平成ギャルがトレンドになっている昨今。見た目だけではなく精神性にも注目が集まり、ポジティブに自分らしさを貫くマインドが支持されているという。そうした再ブームで気になるのは、かつて渋谷センター街を賑わせていたギャルたちの今だ。10代・20代を謳歌していた彼女たちは、年齢を重ねてどのような女性になっているのだろう。

 今回登場するのは渋谷のギャルサークルアンジェリーク」の元副代表・きょんさん(37歳)。アンジェリークといえば、2001年に設立され、現在でも若い層に影響を与え続けている伝説のギャルサーだ。渋谷を練り歩くサークルメンバーの様子はメディアでも度々報じられ、当時まだ幼かった筆者の記憶にも強く記憶に残っている。現在、きょんさんはシングルマザーとして2人の子供を育てているという。そんな彼女に、アンジェリークがもたらした影響とその後の人生について話を聞いた。

◆「もっと強めにして!」アンジェリークの厳しいルールで培った学び

アンジェリークに入ったから、人として強くなったのかもしれないですね」

 きょんさんはそう語る。渋谷109近くのショップで働いていたところ勧誘を受けてアンジェリークへの加入を決めた彼女。やるとなったら徹底して取り組むタイプだ。サークルの副代表まで務めたが、“まだやりきれていない気がする”と在籍期間を1年延長させた。

 とにかくアンジェリークに夢中だったと当時を振り返る。

「よく漫喫でオールして、企画書やタイムテーブルを作ったりしてましたね。あとはイベントで配るパンフレットを印刷会社に依頼したり、副代表としてメンバーのサポートや育成をしたりとか。今思うと早いうちから社会人経験をさせてもらったような感じでした」

 サークルはルールも厳しかった。「人に媚びを売らない」「ノリよく、ガメつく」「週5で日サロに通う」「誰よりも黒くいる」「パラパラ踊れる」「礼儀正しく、常識を守る」のほか、さらには「どこの誰よりもイカツメギャルでいる」という決まりもあったとか。

「盛れていないとダメなんです。パンフ作成の為にピンプリを提出するんですけど、盛れてない子は事前に衣装やヘアメイクをみんなでセットしてあげてました。サークルの方針にあった化粧になってないと『もっと強めにして!』と指摘されたりして」

 ただ盛れていればいいというわけではないのだ。確かにきょんさんアンジェリーク時代の写真をみると、現在の柔和な雰囲気からは考えられないようないかつさがある。ガングロ、目の周りや鼻筋に塗られた白いシャドウ、ボリュームのある派手な髪型といったスタイルは筆者の知る“ヤマンバ”ではあるものの、明るく親しみやすさのあるそれとはまた違う。

「いかつめな化粧をしてるから表面上だけでも強くいようと思えたんでしょうね。化粧をすると自信が持てました。陽キャになれたんです」

◆仲間との諍いや掲示板での誹謗中傷…きょんさんを変えた人生の転換期

 きょんさんは周囲の目を気にするタイプだったという。

「元々ネガティブな性格で、常に最悪のことを考えて生きちゃう人間なんです。街を歩いてて人がこっちを見てたりすると(私ってやばいやつなのかな)って気にしちゃう。めっちゃ勘繰ります。そういう性格だからギャル時代のブログは闇(病み)日記になってました(笑)」

 そんなきょんさんにとってアンジェリークに加入したことが人生の転換期となった。“人に媚びない”というサークルの方針から受けた影響だけでなく、まるでビジネスマンのような仕事を任されるサークル活動、仲間同士のいざこざ、メディアへの出演、街を歩けば同世代のギャルから握手を求められる生活……そうした経験が彼女を少しずつ変えていったのだ。

サークルにいた頃は色々ありました。仲間との間で問題が起きたこともあるし、『雑誌話』って掲示板にあることないこと書かれたこともあって。それでメンタルがやられてた時期もあったんですけど、そういう経験を重ねるにつれて強くなった気がします。くだらないことを書くやつなんてどうでもいいと思えるようにもなりましたね」

 困難を乗り越えていくなかで、これからはひとりでもやっていけるという自信が芽生えていったそう。きょんさんは20歳でアンジェリークを卒業。同時にギャルスタイルもやめた。

「髪を暗くして化粧を薄くして。なんでだろうな……自然な流れでそうしてたんですよね。きっとそれまでは“盛る”ということにどこかで頼ってたんだと思います。卒業を決めたときにはギャルの見た目にならなくてもやっていけるという自信がありました」

 卒業後、きょんさんは人材派遣のコールセンターでリーダーに就く。仕事にはやりがいを感じ、生活や将来への不安はなかったという。それもまたサークルで社会人スキルを培ってきたからかもしれない、ときょんさんは語る。

◆好きだった人からのプロポーズ、第一子誕生。幸せな生活の影で生まれた歪み

 そして22歳で当時交際していた男性と結婚。ずっと好きだった人からのプロポーズ、断る理由はなかった。1年半後には彼との間に第一子となる長女が誕生。子どもが大好きなきょんさんはすっかり溺愛し、育児に励んだ。我が子との生活は何よりも幸せだった。

 幸せの絶頂……のはずだった。しかし、子どもへの愛が深まる一方で、夫婦関係は少しずつ歪み始める。

「いつの間にか当時の夫とは言い合いが絶えなくなってました。相手が投げかけてくる言葉も日に日にひどくなっていって。でも相手がそうなってしまうのは私のせいだと思ってたんです。そのときは関係を修復する方法ばかり考えてました」

 そんな努力むなしく、何を試してみても夫との関係は悪化していくばかり。きょんさんの思いとは裏腹に溝はどんどん深まってしまう。もうどうしたらいいのかわからなくなっていた。

 しかし離婚について考えたことはなかったという。決して不幸というわけではない。子どもとの生活は楽しい。夫との関係だって私が変われば何とかなるかもしれない……きょんさんはそう思いながら夫婦生活を数年続けていた。

 だが、自身でも気づかないうちに心は確実に追い込まれていた。

「ある日、お世話になってる先輩に夫とのことをポロッとこぼしてしまって。私、悩みを人に話せるタイプじゃないんですけど、そのときは自然に出ちゃったんですよね。そしたらその先輩が「それは離婚してもいいんじゃない。別れたらもっと楽しい人生が待ってるよ」と言ってくれたんです。それでようやくハッとしたというか」

 離婚という選択肢があるのか——信頼のおける人からの言葉はまさに青天霹靂。世界が一気に広がって見えたという。先輩の言葉をきっかけに、きょんさんは一歩踏み出すことに決めた。

 そうなればもう早い。それから1ヶ月も経たないうちに夫と別れ、シングルマザーとしての生活をスタートさせた。

「子どものためなら何でもできるという気持ちでした。生活への不安は一切なくて、自分だけの方がやっていけるわ!って感じで(笑)。むしろ離婚を決める前の方が悩んでたと思います。当時は育児に専念していたので家庭が社会のすべてになってたんですよね。こういうときこそ誰かに相談してみることって大事だなと思いました」

 シングルマザーになることを恐れる必要はない。自身の経験からそう気づいたきょんさんは、初めからシングルマザーを選択する道があってもいいのではないかと考えるようになる。

◆第二子を出産、籍を入れず選択的シングルマザー

 離婚後、第二子となる長男を出産。当時交際していた相手とは籍を入れなかった。

「私は男性と暮らすことに向いてないんだとわかったんです。誰にも縛られず自由に好きなことをやっていたい。でも子どもは大好きなのでもうひとりいて欲しいという気持ちはあったんです。そしたら当時お付き合いしていた彼と意見がマッチングして!選択的シングルマザーとして第二子を出産しました」

 こうした決断ができたのは娘のおかげでもあるという。娘は「結婚してほしいとは思わないけど、兄弟がほしい」とよく言っていたとか。「いつか弟か妹ができたら一緒に育てよう」と親子で約束をしたという。

 現在、娘は13歳、息子は2歳。ひとりで子どもを二人も育てるのは大変ではないかと筆者が聞くと、きょんさんは「パートナーのような心強い娘がいるので大丈夫です!」と笑顔を見せた。

◆「シングルマザーだって楽しく生きていける」

 現在、きょんさんは会社員を辞めてフリーランスとしてライブ配信を中心とした活動に専念している。自身の発信を通して、”シングルマザーは大変”という世間のイメージを覆していきたいと考えている。

「離婚に踏み込めないとか、シングルマザーになって不安とか、そういうDMがたくさんくるんです。私自身、一歩踏み出せたことで人生が大きく変わったので、悩んでいる女性たちに“シングルマザーになっても楽しく生きていけるんだ”ということを伝えていきたい……まあ、単純に目立つことが好きっていうのもあるんですけどね(笑)」

 少し照れくさそうに話しながらも、きょんさんの言葉や表情からはひたむきさが滲む。悩める女性たちに元気を与えられる存在になりたい。そんな彼女の目線は常に前を向いている。

「どんな仕事をしてても安定ってないと思うんですよ。だから自分のやりたいことをしたい。こうして前向きでいられるのは子どもの存在が大きいですね。あとはやっぱりアンジェリークかな。あそこにいた経験があるから、挫けずにいられてるような気がします。これからもっと頑張りたい。私はもう若くないですけど、それでもまだまだ人生は楽しめる。そう思っています」

<取材・文/奈都樹、撮影/藤井厚年>

【奈都樹】
1994年生まれ。リアルサウンド編集部に所属後、現在はフリーライターに。『リアルサウンド』『日刊サイゾー』などで執筆。またnoteでは、クォーターライフクライシスの渦中にいる20代の声を集めたインタビューサイト『小さな生活の声』を運営している。

―[“ギャル”のその後]―


渋谷のギャルサークル「アンジェリーク」の元副代表・きょんさん(37歳)