約100年前に、思想家・柳宗悦が日々の生活のなかにある美を慈しみ、素材や作り手に思いを寄せることを説いた民衆的工藝「民藝」。これまでも様々なかたちで紹介されてきたが、4月24日(水)から6月30日(日)まで、東京の世田谷美術館で開催される同展は、その民藝を「衣・食・住」のテーマに分け、暮らしで用いられてきた美しい品々約150件を展観する展覧会だ。

柳宗悦は、日本のみならず朝鮮半島や中国や欧米なども旅し、陶磁、染織、木工などあらゆる工芸品のほか、絵画や家具調度などの多岐にわたる品々を、自身の「眼」を通して蒐集した人物だ。蒐集品の制作年代も、縄文時代から昭和まで幅広い。同展は、民藝としての美を、衣・食・住に関わるそれぞれの品々に見いだした柳の視点をひも解く試みとなっている。

また同展では、1941年に柳が設立した東京・目黒の日本民藝館で、柳自身がテーブル・コーディネートを手がけた「生活展」の再現展示もある。美しいライフスタイルを提案するという当時としては画期的な展示は、現代の私たちをも魅了するに違いない。

日本民藝館「生活展」会場写真 1941年

柳はまた、同時代の国内各地の手仕事による日常品にも注目し、その紹介に努めた。同展もまた、民藝の「今」と「これから」に注目する。柳の没後も民藝は受け継がれ、今も日本の各地で作り手たちが手仕事を続けているが、なかでも同展が焦点を当てるのは、大分の小鹿田焼、兵庫の丹波布、岩手の鳥越竹細工、富山の八尾和紙、岡山の倉敷ガラスだ。今回は、現代の製品の展示とともに、現地で取材したオリジナル映像によって、そこで働く人々の想いや制作風景にもふれることができる。

さらに、現在の民藝ブームの先駆者ともいえるテリー・エリス/北村恵子による、現代のライフスタイルと民藝を融合したインスタレーションの展示もある。「これからの民藝スタイル」を提案するものとして、同展の見どころのひとつとなっている。

MOGI Folk Art ディレクターのテリー・エリスと北村恵子 Photo: Yuki Ogawa

幅広い展示内容だが、今回は「民藝とは何だろう?」という初心者にも親しみやすい展示が心がけられているという。そんな楽しい会場で、名も無き作り手たちが生み出した美を堪能したあとは、特設ショップにお立ち寄りを。実際に暮らしの中に取り入れたいと思える美しい品々に出合えるに違いない。

<開催概要>
『民藝 MINGEI―美は暮らしのなかにある』

会 期:2024年4月24日(水)~6月30日(日)
会 場:世田谷美術館
時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)
休館日:月曜(4月29日5月6日は開館)、5月7日(火)
料金:一般1,700円、65歳以上1,400円、大高800円、中小500円
公式サイト:
https://mingei-kurashi.exhibit.jp/

《スリップウェア鶏文鉢》イギリス 18世紀後半 日本民藝館蔵 Photo: Yuki Ogawa