岡口基一裁判官に対し、史上8例目の罷免判決を言い渡した裁判官弾劾裁判所。しかし、4月3日の判決当日も国会議員14人が座っているはずの裁判員席には空席が1つ。実際には裁判員2人が欠席し、予備員1人が代わりに出席した形だ。肝心の判決に関与したのも12人で、2人が欠席している。

裁判員の交代や欠席が目立った点について、弾劾裁判所の船田元裁判長(衆・自民)は判決後の記者会見で「判決に大きな支障はなかった」としつつ、「交代がちょっと多かった」「残念」などと語った。

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●判決には「出席2回」の裁判員

弾劾裁判の裁判員は、衆参7人ずつの国会議員計14人が務める。欠席時に備え、衆参4人ずつ計8人の予備員もいる。

弁護士ドットコムニュースの集計では、今回の弾劾裁判にかかわった裁判員は全部で23人(予備員除く)。交代が多かったのは、裁判期間763日、公判数16回がいずれも過去最長という異例の裁判で、途中で参院選なども挟まったためだ。

この結果、判決を含め全16回の公判を「皆勤」したのは船田裁判長らわずか3人。途中交代だから本人に責任はないが、判決にかかわった裁判員の中には、審理の出席回数が2回、4回、6回の議員もいる。

「長期にわたったので、内閣の改造や各政党の人事もあった。国会の場においてはある程度やむをえないと思っているが、裁判長としてはなるべく裁判員の交代がないことが望ましい」(船田裁判長)

一方で、「交代して新しく入った裁判員には、事務方からそれまでの経緯を詳細にレクチャーしてもらった」といい、支障は少なかったと強調した。

この点については、岡口元裁判官側も異論はないようだ。弁護団が判決後の記者会見で、「事実認定がずさんなら出席回数の少ない人の認識が問われるが、事実認定には満足している」「(今回の判決内容は)出席しているかどうかよりもスタンスの問題」などと話しており、実際に影響は少なかったと考えられる。

裁判員の欠席「許してもらいたいところもある」

では、欠席はどうなのか。全16回の公判中、裁判員席がすべて埋まったのは4回だけ。正規の裁判員14人が全員揃ったのは、そのうち2回だけだ。会見では記者団から裁判員の欠席についても複数の質問が飛んだ。予備員で補充しないのはなぜなのか。

船田裁判長の答えは次のとおり。

「突発的に病気になったり、日程が合わなかったりということがある。事前にわかっていれば予備員を呼ぶが、突発事態ではそれができない」

「『裁判員裁判では裁判員全員出席が原則。それに比べて弾劾裁判はどうなのか』と言われたら、反省すべきところがある。できる限り、欠席者がないように日にちを選んでやっていく必要がある。ただ、日にちを選んでも国会の日程があって、ダメになることはある。許してもらいたいところもある」

もちろん、すべての期日に出ないと判断が下せないということはない。多忙な中、また今回は今年4月12日で任期満了というタイムリミットがある中、全16回もの公判期日で14人すべてを集めるのが困難だったことも想像に難くない。ただ、全員が揃ったほうが望ましいということは言えるはずだ。

●出席数の少ない裁判員の「良心」

裁判官の権利は、権力からの介入を防ぐため厚く保障されている。判決では、その裁判官をやめさせる根拠の1つとして、公務員の選定罷免権は国民にあること(憲法15条1項)をあげ、裁判員である国会議員が「国民の代表」であることを強調する。

そして判決では、弁護側から出た「(岡口元裁判官が)司法に対する国民の信頼を害した」事実が立証されていないという主張について、次のように退けている。

「『司法に対する国民の信頼』を害したかどうかの認定は、その時々の弾劾裁判所を構成する裁判員の良識に依存する」

「時の弾劾裁判所の裁量に属する項目であって、通常の要証事実のような立証責任は問題にならない」

しかし、裁判に出席しない裁判員は、果たして国民の信託に応えていると言えるのだろうか。評議の中身が公表されない中、その「良識」「裁量」「判断」を国民はどう評価したら良いのか。

判決は、憲法が裁判官の身分を厚く保障することを理由に、裁判官には高い品性と厳格な倫理規範が求められるとしている。翻って、好き好んで欠席しているわけではないにしても、その判決を下した国会議員でもある裁判員の姿勢は国民からどう見えるか。

弾劾裁判は1947年の制度創設以来、10回しか開かれていない。船田裁判長は、「経験を生かしてもらえるように、しかるべきところに話して、制度の改善などで今後に生かせるようにしたい」と話した。

岡口判事の弾劾裁判、目立った裁判員の欠席 判決当日も2人休み 船田裁判長「反省すべきところある」