されない一方、親でなくても地域の人が参加できるようになっている。

※1:太田肇『個人を幸福にしない日本の組織』新潮社、2016年、第7章 ※2:川端裕人『PTA再活用論』中央公論新社、2008年、176頁

強制をやめたら参加者が増える「金魚すくいの法則」

自由参加にするとしたら、多くの人が懸念するのは参加者が減り、組織が機能しなくなることだろう。消極的な参加者が大半を占める現状のもとで、自由参加にしたらますます参加する人が減ると考えるのはもっともだ。

しかし興味深いことに、組織への囲い込みをやめ、強制色をなくしたところ、積極的に参加する人が増えたというケースが少なくない。義務的な参加ではなく、自己決定で参加しているという感覚があるからだろう。

私はそれを「金魚すくいの法則」と呼んでいる※3。金魚すくいを見ていると、下手な人は、網を持って金魚を追い回す。すると金魚は逃げ回り、いつまでたってもすくえない。いっぽう上手な人は金魚が近づいてくるのを待って、近づいてきたらサッとすくう。

それと同じように、人も強制的に参加させようとすると反発し、意識的に距離をとろうとする。なかには意地になって参加を拒む人もいる。逆に自由参加にすると反発や警戒心がなくなり、自発的に参加してみようという気持ちになる。隠れていた参加意欲が呼び起こされるのだ。

※3:太田肇『「見せかけの勤勉」の正体』PHP研究所、2010年、第5章

組織や集団で、「金魚すくいの法則」を活用している例

ある小学校のPTAは選挙で役員を選ぶ方式から、前記(3)の自己申告による選択方式に切り替えたところ行事への参加者が急増したという。行事に参加すると周囲から熱心な人だと見られ、選挙などで役員に選ばれるのではないか、という心配がなくなったからだと考えられる。

また東京都武蔵野市は他自治体のような町内会組織を置かず、地域活動は基本的にボランティアが担っている。そしてボランティアになじまない業務は行政が主体となり行っている。

同市にはボランティアの地域住民によって組織されたコミュニティ協議会が設けられており、市の人口の約1%が運営に関わるなど、住民の参加意欲は高い。

高校では近年、勝利にこだわらず、参加も自由な「ゆる部活」「フリースポーツクラブ」という部活動が人気を集めている。

大学でも伝統的な運動部の多くは部員の減少傾向が続き、部の存続さえ危ぶまれている一方、参加が自由なサークル活動は活況を呈している。アルバイト、ダブルスクールなど大学外の活動で忙しく、拘束の多い部活を敬遠する学生が増えていることが背景にある。

ちなみに同じような現象は家庭でも、企業社会でも見られる。表れ方は多少違っても、「金魚すくいの法則」はあらゆる組織や集団に当てはまる法則だといえよう。

太田 肇

同志社大学政策学部・同大学院総合政策科学研究科

教授

※画像はイメージです/PIXTA