数々の伝説を生んだスーパースター、エルヴィス・プレスリー。その元妻の回想録を基にした映画『プリシラ』が4月12日(金)、日本公開される。エルヴィスの波乱に満ちた生涯は『エルヴィス』(2022年公開)で描かれていたが、本作は、元妻のプリシラが主人公。14歳にしてエルヴィスを虜にした彼女の、鮮烈なストーリーだ。彼女の視点で語られるセレブの実生活も興味深い。監督は、『マリー・アントワネット』など、女性の機微を見事に活写するソフィア・コッポラ。

『プリシラ』

ふたりが出会ったのは1959年。当時、アメリカには徴兵制があり、大スターのエルヴィスも、2年間、一般兵士として陸軍に配属され、西ドイツの基地で勤務していた。そんななか、彼の家のパーティーにたまたま来ていたプリシラをエルヴィスが見初める。彼女は、テキサスから赴任してきた将校の娘。エルヴィス24歳、プリシラは14歳だった。

エルヴィスといえば、コンサートで失神するファンが続出するほどの存在。プリシラにとっても、もちろんあこがれる雲の上の人だ。そんな彼からの幾度もの誘いに、夢見心地のまま恋心があふれ出していく。ふたりの関係を信じていなかった両親も、大スター直々の来訪による交際申し入れで、ついに認めることとなる。

まさしく1960年代という高度成長期のシンデレラストーリーだ。しかし、本作がおとぎ話と違うのは、「出会って恋人になるまで」の物語ではなく、「恋人になってから」がメインストーリーであるということ。

ふたりの親交はエルヴィスが除隊し帰国してからも続き、1963年17歳になったプリシラは、「グレースランド」と呼ばれるエルヴィスの大邸宅に呼び寄せられ、そこに住むことになる。彼女はエルヴィスの寵愛を受けながらその邸宅から女子校に通うのだ。

17歳の少女が人気絶頂のスーパースターと同居!……いまなら大炎上のスキャンダルものだが、それがまかり通った時代の実話である。

原作は、プリシラ1985年に出版した回想録『私のエルヴィス』。それをソフィア・コッポラ監督が脚色し、映画化した。

「多くの10代の少女が歳上のセレブとの恋に憧れますが、プリシラはそれを現実にしました。私が興味を持ったのは、どうやって夢を叶えたかだけではなく、グレースランドで成長するにつれ、プリシラの望むものがどう変わっていったのかを探ることでした」とコッポラ監督は語る。

愛だけを頼りに派手な世界に飛び込んだプリシラが、夢と現実の間を彷徨いながら成長していく姿を、この作品は繊細に描いていく。

超セレブ夫妻の私生活がその時代の風俗やお洒落なファッションとともに赤裸々に映し出されていることも、魅力のひとつだ。伝説の大邸宅、ザ・ビートルズも訪れた「グレースランド」の内部、そして、プリシラの視線の先に垣間見えるエルヴィスのどこか不安定な素顔。

描かれているエルヴィス像は、やはり旧世代の男性。プリシラを、着る服から髪型、アイメイクにいたるまで自分好みに変えていく。電話に必ず出てもらいたいから外出は禁止。一緒に住むようになっても、結婚するまでは……、というストイックな一面も持ち合わす。

プリシラを演じたのは、ケイリー・スピーニー。この作品でヴェネチア国際映画祭最優秀女優賞を受賞、あどけなさの残る14歳の少女から28歳までを見事に演じている。エルヴィス役はジェイコブ・エロルディ。ドキッとするほど目の演技が似ている。エルヴィスも182cmの高身長だったけれど、それよりなんだか背が高い。調べたら196cmもあるそうだ。

プリシラご本人が、この映画のプロデューサーもつとめている。コッポラ監督は、彼女に過去の印象や感情の記憶までヒアリングし、それに忠実であることを優先したという。その結果、この映画はあえてプリシラの側から描くことに徹している。

「映画の醍醐味は、誰かの世界に完全に入り込んで自分の世界と結びつくものや、驚かされるもの、心乱されるものが見えてくるところです。私はそういう映画をつくりたい。だから、観る人には100%プリシラになりきって観てほしいのです。」というのがコッポラ監督の意図だ。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

【ぴあ水先案内から】

恩田泰子さん(新聞記者・讀賣新聞
「……監督はソフィア・コッポラ。夢のような世界とその裂け目を描かせたら、やっぱりうまい……」

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『プリシラ』