『ただの人にならない「定年の壁」のこわしかた』(マガジンハウス)著者で公認会計士の田中靖浩氏は、優秀な人ほど“誰からも褒めてもらえなくなる”といいます。いったいなぜなのか? 会社(所属・組織)に依存する50代の危険性とともにみていきましょう。

不健康、金欠、孤立…“会社人間”の50代に襲いかかる「5段階」の不安

所属・承認欲求を会社に依存したまま50代を歩んでしまうと、不安の塊になります。あの「欲求」あふれた若き頃とは反対に、「不安」が階層構造になってわが心をむしばむのです。マズロー先生にならって私が作成した「不安五段階説」図をご覧ください。

まず年を取ると身体のあちこちにガタがきて「不健康」不安が出ます。次に収入を失う「金欠」不安。この健康とお金という2大不安に加えて、会社を退職すると所属がなくなる「無所属」不安、そして誰にも認めてもらえない「孤立」不安が加わります。

身体・お金・精神これらの不安にさいなまれた末にやってくる最悪の状態──それが「自己否定」です。自己を実現するのではなく、その反対に「自分には生きる意味がない」とばかりにうつむいてしまうのがこの状態。

どうかこの図を冗談だと笑わないでください。健康不安から金銭不安、そして心の不安、これが階層的に重なってくると人間は誰だっておかしくなります。怒りっぽくなったり、不機嫌になったり、クレーマーになったりします。

「健康な身体」は貯金と同じ

それを避けるため、まずは健康に気を付けましょう。貯金をするために節約するのはいいことですが、身体に良いものを食べましょう。

これから医療費の自己負担が上がるのは間違いありません。病気にならなければ医療費と時間の節約ができますから、これは貯金と同じ意味をもちます。「健康な身体」は貯金と同じ金銭的な価値をもつ──このことをしっかり承知しておきましょう。

「孤立不安」の解消策は「自分で褒める」

成功を積み重ねると“誰も褒めてくれない”

そして「無所属」や「孤立」について私自身が気を付けているのが「自分のことを自分で褒める」こと。これはサラリーマンだけでなくフリーランスや自営業などすべての大人にいえることですが、「成功を積み重ねる人間」は成功しても周りが褒めてくれなくなります。なぜならその人は能力があり、成功するのが当然だと見えるからです。

私もはじめて本を出したときは家族が全員でお祝いしてくれましたが、いまや新刊を出版しても「ふ~ん」という言葉しかありません。何冊も出版するほうが難しく、価値があるというのに。

しかしそれは受け入れねばならないのです。そんなときは「自分で自分を褒める」しかありません。それができないと「周りに賞賛を要求する」ようになって嫌われます。

私の友人であるN社長はすごく仕事ができる人格者ですが、会社の部下も家族も、誰も褒めてくれないそうです。そう、彼は優秀すぎて結果を出すのが「当然」としか見えないのです。気の毒なN社長。

そんな彼は、クルマの運転を終えてエンジンを切る際、カーナビから流れる「今日も1日お疲れさまでした」の音声が唯一の癒やしだと言っていました。それでも笑顔を絶やさない彼のことを私は心から尊敬します。早くその境地に近づきたいものです。

年をとったら“自慢”と“説教”と“塩分”は控えめに

フリーランスとして仕事をしたければ「人の縁」が欠かせません。100億円分を大勢に売るのではなく10万円分を少人数に売る「小さな商売」がゆえに誰に売るかが重要であり、その人との縁のつくり方、育て方がカギを握ります。

とくに最近多いサービス業の場合、売り手がサービスそのものであることが多いので、自分が「この人とまた会いたい」と思われるキャラクターでなければ仕事が続きません。

「感じの悪い人だな」と思われたら最後、相手は黙って自分から離れていきます。そこでは企業取引にありがちな「会社の格」など関係ありません。人間同士のフラットな付き合いのなかで関係が築かれていくのです。

この点、年長者はとくに気を付けましょう。年長者の話には自慢、あるべき論の押し付け、説教が多いです。また成功した年長者ほど、その傾向が強いです。

世間ではこれを老害と呼んでいるようですが、自慢と説教は会社で嫌われるだけでなく、転職や定年後フリーランス化を阻む壁になります。「ベテランは若い人とチームを組むのが苦手」と言われぬよう、自慢と説教を控えめにしましょう。

「いつもの自慢話」と「お決まりの説教」が多くなると、みんなうんざりして離れます。それでも説教を止めないと部下や家族から敬遠され、孤立します。こうして老害の人は孤立し不機嫌になっていくのです。

「年を取ったら自慢と説教と塩分は控えめに」

これが自らの時価を上げるために大切な一歩です。

田中 靖浩 作家公認会計士

(※写真はイメージです/PIXTA)