電源の入らなくなった携帯電話を無料で「復活」させるKDDIのイベント「おもいでケータイ再起動」。2024年3月に体験者が1万5000人を突破しました。2016年に始まり、8年目を迎えたこのイベントについて、企画経緯や続けてきた理由について同社に尋ねました。

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 「おもいでケータイ再起動」では、長期間使っておらず、電池の過放電で充電できなくなった携帯電話を、専用の機器で充電し再起動携帯電話の中の見られなくなっていた写真をプリントアウトし、専用フォトフレームに入れて持ち帰ることができます。携帯電話のキャリアやメーカーは問わないとのことです(※スマートフォンは対象外。機種・端末の状態により充電・再起動できない場合もあり。要予約)。

 携帯電話が「復活」したことにより、保存したままの写真やもう会えない家族の留守電メッセージなども再生でき、体験した人からは「忘れていた思いが蘇るとともに、もう一度頑張ろうと思った!」など喜びの声が寄せられたそうです。

 データを取り出した後の携帯電話は、希望があった場合は回収しリサイクル携帯電話やスマートフォンなどの情報通信端末には、鉄や銅、アルミなど広く使われている金属から、貴金属やレアメタルまで、さまざまな金属資源が使われており、再資源化によって新品材料の使用料や、鉱物資源の採掘・精製時に発生するCO2を抑制できるとしています。

 同イベントは2016年7月の「au Style SHINJUKU」での開催を皮切りに、全国のKDDI・沖縄セルラー直営店や全国各地のイベント会場で開催されてきました。参加を求める人が多く短時間で予約枠が埋まるため、2022年以降は東京都内で毎月開かれるようになっています。

 好評を得ている「おもいでケータイ再起動」ですが、開始当初は8年間も続くと予想していたのでしょうか。また、直接売り上げにはつながらない事業を継続している理由は……KDDIブランドマネジメント部に尋ねました。

●「諦めたり、困ったりしているお客さんがいる限り、イベントを続ける」

 「おもいでケータイ再起動」が生まれたきっかけは、ケータイ誕生30周年企画として2016年にオープンした、過去発売した携帯電話をまとめたサイト「auケータイ図鑑」でした。

 「一般の方々からも使っていたケータイの写真を投稿してもらえるようにしたところ、ケータイはまだ持っているが電源が入らないという声を多数いただき、2016年に新宿で『おもいでケータイ再起動』を初開催しました。以降全国で400回以上開催し、のべ約1万6000人(2024年3月末時点)以上に参加いただいています」(KDDIブランドマネジメント部)

 企画を立ち上げた際のアンケートで、約7割の人が使わなくなった携帯電話を持っていて、うち約5割の方が電源が入らない、または入るかどうか分からないことが明らかになりました。その結果から、充電できなくなった携帯電話に保存されている思い出を見られないとあきらめている人も多いはずと、イベントのニーズを確信したといいます。

 「お客さまにとっても、当社社員にとっても、とても有益な活動だと信じていましたので、まず5年は続けたいと思っていました」(KDDIブランドマネジメント部)

 家庭で眠っている携帯電話が数千台と言われていることから、諦めたり、困ったりしているお客さんがいる限り、イベントを続けて思いを実現したいと考えているとのこと。

●直接売り上げにつながるわけではないけれど

 しかし、イベントでの携帯電話の「復活」は無料であり、売り上げにつながる事業ではありません。

 「直接売上にはなりませんが、この活動でご提供できる体験価値は、中期的に考えると事業にも貢献できると思っています。便利さやお得などの機能的価値は同質化しやすいですが、お客さまにとって忘れられない、替え難い体験のような情緒的価値は唯一無二だと考えます。そう考えると、この体験を通じてKDDIを身近に感じていただくことで、長くお付き合いいただける会社になれると信じています」(KDDIブランドマネジメント部)

 イベントそのものは短期的に利益になる事業ではないし、お客さんにとっても便利さやお得さはないけれど、携帯電話とともにしまい込まれていた思い出を蘇らせる特別な体験が、長くサービスを利用したくなるような関係作りにつながるということなのでしょう。

 体験者が1万5000人を突破したことについて、あらためて多くのお客さんに喜んでもらえたことをうれしく思うと同時に、まだ携帯電話が充電できないまま諦めたり、困ったりしているのではないかと考えていると担当者は述べています。

 「まだこの活動をご存知でない方も多いので、もっと知ってもらえるよう努力し、一人でも多くの方に笑顔になっていただけるよう続けていきたいと思います。2024年度には2万人突破を目指します」(KDDIブランドマネジメント部)

 イベントでは携帯電話を復活させたことで、思い出の音声や画像と再会できた人も多くいます。その中からエピソードを2つ教えてもらいました。

・亡くなったお母さまの肉声が唯一入っていると思われるケータイをお持ちになった方

留守電にはお母さまの声が入っていました。その声は、スマホに録音してお持ち帰りになり、心強いお守りとなりました

・お弁当の写真をプリント希望のお客さま

お話を伺うと、亡くなった奥様が最後に作ってくれたお弁当だったとのことで、大変喜ばれて『この写真を今夜の酒の肴にするよ』と帰られました

 「おもいでケータイ再起動」は全国各地で定期的に開催。4月にはKDDIコンセプトショップ「GINZA 456 Created by KDDI」をはじめ、北海道福島県で実施されます。また「GINZA 456 Created by KDDI」限定で、壁面ディスプレイに思い出の写真を投影して一緒に記念撮影することもできます。

 「このイベントでは、過去利用していたケータイを復活して中身を見ていただくことにより、懐かしい思い出と出会えるだけではなく『明日から頑張ろう』という未来への活力となった、というお声もたくさんいただいております。今後も全国各地で、au以外のケータイでもOK、参加費は完全無料で開催していきます。思わぬ出会いもあるかもしれませんので、お近くで開催の際にはぜひいらっしゃってください!」(KDDIブランドマネジメント部)

 新しい生活にまだ慣れない人も多い4月。携帯電話に眠る思い出に、励ましてもらうのもいいかもしれませんね。

(谷町邦子)

専用の機器でケータイを再起動