SNSを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。

2024年1月スタートのテレビドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)の見どころを連載していきます。

かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。

物語の最後に、恒例の不適切なお詫びテロップが2024年と表記されて出てきたとき、「やられた!」と思わず唸ってしまった。

柔らかく、ねっちりと細かく、時に目詰まりを起こす令和の対人関係。

ドラマの序盤から「話し合いましょう」と歌いあげ、SNSとの向き合い方を何度も考え、そして「寛容になりましょう」と歌い、息苦しさを横に広げて風通しをよくする方法を今作は提示してきた。

『不適切にもほどがある!』場面写真『不適切にもほどがある!』場面写真

そして最後に、今この2024年さえも変化していく時代のごく一部にすぎないと、縦の広がりを見せる。

鮮やかで、目からうろこが落ちるようだった。

『不適切にもほどがある!』場面写真

いかにも昭和的な価値観の男が令和にタイムスリップする。そこで経験する騒動を通して、令和と昭和の対比をコメディとして描き、大好評を博した『不適切にもほどがある!』(TBS系 金曜日22時)。

最終回では小川市郎(阿部サダヲ)は昭和に、向坂サカエ(吉田羊)とキヨシ(坂元愛登)は令和にとそれぞれの時代に帰った。

『不適切にもほどがある!』場面写真『不適切にもほどがある!』場面写真

純子(河合優実)は大学に合格し、パワハラの冤罪で休職していた渚(仲里依紗)は昭和で元気を取り戻して復職し、失恋で落ち込んでいた秋津真彦(磯村勇斗)と新しい恋をする。

元の場所に戻りながら、皆それぞれにアップデートして少しだけ幸せになった。

『不適切にもほどがある!』場面写真

同時に、小川市郎が知ってしまった自分と娘の寿命については、解決も変化もしない。

回収しなかった部分は、脚本家・宮藤官九郎と作り手が、人の生死とりわけ災害死を描くにあたって尽くした誠意なのだろうと思う。

一方で、最終回の回収は、キヨシが昭和で仲良くしていた不登校の友人・佐高(昭和パート榎本司・令和パート成田昭次)のその後である。

令和の少年らしい柔らかさでキヨシは佐高に寄り添って、いつも部屋でゆるゆるとゲームをしていた。

別れ際、キヨシは「学校なんてさ。自分と気の合わないやつがこの世界には存在するってことを勉強する場所だけどさ…」と、佐高に淡々と話し始める。

1人か2人、友達が見つかれば、他は死ぬまで会わなくていい奴らなんだから。俺は佐高くんにあえて良かったし。それは学校のおかげだし。気が合う奴とは繋がれて、合わない奴とは関わらなくてすむ…便利なもの、もうちょっと辛抱すれば沢山出来るからさ。

『不適切にもほどがある!』場面写真

キヨシが令和に帰った後、佐高はキヨシのいない学校に登校するようになり、中学を卒業する。

ただ1人でも、真心で思ってくれる誰かがいて言葉が届けば、小さくても一歩を踏み出せる。

若い日の母親と出会い、人間関係の悩みを聞いてもらって、子供のように唇についたナポリタンを拭いてもらった渚が、それで元気を取り戻して仕事に戻っていったように。

『不適切にもほどがある!』場面写真

佐高や井上(昭和パート中田理智・令和パート三宅弘城)の卒業式、小川は「お前らの未来は面白いから!」と言って、ヒップホップとともに生徒を送り出す。

『不適切にもほどがある!』場面写真

本ドラマの主題歌『二度寝』を担当する、『Creepy Nuts』の二人が昭和に来て居残りしているという粋な展開であった。

爆笑して『二度寝』を聞きながら、胸が熱くなった。

『不適切にもほどがある!』場面写真

旅立ちにあたって、未来は楽しいぞ、良いものだぞと灯火のように明言してくれる誰かがいるというのは本当に幸せなことだ。

一見万事に細やかで配慮の行き届いた令和の世の中だけれども、いま、若い世代に未来はいいものになると確信と共に語れる大人は少ないように思う。

改めて自分もまた、昔話よりも未来を語れる大人でありたいと思う最終回だった。

『不適切にもほどがある!』場面写真

笑いと悲しみ、華やかな騒々しさと沁みるような感動。

様々な混沌を包み込んだこの作品において、阿部サダヲはまさにクドカン作品そのものを体現するような見事な演技を見せてくれた。

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そして、娘の純子を演じた河合優実は、しなやかな自我と思春期の淡い揺らぎを鮮やかに演じきって、私たちを魅了した。これからのキャリアが非常に楽しみな俳優である。

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最後に、いつか10年・20年が過ぎた後に、2020年代はどんな時代として語られるんだろうかと思う。

あんな面倒くさい社会なのか、あんな効率の悪い社会なのか、あの頃は良かったなのか。

そうして遠く俯瞰できるようになった頃に、このドラマをふと思い出すだろうし、その未来でも宮藤官九郎が辺境に立ち続けて書く作品を見て、笑ったり泣いたり出来ていたらいいなと思う。

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[文・構成/grape編集部]

かな

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