飲み物・食べ物トッピングや海外ローミングの強化、データ通信専用プランの開始など、KDDIが密かに「povo 2.0」のサービス強化を進めている。だがpovo 2.0の今後を見据える上で重要なのは、むしろ終了を打ち出したサービスの方だろう。
○食べ物・飲み物とセットのトッピングも登場

基本料無料で利用でき、必要に応じてデータ通信量などを有料で追加する「トッピング」の仕組みが非常に特徴的な、KDDIのオンライン専用プラン「povo 2.0」。日本ではプリペイド方式によるモバイル通信サービスの数が非常に少ないだけあって、メイン回線としてだけでなく通信量が不足した時のサブ回線や、災害や通信障害が発生した時などの予備回線など、従来にない利活用がなされている。

かつてと比べれば注目度が下がっているpovo 2.0だが、その動向を追ってみると継続的に強化が図られていることが分かる。中でもここ最近注目を集めたのが、食べ物や飲み物とデータ通信量をセットにしたトッピングの登場だろう。

2023年12月にローソンの「からあげクン」と0.5GB/3日間のデータ通信をセットにしたトッピングを提供して以降、コンビニエンスストアや飲食チェーン店の商品と通信量をセットにしたトッピングを提供。その内容が非常にお得というだけでなく、povo 2.0は6カ月以上有料のトッピングを購入しないと自動的に解約されてしまうこともあり、「いま購入したいトッピングはないが、povo 2.0の回線は維持したい」というニーズにも合致し、注目されているようだ。

また2024年2月16日には、海外ローミングトッピングの充実が図られている。プリペイド方式に近いpovo 2.0では長らく海外ローミングで活用したいというニーズが多かったことから、その声に応える形で2023年から海外ローミングのトッピングを提供開始している。

そして今回の拡充によって、新たに欧州や中国、台湾などでよりお得に利用できる各地域限定のトッピングが提供開始されている。海外でお得に利用できる国や地域の拡大で、利便性が大きく高まったことは間違いない。

povo 2.0の機能を外部に開放か

そしてもう1つ、新たなサービスとして2024年3月27日に打ち出されたのが「povo2.0 データ専用」である。

これは文字通り、povo 2.0のデータ通信専用プランであり、通常のプランにある音声通話やSMS、海外ローミングは利用できない。また対応するSIMもeSIMのみで、物理SIMの発行には対応していない。一時的にデータ通信を追加したいサブ回線向けのサービスといえるだろう。

ただpovo2.0 データ専用は、サービスをデータ通信に絞ったことで、音声通話サービスの契約に必要な本人確認が不要になる上、eSIMでの利用となるためSIMの発送を待つ必要もない。それゆえ契約してから利用を始めるまでの時間が非常に短くて済むのが大きなメリットとなる。

実際KDDIの発表では最短3分で手続きができるとしており、すぐ手軽に利用できることに重点を置いていることが分かる。povo 2.0は元々、いわゆる「Z世代」を狙ったサービスでもありため、タイパ(タイムパフォーマンス)を重視してデータ通信専用のサービスを提供するに至ったものと考えられるが、povo 2.0の今後を見据える上ではこのデータ通信サービスと、もう1つ発表された内容が非常に重要な意味を持つ。

それは2024年3月29日に、トッピングの1つ「smash.使い放題パック(24時間)」を、2024年4月30日に終了すると発表したことだ。smash.はKDDIが出資しているSHOWROOMが提供するスマートフォン向けの動画配信サービスで、このトッピングはsmash.の有料プランが利用でき、なおかつsmash.のデータ通信も24時間使い放題になるというもので、povo 2.0の提供開始から用意されていたトッピングでもある。

ただその一方で、KDDISHOWROOMと、別の形でpovo 2.0に関する新しい取り組みを進めている。例えばSHOWROOMのライブ配信サービス「SHOWROOM」では、2023年9月28日から「SHOWROOMショップ supported by povo」が展開されており、SHOWROOMで配信しているアイドルのアバターや生写真と、povo 2.0の24時間使い放題トッピングをセットで販売している。

また以前には、SHOWROOMのアプリ内からpovo 2.0のデータ通信トッピングを購入できる仕組みを提供していたこともあるという。povo 2.0の外側にあるサービスから、さまざまな形でトッピングを入手できる施策を推し進めている様子がうかがえるだろう。

そしてKDDIはこれら一連の施策をさらに推し進め、povo 2.0をプラットフォーム化し、SDK等を通じてpovo 2.0の機能を外部の事業者に提供する計画があることを「MWC Barcelona 2024」で明らかにしている。これが実現するとどのようなことができるのか、先のSHOWROOMショップの例を挙げて説明しよう。

SHOWROOMショップでアイテムを購入して通信サービスを利用するには、別途送付されるメールに記載されたプリペイドコードをpovo 2.0のアプリから登録する仕組みとなっており、当然ながら利用にはpovo 2.0の契約が必須となる。だがSHOWROOMショップがpovo 2.0のプラットフォームと連携すれば、アイテムを購入した後に所定の手続きをするだけでデータ通信が利用できるようになり、povo 2.0の契約も必要なく、フリーWi-Fiに近い感覚で一時的なモバイルデータ通信の利用が可能になると考えらえる。

そしてこの仕組みを実現する上で、本人確認の必要なく利用できるデータ通信専用サービスは非常に相性が良いことから、一連の動きはpovo 2.0の外部開放に向けたものと見て取ることができそうだ。それだけに将来的には、何らかの商品やサービスを購入するとモバイルデータ通信が1日使い放題になるチケットがもらえる……といった仕組みが実現され、モバイル通信サービスのあり方自体が大きく変わってくることになるかもしれないのだ。
(佐野正弘)

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