花火といえば、日本の夏の風物詩。大きな花火大会もよいが、自宅のミニ花火大会も楽しい。ところで、夏に使いきれなかった花火って、どうしてますか?

私自身は「翌年になると湿気ってしまう」と思っていたので、なかば無理やり遊びきっていたが、実は花火は保存方法さえ間違えなければ何年でも保存できるという。むしろ線香花火に関しては、数年寝かせたほうが、火花が安定して味わいが深まるのだとか。まるでワインみたいだ!

教えてくれたのは福岡県にある創業70年以上の老舗花火メーカー「筒井時正玩具花火製造所」の筒井今日子さん。同社は日本で3社しかない国産線香花火の製造所でもある。

――どうして線香花火は熟成させたほうが、きれいになるんですか?
線香花火は、硝石(しょうせき)、硫黄、松煙(しょうえん)という3つの素材からできています。どれも自然界にあるもので、これらを配合して火薬を作るのですが、時間が経つと材料同士がよくなじむので、火花も安定するんです」

――熟成期間は長ければ長いほどよいの?
線香花火は1本ずつ個性が違うので、何年経った状態がベストかは単純に比較できないのですが、2~3年くらい寝かせると落ち着いて、やわらかい火花になります。ちなみにウチには何十年も前の花火もありますが、問題なく使えますよ」
一般的に線香花火は、以下のように、(1)蕾、 (2)牡丹、 (3)松葉、 (4)散り菊、と4つの状態に変化していくといわれる。


同社では、それぞれの状態が美しく見え、火の玉もある程度大きく、それでいて長持ちするよう、バランスにこだわって材料を配合しているそう。とはいえ、線香花火に使う火薬はわずか0.08グラム。100分の1グラムの材料の増減でも燃え方は変わってくる。また、火薬は専用の道具を使って和紙に盛り、手でよるのだが、紙のより方次第でも火花の風合いは異なる。線香花火が“1本ずつ個性が違う”のはそのためだ。

保存の際は湿気に注意が必要だ。
「ビニール袋にいれて日の当たる場所に置いておくと、夏などは中に水滴がついてしまうことがありますよね。そうやって一度濡れてしまうと、火が付きません」
それ以外はそれほどシビアにならなくても大丈夫なよう。ちなみに熟成させることで火花の風合いまでよくなるのは材料がシンプルな線香花火くらいだが、それ以外の花火も保管自体は何年でもできるとのこと。

自宅での花火というとホームセンター等で購入できる安価な輸入モノがポピュラーだが、最近は国産花火の良さも見直されているのを感じている筒井さんはいう。
「とくに線香花火は、人との距離を縮めてくれます。他の手持ち花火などと違って、人から離れて遊ぶのではなく、風をさえぎろうと、むしろ近づいて遊びますよね。人とのつながりを感じやすいところもよいのかもしれません」

ちなみに輸入モノとの値段の差は、原料や人件費によるところもあるが、火薬量の差も大きいようだ。同社の花火は火薬も多く、なかには1分半~2分もの間、楽しめるものもある。見た目にこだわった商品も多いので、ギフトにもぴったり。花の形を模した線香花火などは飾っておいて、毎年の記念日に1本ずつ燃やしていくのもよさそう。

また、線香花火は夏のイメージが強いが、同社では「冬の、できたて線香花火」(スボ手牡丹)(8本300円税抜)なども製造している。これは気温・湿度が低い製造条件でしか作れないもので、かつ夏よりも風が強めのことが多い冬の夜によりきれいに見えることから、冬限定のパッケージを作ったそうだ。夏が待ちきれない人は、ぜひ楽しんでみては?
(古屋江美子)

筒井時正玩具花火製造所では多様な線香花火を製造。写真中央は関東地方を中心に楽しまれている「長手牡丹」(15本450円税抜)