日産自動車が下請法違反で公正取引委員会から勧告をうけマスコミ各社が大きく取り上げています。マスコミの論調としては、ここぞとばかりに「下請けいじめ」だ、大企業の横暴であり、けしからん、というものとなっているようです。

今回の日産自動車の件は、「自動車部品の製造を委託」している企業に対する下請代金の減額を強いたもの、とされており、そういう点からは購買部門の担当であることが推察されます。詳細は分かりませんが、あれほどの大手企業の購買部門であれば、下請法に抵触するかどうかは、事前に絶対にチェックしていたはずです。

繰り返し、詳細は分かりませんが、下請法の11の禁止事項の中で、「買い叩き」の禁止、「下請代金の減額」の禁止などは、禁止事項の解釈が曖昧であることが、過去から言われてきました。日産自動車の今回のケースがあてはまるかどうか、繰り返し不明ですが、法の解釈が担当部局や担当者、時代によって変わる、ということは企業の調達購買部門で働くバイヤーにとっては、とても分かりにくく、常にリスクを感じながら業務をすすめなければなりません。

また、下請法は調達購買部門だけでなく、会社全体にかかわる法律なので、調達購買部門はユーザー部門に対しても遵守させる役割をもっています。私は法律が曖昧であることが問題だということを言いたいわけではなく、このような状況下で、調達購買部門やバイヤー個人が法の理解を深めて、自身や自部門だけでなく、会社全体に対して、それを説明、浸透させることが必要であり、そのために、日々苦労している、ということを言いたいのです。

一方で、公正取引委員会中小企業庁の取り組みは過去にないほどの勢いです。

2022年12月27日の「独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に関する緊急調査の結果について」では13社の企業名を公開しました。また、2023年11月29日には「労務費の適切な転嫁
のための価格交渉に関する指針」の公表で、労務費転嫁についてのガイドラインを発表したのです。2024年に入ってからは、1月12日中小企業庁が「価格交渉促進月間(2023 年9月)フォローアップ調査の結果について」を公表し、220の発注企業の評価を発表しました。

また、直近では、2024年3月15日公正取引委員会は「独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に係るコスト上昇分の価格転嫁円滑化に関する調査の結果を踏まえた事業者名の公表について」で10社の企業名を公表しています。

注目すべきなのは、2022年末や24年3月に発表された企業名については「当該事業者名の公表は独占禁止法又は下請法に違反すること又はそのおそれを認定したものではない。」と注記
されていることです。つまり、法律違反はしていないけど、ちょっと危ないから公開しますということです。

このような流れは政府が賃金を上げたいという想いがあるからでしょう。23年の春闘による大企業中心としたベア率は3.58%で24年はそれを超えると言われています。一方で中小企業
いまだ賃上げが追いついておらず、それは価格転嫁が進んでいないからであり、大企業側は価格転嫁を認めるべきだという政策をとっているのです。まさに官製値上げと言えます。

私は官製値上げを否定するつもりはありません。賃金アップや適正なインフレは日本経済に活力を与えますし、以前のメルマガでも書きましたが、適正な値上げや価格転嫁はするべきでしょう。

一方で、下請法違反の勧告や企業名の公開が増えている=「下請けいじめ」が増えている、というような単純な構図ではないということも明らかでしょう。

しかし、今回の政府の働きかけの根底にある考え方は、「大企業は下請け企業をイジメるもの」という既成概念によるものは間違いありません。しかし、私が知っているバイヤーや調達購買部門で「下請いじめ」などやってる企業はありません。むしろ官製値上げを働きかける国に対して、右往左往している、のが私が知っているごく普通の調達購買部門なのです。

このようなことを考えている中、先日こんな記事が目にはいってきました。筆者の名誉のためにリンクを貼ることはしませんが、要約すると、こんな内容です。

精密機械メーカーの購買課長は購買一筋30年過ごしてきている。その課長は、ほぼ毎日お昼時に納入業者を引き連れてランチに出向いている。また、スマホが最新のiPhoneに変わったり、ボロボロの通勤カバンがハイブランドになったりしているなど、納入業者との関係に問題があったようだ。ところがある事件がきっかけとなり、この会社では、購買課という部署が廃止され、部署ごとによる資材調達制度に切り替えられた。当の課長さんは、孫請け会社の運送会社へ転籍させられた。

まさか、今どきこんなバイヤーはいないでしょう。割と最近の事例ですが、2016年にある大手電機メーカーのバイヤーが中国で過剰な接待をうけ、会社から処分を受けたことが、報道されました。この事案は多くの企業で接待や贈呈品などについて、法遵守やそれ以外も含むコンプライアンス遵守を徹底するきっかけになったのです。

しかし、この筆者は何をもってこういう記事を書いたのでしょうか。私もかなり前ですが、購買実務の経験はあります。その当時は、接待や中元、歳暮などはありましたが、過剰なものはありませんでした。また、接待は、むしろ貴重な情報交換やコミュニケーションの場と考えていたくらいです。また、私が実務をやっていたころは、バブルの時代と重なったため、新規発注しようにも、受けてもらえない時代でした。

「野町さん、もうこれ以上の受注は無理です。」「受けてもらえる会社がないから、お願いだから受注してもらえませんか。」とお願いをする毎日が続きました。

このように実態は、下請けイジメとか、過剰な接待など、全く違う世界でしょう。これが実態ではないでしょうか。マスコミや一般の社会、国や政府もそうですが、もっと実態を理解してほしいと、とても強く感じます。

また、それとともに、バイヤーの方々、調達購買部門に従事されている方々には、「下請けいじめ」や「過剰な接待」など、これが一般社会の見方だということを理解してほしいのです。
そして、自らをより一層律して欲しいのです。

このような想いを強く感じる今日この頃でした。

野町 直弘