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 昨年10月、SNSの総フォロワー数が世界で10億人を超えるアメリカが誇る世界最高峰のスポーツエンターテイメントであるWWEのメイン大会RAWSMACKDOWNの放送が日本で開始された。さらに今年1月27日(日本時間28日)に行われたロイヤルランブル以降は、放送席の陣容を一新。自他ともに認める“WWEウォッチャー”の清野茂樹アナウンサーらが加わった。そんな清野アナが、自らの実況回ごとにWWEの魅力や楽しみ方を振り返る連載コラム。最大の祭典であるレッスルマニアを直前に控え、第10回目のキーワードWWE最大の祭典で“血筋”を持つスーパースターと“叩き上げ”のスーパースターが入り乱れ、ユニバースを熱狂させる壮大な「物語」の行方。

【映像】ロック登場で場内騒然! どうなるレッスルマニア

■観れば人生が変わる「レッスルマニア」。2日間にわたって全13試合の熱戦が

 いよいよ「レッスルマニア」の全対戦カードが出揃いました。初日が7試合で、2日目が6試合。美味しいレストランのメニューと同じで、ずらりと並んだ豪華な顔ぶれを見ると心が躍ります。そこで、今回はファンのひとりとして、注目する試合について書いてみましょう。

 私的メインディッシュは、やはり2日目に行われる、ローマン・レインズとコーディ・ローデスによる統一ユニバーサル王座戦です。遡ること1年前の「レッスルマニア」と同じ顔合わせですが、ルールは初日のタッグマッチの結果で決まるという状況は異なります。挑戦者のコーディ・ローデスへの支持は昨年以上の高まりを感じますし、ダスティ・ローデスを見て育った世代の私としては、やはり息子がベルトを巻く姿を見てみたい。

 デビューの頃から偉大な父を持つレスラーとして注目されたコーディですが、当時は今のような支持はされていませんでした。二世特有の育ちの良さと才能があるのはわかるけど、特に大きな長所も見当たらない。他に光り輝くスーパースターがいる中で、ファンの多くはコーディを推す理由が見当たらなかったのでしょう。私が13年前に「レッスルマニア」を現地観戦したとき、彼に対しては歓声もブーイングもほとんど発生しなかったことをはっきり記憶しています。

 その後のコーディはキャラチェンジしてもパッとせず、WWEを退団。6年ほど外の世界を経験したのち、復帰しました。すっかりカリスマとなりましたが、まだ最高峰の王座は手に入れていません。コーディが口にする「物語を終わらせる」という言葉もいいですね。これはWWEに戻ってからの2年間の成果とも、デビューしてから18年間の成果とも考えられますし、父ダスティも腰に巻けなかったチャンピオンベルトを手に入れることとも考えられます。こうして、長い年月を一緒になって追いかけられるのはWWEの楽しみのひとつです。

 しかし、よく考えてみると、対戦相手の王者ローマン・レインズも二世レスラーです。合体した“ラスボスザ・ロックにいたっては祖父の代からの三世レスラーですから、ブラッドライン側こそ実は血筋という「物語」があるわけです。700日以上も王座を保持する王者には、なかなか穴が見つかりません。

 さて、初日でいえば、リア・リプリーの持つ世界女子王座に挑戦するベッキーリンチの試合も気になります。王者との小競り合いも激しくなっていて、前回のRAWでは男性セキュリティ数人でも止められないほどの大乱闘を見せました。

 ベッキープロレスの血筋を持たない、いわゆる“叩き上げ”タイプです。無名時代には日本の板橋区立グリーンホールで試合をした過去もあります。当時の動員は137人。そこからNXTでの下積みを経てWWEでトップに登り詰めたという「物語」の持ち主です。「レッスルマニア」でメインイベントも経験し、女子部門の地位を引き上げてきた第一人者であることは間違いありません。しかし、ここ数週は観客の声援はヒールであるはずのリア・リプリーに集まっているという現実。会社の方針とファンの推しにズレが生じているこの試合は、勝負の行方と同時に観客の反応も気になっています。

 8万人を集める巨大イベントに向けた会場設営が進んでいる様子をSNSで見かけました。欲を言えば、フィラルフィアに行って実況してみたいものですが、そう簡単にはいかないのは、コーディ・ローデスの「物語」と同じ。WWEの日本語実況がスタートしてまだ2か月あまり。まずは東京でコツコツと実績を作って、数年後にあの大熱狂に身を置く方が感動は大きいに違いありません。今年の「レッスルマニア」は、伝える側にとっての物語の始まりでもあります。

文/清野茂樹
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“血筋”か“叩き上げ”か…WWEスーパースターたちが地位と名誉、人生をかけて激突するレッスルマニア 物語の“破壊と創造”に注目【清野茂樹アナ連載#10】