自動車向け「オイルシール」などを手掛ける総合部品メーカーのNOKが新たなコーポレートアイデンティティ(CI)を採用した。CI策定を支援し、新たなロゴをのデザインしたのは著名なクリエイティブディレクターの佐藤可士和さんだ。佐藤さんといえばユニクロや日清などBtoC企業のブランディングを手掛けているイメージが強いが、BtoB企業のNOKがなぜ、CI策定に同氏を起用したのだろうか。

NOKってどんな会社?

NOKは連結売上高7,100億円(2022年度)、従業員約3.8万人(連結、2022年度末)を擁する大企業。自動車、スマートフォン、建設機械など、さまざまな製品に使う部品を手掛けている。生産する製品のうち約5割は自動車向けで、祖業でもある「オイルシール」(油を封じるための部品。エンジンなどに使う)は国内で約70%のシェアを誇る。

クルマやスマホなど身近な製品に部品が使われているにもかかわらず、普段の暮らしの中で「NOK」という社名を見たり聞いたりする機会が少ない理由は、同社が企業向けにビジネスを展開する「BtoB企業」であるがゆえだろう。街を歩いていてNOKのショップがあるわけでもなければ、コンビニやデパートでNOKの製品を一般の人が購入する機会も(おそらく)ないはずだ。

ところで、佐藤可士和さんといえば「BtoC企業」、つまり、一般の消費者に向けてモノやサービスを提供する企業のブランディングで手腕を発揮してきたクリエイティブディレクターである。同氏が手掛けてきたのはユニクロ、日清、セブン&アイ・グループなどなじみ深い企業ばかりだ。

一般の消費者を相手にするBtoC企業がブランディングに力を入れるのは理解しやすいのだが、BtoB企業であるNOKが佐藤さんを起用したのはなぜなのか。せっかく新ロゴを作っても、私たちが目にする機会はなかなかないと思うのだが……。
新CI策定の理由

新CIの発表会に登壇したNOK社長の鶴正雄さんによると、同社は「変革」を掲げる中期経営計画を推進中。主要な取引先である自動車業界が大変革期を迎える中、同社には「変わらなければ時代に置いていかれる、企業としての存続も危うい」(鶴社長)という危機感があるそうだ。

グループとして目指す姿は同じ価値観、同じアイデンティティを共有する「グローバルカンパニー」だと鶴社長。これまではグループ各社がそれぞれのロゴを使用してきたが、グループ内では全社がフラットであるという意味も込めて、新CIの策定とロゴのデザイン統一を行った。

新ロゴはNOKなど同社グループ企業を表す3文字のアルファベットをユニークな書体で表現。モノづくりの「緻密な感じ」を表現しているそうだ。文字を構成する線や面の比率やルールは、かなりの試行錯誤を繰り返して作りこんだとのこと。AからZまで全てのアルファベットを作ったわけではないそうだが、ルールはできているのでやろうと思えばできるとのことだった。使っているのは「ソリッドネイビー」という色。従来のNOKのロゴは水色と青の2色を使っていたが、「グループ全体で世界で使うには単色の方がぶれないし、汎用性がある」(佐藤さん)という理由からネイビー1色にしたそうだ。

新CI策定にあたり、工場に足を運んだり社員との対話を行ったりした佐藤さん。ロゴについては「自分でいうのもなんですが、会心の出来です。気に入ったものができたというよりも、いろいろと話をして、いろいろな課題や悩み、目指すビジョンなど全てをくみ取って、ひとつももらさず、バシッと表現できました」とのことだ。

BtoB企業であり一般の消費者に直接製品を売るわけではないNOKのCI策定を引き受けた理由については、「情報が世界にいきわたるようになった今、BtoBかBtoCかは関係なく、社会に対して、どうコミュニケーションするかを考えるのはある意味で義務だと思います。過少でも過大でもなく正確に伝えることは、あらゆる企業に求められています。製造業の価値を正しく伝えることで、ビジネス的には優秀な人材が集まったり、認知が広がったり、ビジネスが広がったりということがあると思います」と話していた。
(藤田真吾)

画像提供:マイナビニュース