●『いいとも』『みなさん』『めちゃイケ』終了との違い
3月30日、『世界ふしぎ発見!』(TBS)がレギュラー放送を終了。1986年のスタートから38年にわたって放送された長寿番組だけに、ネット上には惜別のコメントがあふれた。

今春は、同9日に2008年スタートの『ブラタモリ』(NHK総合)、同23日に2004年スタートの『世界一受けたい授業』(日本テレビ)もレギュラー放送を終了。やはりネット上には終了を惜しむ声が飛び交っていた。

長寿番組の終了は2010年代もいくつかあり、SNSの反響は大きかったが、今春の動きを見ていると当時からの変化がうかがえる。果たしてそれはどんな変化で、その背景には何があるのか。テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。

2010年代は「放送を終了」が既定路線

まず、長寿番組をめぐる今春の変化とは何なのか。

冒頭の文章に「レギュラー放送を終了」と書いたように、今後は3番組すべて特番での不定期放送が既定路線。唯一、明言されていない『ブラタモリ』も「2015年からお届けしてきた今のスタイルでの放送は3月9日の回をもって、いったん区切りをつけることになりました。今後、さらに楽しんでもらえるような番組になることを目指して、検討を続けていきます」とコメントしているだけに、不定期特番として放送される日が来るのだろう。

一方、10年代にレギュラー放送を終えた主な長寿番組を見ていくと、『笑っていいとも!』(フジテレビ)、『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジ)、『めちゃ×2イケてるッ!』(フジ)らは番組自体が終了し、特番すら放送されていない。

10年代20年代も、レギュラー放送終了に至る最大の理由が「視聴率低迷」であることは共通しているだけに、なぜ「放送終了」と「特番で不定期放送」の違いが生まれているのか。

もちろん出演者の意向は重要であり、健康状態やモチベーションなどの問題もあるだろう。ただ、テレビ局側の意識が変わり始めていることも確かだ。

近年はバラエティとドラマを中心に番組のジャンルを超えて、過去に放送されたコンテンツが再評価されていて、アーカイブをベースにした特番を制作。あるいは、1日に反町隆史主演ドラマ『GTOリバイバル』(カンテレ)が放送されたように、“令和版”として復活させるというケースが続いている。

●熱い支持や終了を惜しむ声が可視化
その背景にあるのは、「バラエティもドラマも過去の人気番組は局の財産」という考え方の変化。若年層を中心に昭和・平成ブームが起き、テレビでも令和とのギャップを生かした番組が支持を集めている。また、制作費削減の観点からも、過去の番組を生かした企画が求められているという。

そのため昭和・平成の人気番組は、「レギュラー放送が終わったら番組終了ではもったいない」「できれば特番として残しておいたほうがいい」「新しい特番をイチから立ち上げるよりも確実」などと扱いが変わり始めている。

長寿番組を「古い」「マンネリ化」などとネガティブにとらえるのではなく、「今だから貴重」「普遍的な面白さがある」などとポジティブな点に目が向けられるようになったからこそ、特番として残そうとしているのだろう。

だからこそ期待したいのは、「目先の数字だけにとらわれず、長年見続けてくれた視聴者のことを考えた決断をする」というスタンス。視聴者に「局側の都合だけで一方的に終わらせません」「熱心な視聴者のために特番として続けるのでぜひ見てください」というスタンスが伝われば、動画配信サービスにおける過去放送回の再生、イベントやグッズの展開など、多少のビジネスにつながるかもしれない。

また、長寿番組を完全に終了せず特番化する背景には、「終了を惜しむ声がX(Twitter)などで可視化され、制作サイドやスポンサーに届きやすくなった」という理由もあるという。

少なくとも「視聴率は下がってしまったが、まだまだこれだけのニーズがある」「レギュラー放送は難しくても、特番ならそのニーズを一度に集められるのではないか」と考えやすくなったことは確かだ。局内だけでなく出演者やスポンサーに対して、「これだけファンがいて待望論もあるので特番として残させてください」と説得材料にすることもできるだろう。

いずれにしても、「番組を一部の指標だけではなく、視聴者の反応や熱量を見て判断しやすくなった」という意味でテレビ業界は、ようやくコンテンツの評価基準が適正化され始めている。

○時代と「お笑い」「教養」の浮き沈み

あらためて今春でレギュラー放送を終了した『世界ふしぎ発見!』『ブラタモリ』『世界一受けたい授業』に注目すると、いずれも教養の要素が濃い番組だった。10年代に終了した『笑っていいとも!』『とんねるずのみなさんのおかげでした』『めちゃ×2イケてるッ!』などのお笑い要素の濃い番組と比べると一目瞭然だろう。

教養の要素が濃い番組は総じて中高年層からの支持が厚く、世帯視聴率や個人全体視聴率を取りやすい。そのため、「お笑い要素の濃いバラエティのように10年代で終了させなくて済んだ」という背景があった。

しかし、2020年春に視聴率調査がリニューアルされて以降、各局がコア層(主に13~49歳)の個人視聴率獲得に向けた番組制作を進めたことで状況が一変。教養の要素が濃い番組は苦況に追い込まれ、「今春のレギュラー放送終了も仕方がない」と見る業界関係者は多い。

もし、10年早い2010年春に視聴率調査がリニューアルされていたら、『笑っていいとも!』『とんねるずのみなさんのおかげでした』『めちゃ×2イケてるッ!』はレギュラー放送を終了していたとしても特番として残されていたのではないか。

番組の内容こそ全く違うが、2020年代の今もタモリは『タモリステーション』(テレビ朝日)、とんねるずは『夢対決!とんねるずのスポーツ王は俺だ!!』(同)などの特番に出演し続けているだけに、「年に一度の特番でも残そう」というムードがまだなかったことが悔やまれる。

だからこそ今春の“長寿番組のレギュラー放送終了→特番化”だけに留まらず、“終了した人気番組→特番復活”をもっと進めてもいいのかもしれない。出演者もスタッフもプライドがあるだけに「復活」に向けたハードルは低くないが、それでも「絶対にない」とは言い切れない状況に変わったのは間違いないだろう。

木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら
(木村隆志)

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