4月は新社会人が街にあふれる季節。新卒一括採用のメガバンクでは、毎年多くの新入社員が入社する。無難な人材が多数を占める中で、トンデモない新人が混じっていたりもする。
筆者(綾部まと)は新卒でメガバンクに入行し、地方や都内の営業店で法人営業を経験した。営業店には毎年必ず新卒の社員が配属されるため、彼らの破天荒な行動を見たり聞いたりしてきた。今回はそんなメガバンクにおける、トンデモない新入行員のエピソードをご紹介する。
◆①仮眠室に男女で寝ていた
銀行には食堂を備え付けた店舗もある。しかし食堂のご飯が口に合わなかったり、休み時間まで職場の同僚と顔を合わせるのを嫌う行員もいる。彼らは“仮眠室”で食事をとることが多い。筆者の同僚である女性行員のAさんも、そのうちの一人だ。
「仮眠室と呼ばれていますが、そこで寝る人なんて誰もいません。昔は泊まり込んで仕事をしていたらしいので、その名残でしょうね」
その部屋にはテーブルとL字型の大きなソファーが置かれているため、今では食堂でご飯を食べたくない行員たちの避難場所になっている。Aさんもそのタイプで、毎日お弁当を持参していた。彼女はいつもの通り仮眠室の扉を開け、明かりをつけたのだが……。
「そこにはぎょっとするような光景が広がっていました。ソファには新入行員の男女4名が、横になって寝ていたんです」
◆謝罪の言葉もなく、再び寝入ってしまう
彼女が言葉を失っていると、そのうちの一人である新人の男性が目を覚ました。彼はちらりとAさんを見て、再び寝入ってしまったという。
「確かに前日は支店全体の飲み会があって疲れてるのは分かります。でも男女で電気を消して寝るなんて、どういう神経をしてしてるのか……理解に苦しみました」
もちろん、仮眠室と呼ぶくらいなので寝てはいけないわけではない。「そこ、どいてよ」とAさんに言う権利もない。彼女は食堂へ行き、そこでお弁当を食べたらしい。
◆②外回りと見せかけて…
日中、公園やコンビニエンスストアなどで休憩しているサラリーマンを見かける。取引先へ訪問する“外回り”の特権だ。筆者も外回りをしていた頃は、『週刊少年ジャンプ』(集英社)が読めるコンビニを先輩から教えてもらい、訪問が早く終わった際には立ち読みしたこともあった。
「一本だけタバコを吸うとか、一杯だけコーヒーを買うとか、普通は“サボる”といってもその程度です。でも彼のサボるレベルは、ちょっと度を超えていました」
ペーパーレスが進んでいる銀行だが、やはり紙文化は根強い。取引先が書類を誤って記入してしまった場合は、日にちに余裕があれば郵送で対応する。しかし日にちに余裕がない場合や、明らかに行員に落ち度がある場合は、取りに行くこともある。その役目はだいたい新入行員が担う。
「店から徒歩10分の取引先に行った新人の彼が、いつまで経っても帰ってこない。電話をしても出ない。何か事件に巻き込まれたんじゃないか? と不安になっていたところ、彼はしれっと帰ってきました」
帰店した彼からは良い匂いが漂ってきた。それが彼のいた場所を物語っていたという。「銭湯に行ってたの?」と尋ねると彼は一瞬、ばつが悪そうな表情を浮かべた。しかしその後の反応は、Aさんを驚かせるようなものだった。
◆開き直り、明るく説明
彼は「違いますよ。サウナです」と開き直って答えたらしい。
「ちょっとでも時間があるとサウナに入れることを“サウナチャンス”って言うんだとか、TikTokでバズってるサウナが取引先の近くにあったとか、楽しそうに説明してくれました」
かつてないほど生き生きとした顔をした彼に、Aさんは怒る気力も失ってしまったのだという。「好きなものに熱中するのはいいけど、業務外でやってね」と軽く注意をする程度にとどめたらしい。彼は後に地方店へ転勤した。今頃は好きなだけサウナに入っているのだろうか。
◆③彼氏の異動明細を調べて浮気を突き止めた
銀行に口座を持っている人間の異動明細を、行員は誰もが見ることができる。“頭取や芸能人の異動明細を調べると、本部に通報が行く”という都市伝説もあるが、定かではない。
本来なら異動明細は、取引先の口座にちゃんと融資のお金が振り込まれたか、きちんと運転資金に使われているかなど、仕事でしか使うことはない。
「ある女性の新人は、15時になると必ず異動明細を調べていました。初めは取引先の入出金を調べていて熱心だな、と感心していたのですが、大きな間違いでした」
彼女は異動明細の画面を睨みながら「あいつ、浮気してるじゃん」と呟いたのだという。
◆逆ギレされて、破局に……
近くを通りかかった新人の男性を捕まえて、彼女は説明を始めた。「見てよ、私と別れた後、コンビニで2万円引き出してる。その後、朝4時にまた同じコンビニで5000円おろしてるよ」と。「それがどうしたの?」と男性が聞くと「このコンビニ、ホテルの近くじゃん。女と行くためにお金を出して、その後でタクシー代のためにまた出金したんだよ」と。
「その名推理にも驚きましたが、彼氏の異動明細を毎日見ることにも驚きました」
新人の彼女が彼氏を問い詰めたところ、大当たりだったらしい。しかし異動明細をこっそり見られたことに逆ギレされて、破局に至ったのだとか。
――メガバンクの社員といえば、常識人をイメージするかもしれない。実際にはトンデモない行動をする新人たちが多数いるのだ。彼らは大量のマニュアルと“銀行の常識”に揉まれていくうちに、次第にマシになっていくことが多い。実は“銀行の常識”が“社会の非常識”だと、いずれ気づくことになるのだが……。
<文/綾部まと>
【綾部まと】
ライター、作家。主に金融や恋愛について執筆。メガバンク法人営業・経済メディアで働いた経験から、金融女子の観点で記事を寄稿。趣味はサウナ。X(旧Twitter):@yel_ranunculus、note:@happymother
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