自分の人生に何の価値もないと思っていた中年男性が、これまでの人生と引き換えに「空を飛ぶ力」を手にしたら…。勝見ふうたろー(@mangaka_tsumi)さんの漫画「飛ぶ男」は、いいことなど何一つないように感じていた毎日の中から主人公・長島が見出した小さな喜びや幸せ、そして物語のラストで彼が抱いた思いなどを通して、「人生」について考えたくなる作品だ。本作について、作者の勝見ふうたろーさんに話を聞いた。

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■「月は『欲しいけれど、実際に手にしてはいけないもの』の象徴」

本作を描いたきっかけについて、勝見さんは「絵として『背広のおじさんが空を飛んでいる』のが、非常におもしろいと思ったのが始まりです。漫画は絵が面白いのが、まず最初に大事なことだと思っています」と、そのビジュアルイメージを基に物語を組み立てていったことを明かす。

「空を飛ぶ」という多くの人が作品に描いてきたことをテーマとする本作は、次第にシリアスな展開となっていくのもポイント。「カルト宗教に飲み込まれていくような、不気味な怖さを伝えたいと思いました。ただ最初からそれを全面に出すと人を選びそうな気がしたので、初めのシーンは楽しそうにしておいて、少しずつ本来のテーマに誘導していきました」と、その展開に込めた意図を明かしてくれた。

空を飛ぶ力を得た長島は月を目指していくが、目的地を「月」とした理由を尋ねると、「月というものが、僕にとっては『欲しいけれど、実際に手にしてはいけないもの』の象徴だからです。綺麗で魅惑的には見えるけど、実際には過酷な環境なわけですから。パンドラの箱のようなイメージが強くあります」とのこと。古くから「満月は人を惑わせる」と言われるが、空を飛ぶという“パンドラの箱”を開けてしまった人々が目指す場所としてはピッタリなのかもしれない。

取材協力:勝見ふうたろー(@mangaka_tsumi)

飛べれば人生なんていらないと思った/画像提供:勝見ふうたろー(@mangaka_tsumi)