マーケティング戦略の中でもブランディングは、「好感度」や「ロイヤルティ」など“ふわっとした”イメージで語られることが多かった。そうした中、ユニリーバ本社でグローバルなブランド戦略設計を担った経験を持つ木村元氏は、顧客による購買をゴールに据え、売上や利益への貢献度なども含めたスコアとしての「ブランド・パワー」を提唱している。本連載では、同氏の『ブランド・パワー ブランド力を数値化する「マーケティングの新指標」』(木村元著/翔泳社)から内容の一部を抜粋・再編集、数値化したブランド・パワーをマーケティングに落とし込む方法を解説する。

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 第5回は、顧客を惹きつけるブランド価値の選定法を細かく見ていく。

<連載ラインアップ>
第1回 元ユニリーバのマーケターが語る、なぜ事業成長にはブランディングが重要か
第2回 0から1を生み出す、ユニリーバの中長期的なブランド力向上の仕組みとは?
第3回 重要なのはブランドか、営業か? ユニリーバで考えた売上拡大の独自ロジック
第4回 CMを打ったものの・・・「認知率」が上がったのに、なぜ売上が増えないのか
■第5回 なぜLUXの広告には、髪にツヤのあるハリウッド女優が起用され続けたのか?(本稿)
 
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ブランドイメージを形成するPOPとPOD

 ブランドパワーの構成要素のうち、ブランドイメージはここまで説明してきたブランド想起の質を向上させるものです。具体的には、「POP(Points of Parity)」と「POD(Points of Difference)」の二つに分けて、ブランドイメージの可視化を試みていきます。

 POPとPODの定義の方法は、次の章で詳説しています。ここでは、POPとPODとは何なのかという概念の解説をします。

■POP(Points of Parity)とは

 POPはカテゴリーにおいて最低限満たすべき要素のことを指します。顧客側の視点で言い換えると、あるカテゴリーのプロダクトやサービスに対して顧客が必ず求める要素であり、最低条件とも言えます。

 たとえば、あるスキンケアブランドがPOPを以下のように定義したとします。

肌にうるおいを与えてくれる 肌に刺激がない 安心できるブランドである

 POPはそのブランドが必ず満たしておく必要がある要素ですから、これら3つのPOPスコアは競合ブランドよりも上回っているか同等でなければなりません。万が一、平均値よりも自社ブランドのスコアが低いということであれば、現時点で顧客のブランド体験は満足いくものになっておらず、リピート顧客の獲得も難しい状況であると判断します。

 ブランド担当者は、特に改善が必要な部分を特定し、顧客の認識を変容させていくためのアクションを考え、製品開発部門や広告代理店などと連携しながら、主に製品とコミュニケーションを改善していきます。

■POD(Points of Difference)とは

 PODは、自社ブランドの差別化ポイントになり得る項目です。POPを満たすだけでは、カテゴリーの中で最低限良しとされる域を越えません。PODを強化することで、競合とは異なる独自価値を創造し、顧客に選ばれ続ける状態を築くことができます。

 現代の成熟した市場は競争が激しく、多くの企業が同じまたは類似したプロダクトやサービスを提供しています。特に日本市場は、あらゆるカテゴリーにおいて、必要最低限の機能的な便益を満たしているプロダクトであふれています。顧客は、ウェブ上でブランドやプロダクトに関するあらゆる情報にアクセスできる状況にあり、常選択肢は顧客側にあります。

 そのような状況で、顧客に選ばれるためには、差別化ポイントであるPODを強化することが肝要です。

 加えて、PODはブランドの特異性を構築し、ブランドイメージを確立するのに役立ちます。つまり、POPよりもPODのほうが、ブランドイメージの構築への影響が大きい傾向にあります。LUXがハリウッド女優を起用し続け、ツヤのある髪の毛を広告上で表現し続けていたのは「高級感のあるブランド」「髪の毛にツヤを与えてくれるブランド」というPODを維持し続けるためです。

 たとえば、例のスキンケアブランドのPODとして以下のような要素が挙げられたとします。PODの定義や強化にはいくつか考え方がありますが、基本的にはブランドのフィロソフィやパーパス、独自に有している開発技術などとリンクさせた設計をすることが多いです。

シワが目立たなくなる 美白効果がある 毛穴を目立ちにくくする パッケージデザインが洗練されている 高級感を感じられる

 このブランドが「日常をより華やかに」などのコンセプトを持っているなら、プロダクトの梱包やパッケージデザインに力を入れて、4や5のPODを獲得しにいくアプローチがあります。また違う観点から、美白に特化した研究開発を行い、新処方を構想するといったアプローチも立派な戦略です。

 PODとして多数の要素が挙げられたとしても、それらすべてを満たすことは不可能に近く、むしろその必要はありません。自社ブランドの強みをどこに持たせるか、ブランドの考え方と最も親和性があるのはどのPODか、競合にはなく自社が相対的に獲得できているPODは何かなど、どの要素に着目するかは事業のフェーズやその時々の課題によって異なります。

 また、POPとPODのいずれにも共通しますが、ブランドイメージは品質や機能に関する理性的な評価と情緒的な評価で決まります。理性的な評価では製品に対する機能的な便益が、情緒的な評価では楽しさや愛着など感情に働きかける便益が評価項目としてあります。

 市場で優位性を保ち続けているトップブランドは理性的な評価も情緒的な評価も高く、両方をあわせ持ったブランドに育てていくことは、強いブランドを作る上で非常に重要です。

<連載ラインアップ>
第1回 元ユニリーバのマーケターが語る、なぜ事業成長にはブランディングが重要か
第2回 0から1を生み出す、ユニリーバの中長期的なブランド力向上の仕組みとは?
第3回 重要なのはブランドか、営業か? ユニリーバで考えた売上拡大の独自ロジック
第4回 CMを打ったものの・・・「認知率」が上がったのに、なぜ売上が増えないのか
■第5回 なぜLUXの広告には、髪にツヤのあるハリウッド女優が起用され続けたのか?(本稿)
 
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