【元記事をASCII.jpで読む】

 2024年3月1日、世界最大規模のスタートアップ・コンテストExtreme Tech Challenge(以下、XTC)」の日本大会「XTC JAPAN 2024」が開催された(JAPAN INNOVATION DAY 2024と同時開催)。優勝企業は2024年10月にサンフランシスコで開催されるXTC世界大会に進出する。今回は、登壇した10社のピッチと授賞式の様子をレポートする。

 XTCでは、革新性、市場性、インパクト、チームの4つの観点からピッチを審査する。革新性はプロダクトや事業にどれだけ新しい工夫がされていて、競合と比べてはっきりと差別化がされているかどうかがポイント。市場性は事業がどれだけ大きく成長する可能性があるか、そのための道筋、アクションを具体的に描けているかがポイントとなる。インパクトは、事業が世界をどれだけ良い方向に変えるか、人類社会や地球への影響力がポイント。チームは、メンバーが事業を進めることができるかがポイント。肩書きや実績だけでなく、登壇者の理解の深さを見る。

 審査員は、オムロンベンチャーズ株式会社 井上智子氏、立命館大学情報理工学部 西尾信彦氏、株式会社アイティーファーム 白井健宏氏、Plug and Play Japan株式会社 馬静前氏、の4名(※肩書きは当時)。

 1社の持ち時間3分で、日本語だけでなく世界大会を見据えて英語でのピッチもOK。白熱のピッチが行われた。

VR技術を活用した体性認知協調療法で難治障害を治療する、株式会社mediVR

 株式会社mediVRはVR技術を用いた「体性認知協調療法」を通じて、脳卒中後遺症やパーキンソン病などの難病治療を実現した。運動失調や歩行バランス障害を有する患者において、目覚ましい治療成果を示しており、1回わずか20分の治療で顕著な改善が報告されている。

「mediVRカグラ」という自社開発の医療機器は、20種の特許技術を駆使して協調運動障害を可視化。仮想現実空間上で“的に触れる”運動を行うことで治療している。VR酔いのリスクが0.5%未満と極めて低く、低侵襲の治療法となっている。

 すでに実績も積み重ねており、全国93の施設で導入され、FDA(アメリカ食品医薬品局)の認可も取得している。大阪と東京で運営されている成果報酬型自費リハビリ施設では、難病患者70例が治療を受けているという。また2023年には、知財活用ベンチャーとして令和5年度「知財功労賞 経済産業大臣表彰」を受賞した。

「現在、海外からも10件以上の問い合わせがあり、予約もある状況です。今後、保険償還を目指して交渉をしているところです。これによって導入された施設が 費用を得られる、さらに患者も良くなる、そして我々も利益を得られるという“三方良し”の世界を作りたいと思っています」と同社取締役COO/作業療法士 村川雄一朗氏は語った。

地球環境にやさしい高機能シルク素材の社会実装を目指す、エリー株式会社

 エリー株式会社は「エリートシルク」という地球環境にやさしい高機能シルク素材を開発した。

 アパレル産業は温室効果ガスの排出量全体の6%を占め、土壌や水質汚染にも大きな影響を及ぼすなど、環境汚染の大きな原因の一つとされているという。特に綿のTシャツ1枚を作るのに2500リットルの水が使われるなど、その影響は大きい。

 そこで、廃棄農作物を飼料とするエリ蚕と呼ばれる蚕を用いて、従来のシルク素材と比べて環境負荷を大きく減少させ、サステナブルと低コストを両立させたという。エリ蚕から生産されるシルクは肌に優しく、消臭効果があり、オールシーズン対応可能な高機能素材となっている。

「重要なのはチームです。これまでシルク業界はたくさんの研究成果があるのですが、社会実装された例がほとんどありません。原料や製造というところをビジネスとして考えられていないからです。我々はそこから逆算して、研究開発や技術開発をできるチームです。すでに、アパレル関係企業との協業が進んでいます。また、大手のスポーツアパレルブランドとも共同開発が進んでいます。 私たちは『エリートシルク』を社会実装することでアパレル業界に革命を起こし、これらの社会課題を解決していきたいと思っています」(代表取締役 梶栗隆弘氏)

Wi-Fiセンシングで高齢者の生活をサポートする、ai6株式会社

 ai6株式会社はWi-Fiセンシング技術を活用した高齢者ケアソリューション「AiCare」を提供している。

「私たちのミッションは、高齢者の健康寿命を延ばし、社会保障費を抑制するエコシステムをつくることです」(英語でプレゼンした内容を日本語に翻訳)と代表取締役の丸茂正人氏。

 Wi-Fiを利用し、家庭内の活動をデータに変換し、日中の活動から夜間の睡眠に至るまで、連続的にモニタリングするのが特徴。Wi-Fiを使うことで、コストパフォーマンスのいいソリューションとなっているという。

 この技術は動画撮影をしないので、個人を識別せず、プライバシー侵害の懸念を大幅に軽減できる。また、ウェアラブルデバイスも必要としないので、高齢者がストレスに感じることもない。

「AiCare」は、日常生活における活動を学習して、運動や薬の服用を促すリマインドを出したり、家族やコミュニティとの交流を奨励したりできる。また、徘徊や転倒などの緊急事態を検出し、リアルタイムで家族やケアギバーに警告を出すことも可能。生活様式や睡眠パターンの変化から、認知症や生活習慣病の初期兆候を検出し、早期の医療検査を促すこともできる。

「長期的なデータ分析を行い、認知症などの慢性疾患の初期症状を検出できます。私たちは高齢者介護施設向けの『AiCare Pro』と高齢者介護施設向けの『AiCare Companion』という2種類の製品を開発しました」(丸茂氏)

難治性過活動膀胱による尿失禁を改善するスマートインプラントデバイス、株式会社INOPASE

 株式会社INOPASEは、過活動膀胱(OAB:Overactive Bladder)による尿失禁を改善するためのスマートインプラントデバイスを開発した。

 過活動膀胱は頻繁にトイレに行ったり、急に尿意を催して失禁してしまうという病気だ。日常生活に大きな制限を与える問題であり、現在の治療法では十分な効果が得られない場合が多いとのこと。脳と膀胱の間のコミュニケーション異常が原因で、過活動膀胱患者の30%には薬が効かないという。

 そこでINOPASEのデバイスを利用すれば、精密な刺激を与えることで異常な神経活動を調整し、脳と膀胱の間のコミュニケーションを回復させることができる。

 ビジネスモデルとしては、既存の保険償還を利用して病院にデバイスを販売する計画がある。治療にかかる費用は2万8000ドル(保険償還価格)となっている。現在の米国市場規模は8億ドルで、年間5万回ものインプラントが行われているという。

「今後は過活動膀胱の患者を対象に、臨床概念実証試験を今年中に開始する予定です。私たちはすでに、将来的な出口を見据えた多国籍ヘルスケア企業とのコミュニケーションを開始しています」と代表取締役CEO 杉本宗優氏は語った。

アフリカ中小企業に独自与信モデルを構築して金融サービスを提供、LINDA PESA株式会社

 LINDA PESA株式会社は「Opportunities for everyone(すべての人が、機会を創造できる世界)」をビジョンに掲げ、アフリカスモールビジネス向け金融サービスの提供を行っている。

 アフリカには約4400万の中小企業が存在し、金融サービスにアクセスできるのはそのうちの20~33%程度となっているという。多くの中小企業が成長と大市場へのアクセスを望んでいるものの、不正や計算ミスなどの問題により、ビジネスの透明性が低いという大きな課題があった。

 そこでLINDA PESAは、良質な帳簿が経営力と中小企業の信用力の源泉になり得ると考え、デジタル化と独自の与信モデル構築を行うことで、問題の解決にチャレンジしているのだ。

 このアフリカスモールビジネス特化経営管理SaaSは、データを蓄積し、経営力の向上を目指す。利用する中で与信情報を蓄積し、アプリの利用実績に基づいて適切な貸付額と利息を提案する。商品や多様なアセットを担保にすることで、調達金利と貸倒率を低く抑えることも可能だ。

「競合としては銀行やマイクロファイナンス協同組合などがありますが、それぞれ担保が必要だったり、金利がとても高かったり、貸付金額が低かったりします。このスモールビジネスの融資市場はブルーオーシャンとなっており、当社はいち早くここを取っていきたいと考えています。現状、貸倒率ゼロで回しており、さらに規模を拡大していく予定です。トップライン22兆円の巨大な市場ですが、まずは2028年に売上高な20億円を目指しています」(代表取締役CEO 山口亜祐氏)

非GPS/暗闇/通信網なしで自動飛行できるドローンの外付け装着装置、サイトセンシング株式会社

 サイトセンシング株式会社は国立研究開発法人産業技術総合研究所のスピンアウトベンチャーで、計測技術をベースに2012年に起業。非GPS/暗闇環境下でもドローンの自動飛行を実現する「GeoPack」を開発している。

 約300gの「GeoPack」をドローンに装着し、フライトコントローラーに接続することで、離陸から周遊、回帰、着陸まで自動飛行が可能になる。飛行範囲はPC上で入力し、「GeoPack」へ送信できる。

 また、自律航法技術を採用しており、非GPS環境下や暗闇でも通信網なしで自動飛行を実現しているのは「GeoPack」だけだという。価格は30万円なので、数十万円のドローンと組み合わせても100万円以下で済む。一般的に自動飛行ドローンは数百万円から1000万円程度するので、10分の1くらいの価格で抑えられるという。

 事業モデルとしては、「GeoPack」の直接販売だけでなく、企業や地方自治体、公的機関などへのライセンス事業展開を目指している。

「積分をしていくような形で自己位置を決定していく独自の自律航法技術を利用しています。当初は『GeoPack』を販売するということから始めるつもりですが、ライセンス事業に転換していくということを大目標にしています。次のステップでは、試作品を100台作りたいと思っています」(代表取締役 平林隆氏)

生産者が産直ECに参加するハードルを低くした産地直送型映像メディア、株式会社アンドピリオド

 株式会社アンドピリオドは地域とつくる産直ウェブメディア「ふるマル」を運営している。「ふるマル」はライブ配信を中心に、高齢化が進む日本の農業従事者に新たな販路を提供し、生産者の「伝える」方法を変革することを目指している。

 日本の農業従事者のうち、産直ECに参入しているのは1.7%の2万人、平均年齢は48歳とのこと。しかし、98.3%を占める非参入者の平均年齢は68歳と高齢であることが課題となっている。「ふるマル」は、このマーケティングの知識を持っていない人たちでも、ライブ配信に出演して、消費者に思いのたけを直接語りかけて販売できるプラットフォームとなる。

「キーとなるのは地域のキーパーソン、産直コーディネーターという役職です。地域の生産者から物を集めて、ライブ配信の企画、商品の出品・発送などもこのコーディネーターが担います」(常務取締役 兼 産地統括マネージャー 大嶋憲人氏)

 ユーザビリティの向上のために、生成AIでの登録商品のイラスト化や希望の量と種類を選べるピッキング、梱包箱の占有率表示による商品レコメンドなども行えるようになっている。

 サービスのビジネスモデルとしては、コーディネーターからの販売手数料のほかに、ライブ広告掲載料やサービス利用料といった複数のキャッシュポイントを持っているのが特徴だ。

ブロックチェーン電子証明書の発行から管理まで行うワンストップSaaS、Turing Japan株式会社

 台湾のスタートアップであるTuring Spaceは世界10カ国に展開。2023年5月に子会社であるTuring Japan株式会社を設立し、日本でもブロックチェーン電子証明書サービス「Turing Certs」を提供している。

「Turing Certs」はGDPRコンプライアンスを適用し、国際規格ISO27001、ISO27701を取得したブロックチェーン電子証明書の発行から管理、真贋判定までワンストップで利用できるSaaSとなる。ブロックチェーン技術を利用することで、第三者機関が証明書を検証する手間を省き、改竄不能なデータの発行が行えるのが特徴だ。

 台湾デジタル発展省や台湾経済部標準検験局など約40の政府機関や主要都市の地方自治体、21%の大学など、160以上の機関で利用されており、マーケットシェアを確立している。

「Turing Certs」を利用することで、コストを67%削減し、郵送する場合と比べると2週間以上の時間を短縮、さらにはペーパーレス化やCO2排出量の削減といった効果も期待できるという。

クライアント例としては、台湾の経済産業省にあたるところで360万枚の再生エネルギー証明書のデジタル化をサポートさせていただいています。また、台湾のデジタル省では、中小企業の納税記録や財務記録などのサポートも250万枚ぐらいしています」(取締役 鄧詩華氏)

 競合との比較では、他社は特定の機能や市場に限定されているのに対し、「Turing Certs」はより広範囲のニーズに対応し、迅速な導入が可能で、多言語にも対応する。さらに、15分で1万枚以上の証明書を発行することができるという。

カメラ映像をAIが分析することで低コストの無人店舗を実現、Cloudpick Japan株式会社

 Cloudpick Japan株式会社の秦昊氏は、小売業の「買い物体験の向上」と「働き手不足の解消」の実現を掲げながら、ウォークスルー無人店舗のコンセプトや将来構想についてプレゼンした。すでに19カ国で900店舗以上に導入し、世界トップの実績を持っている。

 QRコードや顔で認証して入店したら、消費者は自由に商品を手に取り、カバンに入れることができる。Cloudpickではカメラの映像をAIで解析し、在庫を認識するという。

 そのおかげで、消費者はレジ待ちのストレスなく買い物を楽しめるようになる。また、店舗側としては売上の向上と運営コストの削減を実現できる。万引きも防止され、コストを増やさずに24時間営業が可能になるというメリットもある。100%AIで監視するうえ、精度は99.7%と高く、レシート配信速度も10数秒と早い。人間の監視を必要としていないので、コストも低く抑えられる。

 同社のシステムを導入した日本の店舗で、コンビニの1/3のサイズながら、コンビニの1日平均利用人数を超える実績を出しているという。また、過疎地での買物難民問題解決に向けたチャレンジや、石川県白山市での空き家を活用した24時間無人販売など、社会的な問題解決にも取り組んでいる。

「まずは新規出店を狙い、その後既存の店舗のリプレース、そして最後はオフラインの店舗のDX、高度なデジタル運営を可能とするリテールのオペレーティングシステムを構築していきたいと思っています」(泰昊氏)

衛星データをAIで分析することで不動産仕入れを100倍加速、株式会社Penetrator

 株式会社Penetratorは衛星データとAIで企業の不動産仕入れを迅速化するプラットフォームサービス「WHERE」を開発、提供している。

 これまで不動産の仕入れは人脈や紹介に大きく依存し、とても手間と時間がかかるアナログなプロセスだった。そこで、衛星データとAI技術を組み合わせることで、特定の不動産を素早く検出し、所有者情報を特定できるシステムを開発。不動産仕入れの速度を大幅に向上させることが可能になった。

 AIが駐車場や畑、空き地などの種類を識別し、法務局の登記データと照合して所有者を特定するので、事業展開のスピードが劇的に向上する。従来なら30時間かかっていた作業がわずか数クリック3分程度で完了するという。

 不動産所有者と直接取引することで中間業者は不要となり、ライバル企業よりも先に用地の獲得ができるようになる。オフィスにいながら日本全国の情報を取得するため、必要なエリアに能動的に事業展開をすることも可能になる。ターゲット企業は10.5万社で、事業規模は1760億円を見込んでいるという。

「衛星データを使っているため、すでにアメリカやヨーロッパなど全世界の不動産をピックアップすることが実現できています。2027年にはアメリカ、イギリスに展開するため、今、市場調査をしています。今回のシステム開発に必要な不動産取引の知見、衛星データなどの宇宙技術、そしてAIという3要素のスペシャリストがチームリーダーとなっています」とCEO 阿久津岳生氏は語った。

優勝企業はINOPASE! 10月の世界大会に参戦する

 ピッチ後、審査員による審査が行われた。その結果、優勝企業はINOPASE、準優勝企業はPenetratorとなった。優勝企業のINOPASEは、10月にサンフランシスコで行われるXTC世界大会に参加する。また、世界中のXTCパートナー企業および歴代ファイナリストによるネットワーキング支援を受けられるXTCグローバルファイナリストコミュニティへの参加資格も得る。

 最後にINOPASEの杉本氏は「ただただ素直に非常にうれしいです。事前のメンタリングでいろいろなアドバイスいただいて、ビジネスのことを考えるいい機会になりました。今、Go Globalの気運が高まっているので、この波に乗りつつ、さらにこの波を加速できるようにしっかり結果を出し、努力していきたいと思います」と語った。

新進気鋭の10社がピッチを披露! 世界最大規模のスタートアップ・コンテストXTCの日本大会が開催!