遺言書・財産目録は遺産分割をスムーズに進め、相続手続きを軽減するためにもぜひ作っておきたいもの。また、生前からの相続税対策でも必須となります。家族への最後の思いやりとして、しっかりした遺言書・財産目録を作成しましょう。※本連載は、公認会計士であり、税理士、社会保険労務士の資格を持つ五十嵐明彦氏監修の書籍『いちからわかる! 相続・贈与 2024年最新版』(インプレス)より一部を抜粋・再編集したものです。
遺言書を作成するメリット
遺言書では、相続分の指定・分割方法のほか、さまざまな決まり事を、被相続人自らが事前に指定することができます(下記『遺言書で決められる「遺言事項」』参照)。
こうした遺言事項を通して、相続をめぐるトラブルを防ぐことができるほか、相続手続きの負担も低減できます。遺族のことを思えばぜひ、作成しておきたいもの。とくに、次のようなケースに当てはまる人には、遺言書の作成をおすすめします。
①法定相続人以外にも財産を残したい
家族や親族以外に財産をあげたい場合は、遺言書が必須となります。
②遺産分割を自分で決めたい
例えば配偶者に自宅、子どもに証券を残すなど、自分の財産の状況に応じて、どの財産を誰に引き継ぐかを遺言書で指定できます。
③子どもがいない
子どもがいないと、配偶者のほか故人の両親か兄弟姉妹が相続人になります。相続手続きの中には、例えば自宅の名義変更など相続人全員の同意が必要なものもあり、1人遺された配偶者がそれらを行うのは負担が大きいものです。遺言書で指定しておけばその手続きは不要になります。
④財産のうち、不動産の占める割合が大きい
「うちには財産がない」という人でも、マイホームを持っている場合は少なくありません。不動産は物理的に分割できないため、どう分割するか、相続人同士が頭を悩ませることになりがちです。誰に引き継いでもらうかはしっかり指定しておきたいものです。
遺言書作成のメリット
●自分の意思で財産の分け方を決められる
●相続トラブルを予防できる
●遺族の相続手続きの負担を軽減できる
●自分の人生を充実させることにつながる
遺言書で決められる「遺言事項」
【財産の処分方法に関すること】
★信託の設定 信託銀行などに信託する旨を記す
★寄付行為 特定の団体等への寄付を行う
★相続分の指定または指定の委託 法定相続分とは異なる相続の配分を指定する
★相続分割方法の指定、委託、禁止 個々の財産をどのように分割するかを指定する
★生命保険受取人の指定 生命保険金の受取人を契約とは別に指定または変更する
★特別受益の持ち戻しの免除 特別受益分を相続分に持ち戻しさせないようにする
★相続人の担保責任の指定 遺産分割で取得した財産に欠陥があった場合はその損失をほかの相続人も相続割合に応じて負担しなければならないが、その内容を変更する
★遺留分の減殺方法の指定 遺留分を侵害する遺贈が複数ある場合、減殺する財産の順序やその割合などを指定する
★相続人の廃除またはその取り消し 相続人の廃除、または一度相続人から廃除した者についての取り消しを指示する
【身分に関すること】
★子の認知 婚姻関係のない人との間の子を認知する
★後見人または後見監督人の指定 未成年の子などに対する後見人、または後見監督人を指定する
【その他】
★遺言執行者の指定または指定の委託 遺言を執行する人を指定する
★祭祀主宰者の指定 先祖の墓などの継承者を指定する
「遺言書」「財産目録」作成の注意点
遺言書にはその様式によっていくつかの種類がありますが、自筆で記す「自筆証書遺言」と、公証人に書いてもらう「公正証書遺言」の2つが主流となっています。
ここでは、まず手軽に作成できる「自筆証書遺言」の書き方について解説します。
「自筆証書遺言」は、手軽さが魅力ですが、法的な要件を満たしていないと無効になるケースもあります。
まず、その名の通り、すべて自筆で記さなければなりません。そのため、それなりに時間や手間がかかります。また、修正する場合は修正液などは使わず二重線で消して修正印を押します。上に示したポイントも押さえながら丁寧に書いていきましょう。
遺言書が認められるための要件
●全文を自筆で書く(財産目録はPCで作成してもOK)
●自筆で署名する
●実印で押印する(認印でもよいが、実印が無難)
●作成した日付を明記する
●訂正は二重線と署名押印で行う
また、財産目録は2019年1月13日以降、パソコンで作成可能となっています。ただし、パソコン作成の場合でも1ページ(両面印刷の場合は裏表)ごとに署名押印が必要なので注意しましょう。
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