メジャーデビュー10周年のGLIM SPANKY。昨年11月に発売した7th Album『The Goldmine』を引っ提げて開催した、全国ツアー『The Goldmine Tour 2024』東京・日比谷公園大音楽堂公演のオフィシャルライブレポートが到着した。

亀本寛貴(G)がMCでも話していたように、GLIM SPANKYは今年の6月でメジャーデビューから10周年を迎える。その間に7枚のアルバムをリリース。EPとシングルを含めると毎年複数の作品を発表し続けながら、パンデミックによる制限のあった時期を除けば、精力的にツアー/ライブもこなしてきた。

荒々しくハードなガレージブルースロックを掻き鳴らしていた初期を起点に、そこから膨らむアイデアを、バンドのスケールアップとともに音にしていく。小さなライブハウスで数人しかお客がいなかった時期を経て、ワンマンツアーを回れるようになり、これまでは憧れだった海外のバンドとも同じステージを踏んだ。『FUJI ROCK FESTIVAL』のGREEN STAGEの舞台にも立ち、日本武道館でもワンマンライブを開催した。最後の新木場STUDIO COAST、あの時の野音、東京キネマ倶楽部、振り返るとさまざまな景色が思い浮かぶ。

そんな、“これぞロック”なヒストリーを、ジャンルやプロモーションの型が多様化する時代の流れにも目を配る柔軟性とともに積み重ね、新たなロックの生きる場所を開拓してきた稀有なバンド。それがGLIM SPANKYだ。そしてその鍵は、松尾レミ(Vo / G)がこの10年間のMCやインタビューなどでも一貫して観客のことを“仲間”と呼ぶアティチュードの中にある。今回の『GLIM SPANKY The Goldmine Tour 2024』セミファイナルは、そのことを確信させてくれる希望に満ちたステージだった。

最新アルバム/ツアータイトル曲「The Goldmine」で幕開け。その言葉通り、GLIM SPANKYの開拓精神を示すような力強いナンバーだ。重心の低いビート、亀本のアンセミックなギターリフに、松尾のストイックな歌詞とパワーのみなぎる声が響くと、場内には大きな歓声が沸き、無数の拳が付き上がる。そんな新曲からスピードギアを上げ、デビューの頃からずっとライブでのハイライトを演出し続けている「褒めろよ」へ。あいにくの雨を熱して飛ばすような流れによって巻き起こる、叫びとダンスの波は圧倒的だった。

続いて「みんなで揺れて踊って最高のパーティーにしよう」と松尾が言い放ち「Odd Dancer」を披露。松尾は自分たちのワンマンライブのことを、“パーティー”と呼ぶ。“パーティー”には“行動を共にする仲間”という意がある。また、主体はオーディエンスにあるということや、クラウドの織り成す景色こそすべてであるということを表すために使用されることもしばしば。力強くも柔軟で、時に幻想的なサウンドスケープやグルーヴに乗って、思い思いに揺れる観客。同じ音と向き合うからこそ浮かび上がる各々の個性はまさに、“パーティー”を象徴する場面だった。

松尾が、ステージの背景に吊るされた大きな三角の布を指して「自分たちの育った長野県の村を囲む山脈もイメージしている」と話し、「光の車輪」へ。前3曲のアッパーなノリからシームレスに優しい田園フォークの世界へと誘う、絶妙な力加減と緩急が光るビートが心地良い。次の曲も長野の緑が浮かぶような「話をしよう」。その演奏が始まると場内のあちこちから「お~っ」という声が。それもそのはず。なぜなら2016年にデジタルシングルとしてリリースされ、そのグッドメロディが人気を博すも、ライブではあまり耳にすることのなかった曲だからだ。松尾曰くファンからのメッセージがきっかけで、今回のセットリストに組み込んだそう。

そんな2曲によって浮かぶ田舎の風景からロックの深い森へと手招きするように、『The Goldmine』収録の「真夏の幽霊(Interlude)」が始まる。松尾と亀本による二本のアコースティックギターが演出するサイケな音色や揺らぎは、雨という悪条件をスペシャル感に変える魔法のよう。アルバムと同じ流れで続く「Summer Letter」の、本来は晴れ晴れとしたサイケデリックロックと、野音の濡れた木々との相性が実に趣深い。そこからこちらも『The Goldmine』に入っている「Glitter Illusion」へ。横乗りでじわじわとムードを高めながらロックならではのダイナミックな魅力が重なってくる演奏に、再び場内の温度が高まってくる。そしてロックのど真ん中を射抜く初期のキラーチューン「NEXT ONE」で爆発。ニューアルバムで獲得した曲やアレンジのバリエーションが、グラデーションを楽しみながら多様な世界観を往来できる、ライブでの新たな魅力に寄与していることを強く感じた場面だった。

お馴染みのサポートドラム、かどしゅんたろうが紹介されると、見事な高速連打ソロを披露。続いてこの10年間、GLIM SPANKYのライブを休むことなく支えてきたベーシスト、栗原大の名前が呼ばれたのだが、その瞬間聞こえてきたのはベースではなくフロアタムとシンバルの音。まさかのかどとの打楽器セッションに沸きに沸く会場。そして「怒りをくれよ」が始まる。フェスやイベント含め、もっとも数多く演奏されてきたもっとも人気の高い曲が新しい演出によりフレッシュに躍動する。さらに眼光の鋭い高速ブルース「不幸アレ」で畳みかけ。フィジカルな盛り上がりという意味では、この日の最高を叩き出した。

終盤はGLIM SPANKYの持つ珠玉のロックバラードのうちのひとつ「美しい棘」からスタートする。ライブでの合唱を意識したという強いコーラスが響く「Innocent Eyes」で高まる一体感。松尾と亀本が街を歩いていたところ、偶然路上アーティストの歌う姿を目にしたという「大人になったら」(ライブ後のオフィシャルXアカウントで、そのときの動画が紹介され話題に)、同タイトル映画の主題歌「リアル鬼ごっこ」と、初期のシングルで本編を締めた。

アンコールの1曲目は、ファーストアルバム『SUNRISE JOURNEY』から、ストレートな70’sロック節と歌詞、さすがのメロディセンスに痺れる「サンライズジャーニー」。その盛り上がりを見ていると、先述した「話をしよう」と近いニュアンスで、ライブでやり続けてほしいというメッセージが、もっとも多い曲のひとつなのではないかと思った。亀本のエクストリームギターソロがばっちりキマり、歓喜の声が溢れたところで始まったスリリングなロックナンバー「愚か者たち」が会場を刺し、ラストは「ワイルドサイドを行け」を演奏する。

〈仲間とこじ開ける未来は絶景さ〉

その歌詞は、GLIM SPANKYのこれまでを回収し、これからを誓うよう。それはきっと、何があろうとも手放さないオールタイムポリシーで、私たち一人ひとりがムーブメントの一部なのだ。今日が最高だった充実感とともに持って帰る、未来への期待や希望。それこそがロックなのではないかと思った。アルバムを出し、ツアーを終えてひと段落と見せかけて、GLIM SPANKYの2024年はまだまだこれからとのこと。また近々、彼らの音の鳴る場で会いましょう。

文=TAISHI IWAMI
撮影:上飯坂一

<公演情報>
『The Goldmine Tour 2024』

3月24日(日) 東京・日比谷公園大音楽堂
https://glimspanky.lnk.to/the_goldmine_tourTP

セットリスト
01. The Goldmine
02. 褒めろよ
03. Odd Dancer
04. 光の車輪
05. 話をしよう
06. 真昼の幽霊(Interlude)
07. Summer Letter
08. ラストシーン
09. 愛の元へ
10. Glitter Illusion
11. NEXT ONE
12. 怒りをくれよ
13. 不幸アレ
14. 美しい棘
15. Innocent Eyes
16. 大人になったら
17. リアル鬼ごっこ

■encore
01. サンライズジャーニー
02. 愚か者たち
03. ワイルドサイドを行け

GLIM SPANKY オフィシャルサイト:
http://www.glimspanky.com/

『The Goldmine Tour 2024』日比谷公園大音楽堂公演より