テレワークで長時間の残業を強いられて精神疾患を発症したとして、外資系補聴器メーカーの日本法人(横浜市)で働く50代の女性社員が、横浜北労働基準監督署から労災認定された。女性の代理人が4月3日、都内で記者会見を開いて明らかにした。

労災認定は3月8日付で、代理人によると、テレワークによる長時間の時間外労働での労災は「極めて異例」という。

●金曜深夜に「月曜まで」とタスク指示

代理人によると、2019年入社の女性は、経理や人事などを担当。コロナ下の2020年頃からテレワークで働き始めた。2021年後半から退職者や新規入社が相次いだほか、新しい精算システムの導入作業などで残業が増え、2022年3月に適応障害を発症し、現在まで休職中だ。

発症前2カ月間の時間外労働(残業)は月100時間を超えており、労基署が労災認定した。

女性は事業場外みなし労働時間制の適用を受けながら、8時半から17時半まで8時間の所定労働時間(1時間は休憩)として、主に自宅で働いていた。

2021年7月に入社した上司から、チャットやメールを通じて細かく指示があり、自身の業務と並行して上司とのやりとりに労力を割くことになったという。

所定労働時間内だけでなく、残業時間の間にもかなりの数の指示があり、たとえば金曜の深夜に「月曜までに」というタスク指示があり、休日の業務を余儀なくされるようなこともあったという。

PCのログやメール、チャットでのやりとりから労働時間が算出された。遅いときには深夜0時直前のチャットも記録され、具体的な指示内容が残っていた。

女性は会社に何度も自身の働き方を相談したが、改善されなかったという。

●「本来は働き方の裁量を認める制度だが、濫用も」

コロナの影響で広まった事業場外みなし労働時間制のテレワークでの適用は、厚労省の「テレワークガイドライン」によると、(1)「情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと」、(2)「随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと」を満たす必要がある。

女性側は、自身のケースでは2つの要件は満たされず、事業場外みなし労働制は適用されないと主張していた。

この制度について、代理人の笠置裕亮弁護士は「本来は従業員の働き方の裁量を認めるものだが、使用者側によって濫用もされやすい」と指摘。「負荷が少ないと思われがちな働き方であっても、制度が濫用されれば、過密な労働につながることを今回の労災認定が浮き彫りにした」と評価した。

●会社「誠実に対応していく」

女性が在籍しているスターキージャパン社は4月3日、弁護士ドットコムニュースの取材に「労災認定がされたという事実を会社として真摯に受け止めております。当該従業員に対しては個別に協議をしており、誠実に対応していく所存でおります」と回答した。

また、労基署から2022年11月15日には、在宅勤務時の労働時間の適正把握について是正勧告・指導を受けており、改善したとしている。

在宅勤務時には、従業員は別途『勤務時間記録』をメールまたはエクセル等にて上長へ提出することとしました。その後、2023年9月1日から新たな勤怠システムを導入し、システム上にて事前に上長への在宅勤務申請を行い、在宅勤務時は出勤退勤打刻に加えて私用外出の打刻も行う運用となっております。上長および人事でも勤怠記録を確認しており、在宅勤務においての適正な労働時間管理が出来ているものと考えております」(同社回答)

女性側によると、今年1月12日にも出された是正勧告に基づき、未払いだった残業代の支払いもあったという。女性は、代理人を通じて「この事件が世の中に周知されることにより、きっと、どこかにいる誰かの命を救うことができるような気がしています」とコメントした。

テレワークで労災認定「極めて異例」 月100H超の残業時間、チャットの記録などから算出…代理人は「制度の濫用リスク」指摘