3月29日、LINEヤフーが主催する「ベスト エキスパート2024」授賞式が開催された。ニュース解説から生活趣味情報まで、ユーザーの多様なニーズに応える才知と情熱をもった各分野の専門家が集う国内最大級のプラットフォームとして、2023 年に新たなスタートを切った「Yahoo!ニュース エキスパート」。そこに参加するエキスパートと呼ばれるオーサー・コメンテーター・クリエイター、約2,600 人の中から、新しい気づきや考えるヒントや行動につながる情報を発信し、2023 年に最も日々の生活やニュースへの視点をアップデートさせた総勢14 名が表彰された。

授賞者の顔ぶれは、国際政治学者の六辻彰二さん、食文化研究科の畑中三応子さん、プロランナー川内優輝さんなど各界の著名人に加え、多彩なレシピと料理ハックで快進撃をみせた脱サラ料理家ふらおさん、洗濯に特化して暮らしの中にある身近な課題を解決する平島利恵さん、名古屋の愛すべき店・人について記事を投稿する愛知深堀りライターの土庄雄平さんなど、独自の視点でニッチな情報を発信して頭角を現した新星までが選出。壇上に授賞者が並び、エキスパートの活動に対する思いと、授賞に対する喜びの声を語った。

筆者もYahoo!ニュースを毎日チェックしていて、興味深い記事が続々投稿され、見聞を広めてきたので、実際に「Yahoo!ニュース エキスパート」たちの層の厚さと知識の高さを肌で感じることができる良い機会となった。
○■九段理江さんや渡部陽一さんが登壇! 「With Ai時代 発信者はAIにどう向き合うか?」

授賞式後には、「With Ai時代 発信者はAIにどう向き合うか」「極めた“好き”から生まれる令和の発信~2024年、“食”のネクストトレンドを予測する~」という2つの興味深いパネルディスカッションも開催。まずは「With Ai時代 発信者はAIにどう向き合うか」と題されたディスカッションでは、芥川賞受賞作家の九段理江さん、医療ジャーナリストの市川衛さん、戦場カメラマン渡部陽一さんの3名が登壇、この時代における発信者の生成AI との向き合い方が議論された。

生成的人工知能いわゆる生成AIは、2022年11月に、高度なAI技術によって人間のように自然な会話ができる「ChatGPT」がリリースされ、わずか2ヶ月で利用者1億人を突破して話題に。「Yahoo!ニュース」でも2023年の1年間だけで生成AIについての記事が1億3000件も公開され、多くの関心を集めている。非常にポテンシャルの高い生成AIだが、授賞式会場に集まった来場者に生成AIを使っているか聞いてみると、週1回以上使っている方が1/4程度、ほとんど使っていない方が1/2程度と、まだまだ市民権を得ているとはいえず、今後の動向がカギを握りそうだ。
○「作品に生成AIを使った」発言が話題となった芥川賞作家・九段理江さん

九段理江さんは、今年1月に第170回芥川賞を受賞した『東京都同情塔』の中で、主人公がAIと対話するシーンを多く描いた。実際に九段さんは「ChatGPT」を作品に活用したと、選考会の記者会見で明かしたことが世界中で報じられると、異例の広がりを見せて反響を集めたばかり。

そんな九段さんは、「作品に生成AIを使ったという発言がここまで取り沙汰されるというか、話題にしていただけること自体にすごく驚きました。純文学は、日本語で言語技術の最先端を競うみたいなものなので、いつも言語にまつわる新しい挑戦だったり、新しい知見を切り開くようなものに対していろんな言語の可能性というものを考える中で、なにか当たり前に新しい技術を使うという感覚があったので、全体の5%ぐらいは生成AIの文章をそのまま使っていると述べました。小説を考える上でChatGPTに『刑務所という名称を現代的な価値観に基づいてリニューアルしたいです。どのような考えられますか』と質問したところ、リハビリテーションセンター、ポジティブリカバリーセンターなど、全ての回答が全部カタカナで返ってきたんです。そこで現代的な価値観=日本語をそこまで使わなくなってるということに気づき、そのことに対する違和感がアイディアの根本になりました。カタカナ嫌いの主人公という設定もここから生まれました」と、執筆の裏話を語った。
○「編集者として生成AIに活躍してもらった」、医療ジャーナリスト市川衛さん

医療ジャーナリストの市川衛さんは、普段の記事執筆やエキスパートの活動でも生成AI を活用。3月14日に投稿された「新型コロナへの有用性なしの衝撃1,600億円以上売れた 新薬は無駄だったのか」という記事は、多くの読者の関心を集めた。

「いくつかの項目を出して、生成AIに文章を作ってもらうことも可能ですが、今のところ生成AIでは人の心を揺さぶるような面白い記事はなかなか作れない。だから使い方を変えて、この記事では編集者として生成AIに活躍してもらったんです。最新の生成AI『Claude 3』を活用して、実際に僕が書いた記事を読んでもらい、どう思ったか感想を聞いた後に、『この記事でもっと補足したり、削ったところがあれば教えてください』と聞いたら、人間の編集者レベルの回答が返ってきて衝撃を受けました。たとえば『この部分は少し冗長に感じられるので、簡潔にまとめることを提案します』と指摘されたところは、僕自身不安に思っていた部分なので、 Claude 3のアドバイスに基づいて変更したら非常に読みやすくなったんです。だから生成AIも使い方によりますが、実用し資するレベルに来ていると感じています」と、生成AIの先進的な使い方を披露。
○「僕は決断しました。僕はAIやります」戦場カメラマン渡部陽一さん

まだ生成AIを使ったことがない渡部陽一さんも「実際に今日、生成AIとのやり取りを見せていただき、個性のあるような言葉がたくさんあって、本当に人とお話をしてる感覚ですごく愛着を感じました。友人のように家族のように温かい環境でアドバイスをくれる。これは日常の中で普通に無意識のうちにそこに慣れていく感覚を今瞬時に感じました。戦場カメラマンとして世界中の紛争地を回っていまして、戦場行動という仕事のうち、実は約80%は危機管理なんです。手にした情報を繰り返し確認して、現地に繋がる方々との声をすり合わせ、万が一何か起こった時に 複数の避難経路を確保していく。こうした危機管理に時間、お金、能力を注いでいくんですけれども、生成AIを活用すればもしかすると取材の段取りを組む段階の中で、複数の選択肢を自分の中で日本にいながら確保することができるのではないかと思いました」と興味津々。

さらに今まさに激戦が繰り広げられているパレスチナ自治区ガザ地区の取材で実際に目にしたことも語ってくれた。「ガザ軍事侵攻というのは、まさに前線でAIを実用している戦争なんです。兵士が戦地に入っていくというよりも、AIに管理された無人ドローンが常に徘徊していて、プログラムされた1つの情報によってそのターゲットをとにかくあげて、AIが勝手に判断して爆破していく。いま世界中で起こっている戦いがAIによって大きく変えられてしまっている。そのAIが判断した結果に対して、人は責任を持てるのだろうか……」と、今後人間とAIが共存するための社会的な課題について実体験を基に述べ、問題提起した。

生成AIが急速に普及しつつある現代において、どのように生成AIと向き合っていくかは大きな課題。実際に、生成AIについての規制も各国で話し合いが進められており、先月にはEUでAIを包括的に規制する法案が承認されたばかり。日本の動向にも注目が集まっている。九段さんも「AIは人間のサポートとして使うには優秀だが、人間の意識でどこまで使うか考えることが重要。生成AIをどのように活用していくか、もっと突き詰めて、議論できれば、有効な活用の仕方がたくさん考えられると思います」と自身の意見を述べた。また渡部さんは、注意すべき点も多くあるが、今後、自身の取材領域の中で生成AIを使用していきたいと語り、「僕は決断しました。僕はAIやります」と強く決意表明を行い、会場を沸かせた。筆者も生成AIを使用する機会があるが、まだまだ未知数で分からないことも多く、このディスカッションで知識が大いに広がったと感じた。
○■2024年、“食”のネクストトレンドを予測-野菜、名古屋グルメ、カレー

次なるディスカッションはガラッとテーマが変わり、「極めた“好き”から生まれる令和の発信~2024年、“食”のネクストトレンドを予測する~」。登壇者は、最年少野菜ソムリエプロの緒方湊さん、「ベストエキスパート2024」にも表彰された愛知深堀りライター土庄雄平さん、インド料理からお家カレーまで精通する次世代のカレー研究家のスパイシー丸山さん。お三方がニッチな視点で2024年の食のトレンドを予測!

まず緒方さんは、「2024年は“無駄なく”がトレンド。野菜の価格が高騰している今、家計にも優しく、無駄をなくし地球にも優しくできるという観点から、野菜をもっと有効活用してほしいです。たとえば、えのきの下の部分を切りすぎている方が多くいますが、実はえのきの石づきは、下から1cm程度切れば、あとは美味しく食べられるんです。しめじも切り落とす部分はほとんどないし、ニラもそこまで切らなくてOK。本当に色々あるので、そういうものも含めて無駄なく使い切るのが大切です」と熱弁。

名古屋グルメに精通している土庄雄平さんは「老舗の挑戦」がアツイと話す。「名古屋名物の味噌煮込みうどんは、山本屋さんが有名ですが、実はほかにも美味しい名店がたくさんあります。そのひとつが『まことや天白』。老舗の味噌煮込みうどん屋さんですが、2022年に代替わりして新たなスタートを切りました。二代目は某航空会社に在籍していた、バリバリビジネスマンだったこともあり、伝統の味を受け継ぎながら新しいメニューを考案し、これが地元民にも支持されています。こういった事例が、名古屋だけではなくて日本各地で起きていて、伝統に新しいものを取り入れてアップデートし、その地域の魅力を発信していく取り組みが広がっています」と、地元の情報網を駆使した食のネクストトレンドを分析した。

最後にスパイシー丸山さんは、日本人が大好きなカレーの原点回帰について語った。「インドの伝統を守りつつ、それを日本人のフィルターを通してさらにスパイスを駆使して複雑な味わいに仕上げたスパイスカレーがブームを呼んでいます。3種盛りや合盛りが主流になりつつある今、原材料の高騰でカレーの値段も上がってきていることもあり、あえて1種類で勝負しているのが『カレースタンド ワッカ』。八丁堀の行列店『ジャパニーズスパイスカレーワッカ』の姉妹店で、本格的なインドカレーを1000円程度で気軽に楽しめます。こういった原点回帰の流れがトレンドになると予想しています」と話す。どれも時代の流れを読んだ予測で、会場の来場者も3人の話を食いつくように聞いていたのが印象的だった。

様々な知識が爆発し、大いに盛り上がりをみせた「ベスト エキスパート2024」授賞式。「Yahoo!ニュース」がこれだけ多くの人に読まれている理由がよくわかる、興味深いイベントでした。
(鈴木恵美)

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