仕事でミスをしてしまった時、あなたならどう対処しますか?正直に上司へ報告し指示を仰ぎますか? それとも、なんとかして自分で解決しようと試みますか? どちらが適切かはその状況により異なりますが、重要なことはミスを拡大させないことです。今回は、ミスを自己解決した部下が大失敗したエピソードを聞いてきました。

◆急きょ大役を任された新人社員

 洋菓子メーカーの製造部門を任されている岡崎さん(仮名・46歳)。その年も、岡崎さんの部署には数名の新入社員が加わりました。

「その年は、ちょっと気になる新入社員がいましてね、その人物は他の新人より2歳年上で、入社前から工場見学に足を運ぶほどの、お菓子作りが大好きな青年なんです」

 岡崎さんの目に留まったのは杉下さん(仮名・25歳)という新人で、4年制の大学を卒業後、菓子職人への夢を諦められず、製菓専門学校へも通ったのだといいます。

「年齢のせいなのか、他の新人よりも仕事に対しての安定感を感じました。ちょっと迷ったのですが、彼の先輩社員のMくんが結婚して慶弔休暇を取得したので、その間だけ杉下くんにMくんの仕事を任せることにしたんです

◆やってしまった大失態

 Mさんの仕事とは、菓子製造に必要な材料を発注する業務で、たいていは、入社5年のキャリアが必要なのだそうです。そんな大役を任された杉下さんは、Mさんが休暇に突入するまで張り付きで発注方法を習得したそうです。ところが――。

「1度目の発注は特に問題なくクリアしたのですが、2度目の発注後しばらくして、杉下くんが血相を変えて私のところにやってきたんです。かなり悲壮な顔をして『岡崎さん、大変申し訳ございません。材料の発注ミスをしてしまいました』と報告を受けました。何のミスをしたのかと尋ねると『数量を一桁間違えました、本当にすみません』と、泣きそうな顔で謝っていました」

 杉下さんは、オンライン発注した10種類のうち、2種類の数量を一桁間違えて入力していたのでした。入荷した段ボール箱を開けてはじめて気づいたそうです。

◆「気にするな」と言ったのですが…

数量間違いと言っても、材料の個数を10個と入力するところを100個と入力したわけで、それほど日持ちのする材料ではありませんでしたが、貴重な経験にもなったので『気にしなくてよい』と伝えました。しかし、杉下くんにとっては大きな問題だったようで、かなり落ち込んでいる様子でした」

 責任感が強い杉下さんは、寛容な岡崎さんの言葉に全く甘んじることなく、超過仕入れの材料と、予備ストックの生地を使用して、イレギュラーサイズの焼き菓子を担当スタッフの協力で製造してもらい、自ら軽貨物レンタカーを借りて自宅近くにあるタワマンの敷地で販売することをたくらみます。

杉下くんが、余剰在庫でミニサイズの焼き菓子製造を行うことは事前に許可したのですが、それを自ら販売しようと出向いたことは後で知ったんです。彼の性格からしたら無理もないと思うのですが、それよりも、入社間もない彼に重荷を背負わせた自分にかなり負目を感じていました」
 
◆嫌な予感が的中し最悪の事態に

 杉下さんは、わざわざ有給を消化して移動販売に出向いたわけですが、事後報告を受けていた岡崎さんには、他にも心配事があったといいます。そして、それは的中することになります。

「警察から電話が入ったんです。嫌な予感が的中しました。電話の内容は、当社の社員が無許可で菓子の移動販売を行っているというものです。幸いなことに、実際には販売を開始する直前だったことと、所轄の警察署に私が出向いて経緯を説明したこともあり、指導を受けただけで済みました」

 食品の移動販売には、保健所への届出が必要なことなど知るよしもない杉下さん。度重なる自分の失態に涙を浮かべて謝罪したそうです。 

かなり落ち込んでいる杉下くんを目の当たりにして、僕のほうが心配になってきたんです。彼のことだから、また思いつめて何かしでかしそうで……。とにかく『君には責任はないから、気にしないでくれ』という趣旨の言葉をしっかり伝えました」

◆救いとなった先輩の言葉

 それから数日後、新婚旅行から戻り久々に出勤したMさん。休暇中の出来事を岡崎さんから一通り説明を受けると、買ってあったお土産を手に杉下さんの元へ――。

「休暇中の仕事代わってもらってありがとうね。岡崎さんから聞いたんだけど、あの発注画面、最近よくバグるんだよ。なんか、テンキーがおかしいみたいでメンテナンス依頼しているんだ。だから、誤入力なんて気にするなよ!

 Mさんの口から新たな事実を知り、それまでの暗い表情に笑顔が少し戻った杉下さん。今回の経験をバネにして菓子作りに励んでほしいですね。

<TEXT/ベルクちゃん>

ベルクちゃん】
愛犬ベルクちゃんと暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営

―[とんでも新入社員録]―


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