コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョンマンガ部」。今回は、地元で有名な心霊スポットをテーマに描いた“ゆるホラー”「穴のある家」をピックアップ。作者の狭刈十さんが、2024月2月21日に本作をX(旧Twitter)に投稿したところ、2000件を超える「いいね」や反響が多数寄せられた。本記事では狭刈十さんにインタビューを行い、創作の裏側やこだわりについて語ってもらった。

【ホラー漫画】古びた空き家から聞こえる声の正体に鳥肌…

■少年と大人たちが聞いた“床から聞こえる声”の正体

地元では名の知れている、いわくがないのになぜか「出る」という噂だけがある古びた空き家。その家にカメラを持って侵入したのは、近くの大学に通う岩鳶桃太郎という少年だ。家の中を見て回っていた桃太郎は、やがて誰もいないはずの家に響く「ギィギッ…」という足音を耳にする。

まだ人が住んでいるのか、桃太郎のような不法侵入者なのか、それとも幽霊なのか…桃太郎に緊張感が走る。「人んちで何してんだァ。警察呼ぶか?」しかし目の前に現れたのは武器を持ったヤンキー風の男、鬼門多門(おにかどたもん)と神呪冬治(かんのとうじ)。

2人は事故物件空き家、忌み地や心霊スポットなどから「穢れ」「障り」を見つけ熱狂家たちに売り渡す、オカルト特化のリユース業者。

桃太郎不法侵入を見逃す代わりに働かされることになり、“ポルターガイスト現象”が起こるという部屋で異常があったら鬼門に知らせるという任務を果たすことに。

桃太郎が30分ほどラジオを聞いていると、急にスマホの電波が圏外に。そしてラジオから異様な音声が流れてきた。この家では「床の下から声が聞こえる」という現象も起きているらしく、2人が床に耳を当てると、ラジオから聞こえてくる音と同じ音が聞こえてきて…。

物語を読んだ読者からは、「生きている人間が一番怖いな」「怖すぎる」など多数の反響が寄せられた。

桃太郎の魅力は「正体不明の元気の良さ」

――本作を創作したきっかけや理由があればお教えください。

私は普段は会社員をしながら趣味でイラストやタブロー作品を制作しています。今の所、漫画家ではないです。ただ、学生時代から漫画を描いてみたいと考えていたのですが(特にホラー漫画)、自分の頭では上手く話が考えられず、挑戦しては挫折する状態を繰り返していました。

ビジュアルではなく話が怖いホラー漫画にしようと思うと、どうしてもある程度しっかりしたストーリー性が必要になるので、難しかったんです。「やっぱり漫画は自分には向いてない、諦めよう!」と思って数年経っていたのですが、なんとなく年末年始の休みに書き初めの気持ちで試しに取り組んでみたら、意外と形にできた次第です。

ストーリーを考える力や実行力は社会人経験を通じてある程度獲得できたのかなと思いました。

――本作を描くうえでこだわった点や、「ここを見てほしい」というポイントがあればお教えください。

グロテスクなオバケやジャンプスケアをあえて用いず、できるだけ笑いに近いトーンで「なんとなく嫌なこと」「実際にあったら怖い話」を表現できるよう気をつけてみました。テンションさえ変えれば笑い話になる程度の、紙一重を狙ったつもりです。また、初めてしっかりした漫画を描いたので、友人にダメ出しを頼んだりして、とにかく読みやすさや漫画として成立するかという点に気を遣いました。

――鬼、神、桃太郎と特徴的なフレーズの入ったキャラクターたちですが、名づけのルーツなどはあるのでしょうか。

鬼門と神呪は元々「身体に鬼門が通っているアンラッキーすぎる人」とそのキャラを「ブラックな上司として厳しく使役する人」というハイテンションなホラーコメディのキャラとして考えていたので、二人の特徴が想像しやすい名前をつけていました。

実際は話のトーンをかなり抑えた作品に仕上げましたが、そのまま採用しています。桃太郎はオカルティックな怪しい二人組の足並みを乱す存在として、また「正体不明の元気の良さ」を感じさせるために採用しました。

――いっそ幽霊であってほしい」という岩鳶のせりふがありますが、実際岩鳶は「人間の方が怖い」というタイプなのでしょうか。

彼は恐怖を感じる回路がやや鈍いので、「人間に会った時場合の二次的な災難」を想定し、この時は相対的に幽霊の方がマシだと判断しています。通報されたらヤバい!と。

なので方向性は違えど質量としてはどちらも同じくらい怖いと思っているのではないでしょうか。元気で間抜けなメガネくんではありますが、その時々で自分の人生と目の前の恐怖を天秤にかける冷めた一面があると思います。

――今回の結末は晴れないモヤモヤが残る絶妙な最後でした。考えるにあたって気を付けたことがあれば教えてください。

今回の話は「お年寄りとちょっと変わった人による珍事件」として、警察が現実的に処理できてしまう内容です。実際にあったら笑い半分・ドン引き半分くらいの割合かなと。現実的にしっかり対処できるからこそ、禍々しさの根幹に「触れずに済んでいる」。そんな怪しい状況を作るため、あえて今回のような事件を考えてみました。あとは「怪談」に近いスタンスでやりたいので、「除霊モノ」にならないように気をつけています。

――今後の展望や目標をお教えください。

一応続き物として考えているので、着実に描き上げて公開できればなと思います。100ページを超えたらKindleで書籍化したり、イベントに持って行けたら楽しいだろうなと…。現状は趣味の傍らの趣味くらいでやっているのでかなりスローペースだとは思います。

それから、ホラー好きに楽しんでもらえるような、ぐっ…と来る嫌な話を描けたら嬉しいです。フィクションの嫌な話は現実の嫌な体験を有耶無耶にしてくれる一面がありますから。

――作品を楽しみにしている読者へメッセージをお願いします。

この度は拙い漫画をお読みくださりありがとうございました。漫画の更新・イラスト投稿・絵画展示等今後もマイペースに行なっていきますので、やさしく見守ってください。もっと見たい!という嬉しいお声があれば頑張れますので、たまにケツを叩いてください。

いっそ幽霊であってほしい…空き家に侵入した少年に迫る怪しげな足音/画像提供/狭刈十さん