閉館した静岡県・熱川温泉の老舗ホテルに届いた手紙が、心が打たれると話題です。ホテルに詳しい話を聞きました。

【画像】ホテルに届いた手紙

●差出人は娘の誕生日に宿泊したお客さん

 手紙を受け取ったのは、2024年1月末に閉館した熱川温泉ブルーオーシャン。誰もいないホテルのフロントに置かれた数々の封筒の中に手書きの封書があり、その内容に涙が止まらなかったと公式X(Twitter)に投稿しました。

 それは2023年8月に宿泊した客からのもの。その日は5歳の娘さんの誕生日だったので、サプライズでのお祝いをお願いされたそうです。夕食が終盤に差し掛かったとき、支配人とスタッフがケーキを持ってきます。サックスによる「ハッピーバースデー」の演奏付きです。他の席のお客さんも一緒に歌ってお祝いしてくれました。その様子はXの投稿でも確認できます。

 手紙には、2024年の誕生日も宿泊しようと思っていたところ、娘さんが小児がんにより他界し、かなわぬ夢となってしまったこと。落ち着いたらもう一度泊まりに行こうと思っていたところ、閉館の知らせを目にしまったこと、そして「もし再開することがありましたらその時は必ず宿泊させていただきたいと思います」とつづられていました。

●閉館の理由は「物価高騰」

 ホテルに取材を申し込んだところ、代表取締役の関野祐智氏が快く応じてくれました。現在は熱川温泉再生プロジェクトを進めているとのこと。こちらについても聞きました。

―― 利用客から手紙やメッセージが届くことはよくあるのでしょうか?

関野氏: 年に数回はあります。「借りたものを返すのを忘れていた」「アニバーサリーに感動した」「サービスに感動した」こういった内容が多いですが、中には「サービスが悪い」というお叱りもあります。

―― 閉館の理由を教えてください

関野氏: 物価高騰による収益の悪化です。設備が古い関係で、水道光熱費が新しいホテルの倍くらいかかります。さらに、食材の高騰、人材不足による人件費の高騰が重なり運営が厳しい状況が続いておりました。引き継いだ時にはわかっていたことですが、その中で打開策はリセットしかないという判断で閉館することを決定いたしました。

―― 手紙をくれた利用客の方は、宿泊時、お子さまの病状について何かお話しされていたのでしょうか?

関野氏: ありませんでした。ただ、誕生日なのでケーキを出してほしいというリクエストだったので、有料であるということを説明して、ケーキをご購入いただきました。チェックインの時にお食事の後半にスタッフがロウソクに火をつけて持って行きますということだけお話していて、奥様からタイミングを教えて下さるようにお願いいたしました。

―― Xに投稿するにあたって、事前に何か伝えましたか?

関野氏: ご連絡して伝えております。ただ、万が一変な炎上になった場合は即座に取り下げる、名前は控える、泊った時期も、家族構成などプライバシーにかかわることは一切公表しない。手紙の現物は出さない(ぼかしなどもだめ)ということをこちらから提案して投稿の許可をいただいております。

―― 投稿にはさまざまな反応がありました。どんな感想を持ちましたか?

関野氏: インプレッションの数に驚いています。他の出来事の投稿も少しは伸びましたが、ここまで伸びるとは思っていもいませんでした。

●ホテルを再開させるため、まずは「熱川をなんとかする!」

―― ホテルを再開するめどは立っているのでしょうか?

関野氏: ホテルの再開については、かなりの額の再投資が必要になります。効率のよい設備に交換したり、客室のリノベーションをする必要があります。もちろん、新たなオーナーが現れて投資するという流れになれば可能性は出てくると思います。しかし、現状では熱川温泉にパワーがありません。

 温泉街は廃虚だらけ、シャッター商店街、飲食店は数件。カフェなんかどこにも存在していません。そんな魅力が無い町ではお客様を集めることができないのが現状です。「熱川をなんとかする!」そこから始める必要があると思っています。

―― 熱海は一時衰退しましたが、そこからの復活が注目されていますよね

関野氏: 熱海が再生されて人気が出ているのはホテルが良くなったからではありません。ほかの再生されて人気が出ている観光地もすべてホテルが良くなったからではなく、町が活気を取り戻しその結果としてホテルが再投資をして人気のホテルが出来上がっていくものだと思っています。

 まずは、ここ熱川温泉を行ってみたい場所にすることが先決だと考えています。観光地が盛り上がっていくためには、名物、名産、オンリーワンを作り上げていくしかありません。

―― 「熱川温泉再生プロジェクト」では、どんな活動をしているのでしょうか?

関野氏: 例えば、4月6日のイベントでは金目鯛ラーメンを出します。ビジュアルも味も最高です。こういったものを全ホテルで作ってコンテストする。それをメディアが取り上げて、町中金目鯛ラーメンののぼりが立っている。そうすると、熱川=金目鯛ラーメンということで 全国からラーメン好きが集まります。

 本厚木が白コロホルモンで有名になった数年後に「借りて住みたい町ランキングNo.1」になったように、熱川は「金目鯛ラーメンから始まる!」みたいなことが起きないといけないと思っています。

―― 金目鯛ラーメン、すごくおいしそうですね! 他にもオンリーワンを作り出すアイデアはあるのでしょうか。

関野氏: 次のプロジェクトとして「熱川温泉青白龍プロジェクト」を考えています。『青白龍伝説』(※)を熱川に蘇らせるプロジェクトです。この資金をクラウドファンディングで集めようと思って準備しています。

 ただ、これ一つで町がどんだけ盛り上がるんだ? と思っていますので、現在CAMPFIREの「地域・企業との取り組み」のページに「熱川温泉」のバナーを作ってもらって、そこで何件も同時に募集を開始し「総額〇〇千万円」のような流れを作り出せないかを打診しています。これには熱川OBや東伊豆OBを集める必要があり、その動きもしようと思っています。

―― では、最後に、熱川温泉の魅力を教えてください!

関野氏: 可能性があるのが一番の魅力だと思います。東伊豆町はロケ地としての知名度は抜群です。聖地巡礼で来られる方も多数おります。町の人は、その魅力に気が付いていないだけだと思います。

 熱川温泉ブルーオーシャンの投稿には「とてもとても涙が溢れました」「泣きながら気持ちも癒されて温かくなりました」といった反応が寄せられました。また再生プロジェクトを応援する声もたくさん集まっています。

閉館した熱川温泉ブルーオーシャン(画像は公式サイトより)