ハーバード大学ホートン図書館の蔵書は2000万冊ある。その中には、19世紀に作られた、人間の皮膚で装丁された「人皮装丁本」も存在する。
この度、その本から人皮の〝装丁〟が取り除かれた。問題の本は、1879年に出版されたフランス人作家アルセーヌ・ウセーの著書『魂の運命』だ。
この本は、フランス人医師のリュドヴィク・ブーラン博士が、自分が勤務していた病院で亡くなった女性の遺体から、本人の生前同意があったわけでもないのに、女性の死後、無断で皮膚を切除して装丁に使ったという。
この本は、1934年から100年近くもハーバード大学で保管されていた人皮装丁本のうちの1冊だ。
『魂の運命』( Des destinees de l’ame)の内容は魂と死後の人生を前提としていて、「人間の魂についての本は、人体で装丁されるに値する」というブーラン医師の手書きメモがついていたという。
Harvard University researchers have said that a book owned by the university is bound in human skin. The book is called Des destinees de l'ame (Destinies of the Soul) and has been housed at Houghton Library since the 1930s. pic.twitter.com/SKNxy8PQI9
— Muna Esq ⚖️ (@munachi_esq) August 27, 2023
人皮装丁本とは?
普通、本の装丁には紙や布、動物の皮が使われる。人の皮膚を使った本の装丁は、16世紀以降に始まり、その技術は17世紀には確立していたらしい。
世界中にこの手の不気味な本は存在し、解剖された死体の皮膚で装丁された解剖学テキスト、遺言に基づき故人の皮膚から装丁されたある種の形見、有罪判決を受けた殺人犯の裁判記録を綴じたものなどの例がある。
人皮装丁が取り除かれることになったきっかけ
なぜ発見から10年たった今、人皮の装丁が取り除かれることになったのか?
その理由は、ハーバード大学が所蔵している人間の遺体について、大学運営委員会の2022年秋の報告書に基づいて蔵書の管理の見直しを行ったことがきっかけだった。
ハーバード大学は『魂の運命』の人皮装丁を取り除いたことを正式に発表した。
著名な近世書研究者であるポール・ニーダム氏は、この決定は、人間の皮膚の装丁を取り除くよう求める10年にわたる一貫した呼びかけと、今月のハーバード・クリムゾン(同大の学生新聞)の広告として掲載された同氏の共著による公開書簡を受けたものだと語った。
私が初めてこの問題を提起したのは、およそ10年前の2014年6月のことです。
本に人間の遺体が使われているわけですから、敬意をもって本からこれを取り除き、しかるべき埋葬をするよう大学図書館側に要請しました。
最終的にこの公開書簡が大学側を動かし、実際に行動を起こして除去の声明を発表するに至ったのだと思います。
昨日まで10年間、大学側からは人の皮膚の装丁についてひと言もなかったのですから。
除去するという声明がやっと発表されたことをとても嬉しく思います。このような装丁を取り除くことは絶対に正しいことです
ハーバード大学側は、ニーダム氏の公開書簡についての話には、なんのコメントもしていない。
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人皮の装丁が取り除かれたアルセーヌ・ウセーの著書『魂の運命』 / image credit:
これまでの人皮装丁本の扱いや管理方法について謝罪
2014年、ハーバード大学はこの本の装丁が人間の皮膚であることを公に認めたが、この19世紀の書物は、閲覧理由にかかわらず相変わらず誰でも手にとることができる状態だったという。
ハーバード大学ホートン図書館のアーカイブ担当司書トム・ハイリー氏とアンヌ・マリー・エズ氏が、なぜ、この本が1世紀近くも図書館に所蔵されたままだったのかを説明した。
これまでは、「人皮装丁本」という製本技術の文化を重んじてきたが、人間の遺体が使われている本についての倫理的配慮から、大規模な見直しを行ってきたという。
調査の結果、ブーラン医師が故人の生前同意なく遺体の皮膚を切除し、装丁に利用したということが確かであることが確認されたため、本から人皮を取り除くことにしたそうだ。
ハイリー氏は、本の管理における過去の失敗について謝罪し、今後は細心の注意を払って事を進める決意をしていると主張した。
私たちはハーバード大図書館を代表して、この本の管理における過去の失敗が、その渦中にいる人の尊厳を単なるモノのように扱い、損なったことを謝罪します
私たちは細心の注意を払い、倫理的責任をもって前進し、歴史的過ちの反省と修正を含め、この分野で最善を尽くせるよう全力で取り組んでいくことを決意しています(ハイリー氏)
エズ氏によると、2024年3月に〝人間の皮膚の装丁〟は『魂の運命』から取り除かれ、同大図書館で安全に保管されているそうだ。
図書館は、適切かつ敬意をもった方法で、装丁に使われていた〝遺体〟を供養するため、大学および関係当局と協議しているという。
References:Q&A with Houghton Library about the book Des destinees de l’ame | Harvard Library / Q&A with Houghton Library about the book Des destinees de l’ame | Harvard Library / Harvard removes book binding made from dead woman's skin from library - ABC News / Book made with dead woman's skin removed from Harvard Library amid probe of human remains found at school / written by hiroching / edited by / parumo
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