競馬や宝くじといったいわゆる“ギャンブル”は、胴元の取り分だけ損をする仕組みであり、経済合理的にはやらないほうがいいとされています。しかし、経済評論家の山崎元さんは、あえて「競馬」をやっていたそうです。いったいなぜなのか、詳しくみていきましょう。※山崎元氏は2024年1月1日に逝去されました。衷心より哀悼の誠を捧げます。

投資って、「ギャンブル」となにが違うの?

【登場人物】 ・山崎先生(山崎 元)……経済評論家東京大学経済学部を卒業後、三菱商事に入社し、野村投信、住友信託銀行、メリルリンチ証券など、合計13社で金融関係の仕事を経験。

金融業界の“裏の裏”まで熟知し、経済評論家となったあともテレビや雑誌、YouTubeなど多くのメディアで活躍。切れ味の鋭い発言を連発している。お金のことをなんでも知っていて説明もわかりやすいが、ちょっとクセが強い。

大橋(大橋 弘祐)……大手通信会社から、37歳で一念発起し作家・編集者に転職。お金の知識はなく、経済のニュースを聞いてもよくわからない“ド素人”。給料が上がらず税負担が増えるいま、将来に不安を抱え「お金を増やしたい!」と思っている。

大橋インデックスファンドって、減るかもしれないんですよね。だったら、それだってギャンブルじゃないですか。競馬や宝くじとそんなに変わらないことじゃないんでしょうか。

「投資信託には大きく2種類ある。プロ(人)がどの会社の株がいいか選んで詰め合わせをつくっているのがアクティブファンド。もうひとつは株価指数(インデックス)の中身に合わせて、機械的に詰め合わせをつくっているインデックスファンド。それで、わたしはアクティブファンドよりインデックスファンド。その中でも、世界中に分散投資できる「オルカン」と呼ばれている商品をオススメしている」(『新NISA対応 超改訂版 難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!』(文響社)より抜粋)なお、アクティブファンドよりインデックスファンドのほうが手数料が安い。

山崎先生インデックスファンドを買って、株式に投資することは、生産に参加する「資本」を提供してお金を働かせることなので、誰かが勝って、誰かが負ける、ギャンブルとはちがう。手持ちの「お金も働かせて稼ぐ」ことだと考えていい(図表1)。働かないで稼ぐという話ではないからね。

大橋:たしかに、ギャンブルと意味合いは違うかもしれませんが、お金を渡した先の企業が減らしてしまうかもしれないんですよね……。実質的なギャンブルじゃないんでしょうか? それなのに、どうして数多くある手段からそれを選ぶんでしょう……。

山崎先生:それはリスクプレミアムがもらえるからだね。

大橋:リスクプレミアムですか……。なんでしょうそれは。

株式投資はリスクを引き受けることで「年間5~6%」の報酬が得られる

山崎先生:よく、リスクって言葉使うでしょう。リスクって何だかわかる?

大橋ハイリスク、ハイリターンとか言うやつですよね……。減るかもしれないことですか?

山崎先生:リスクというのはそれだけじゃなくて、「減るかもしれないし、増えるかもしれない」ってことなの。

大橋:増えるほうもリスクに含まれるんですね……。

山崎先生:だけど、たいていの人はリスクを嫌うんだよね。朝、起きるたびに貯金が増えたり、減ったりしてたらいやでしょう?

大橋:それはいやですね……。

山崎先生:株式投資ではそのリスクを引き受ける報酬として、リスクプレミアムがもらえるようになってるの。

リスク……増えるかもしれないし、減るかもしれないこと

リスクプレミアム……リスクを受け入れることによって得られる報酬

※リスクプレミアムはリスクのない資産(国債など)の金利にプラスして、年間どのくらいの収益が期待できるかをパーセントで表します。

山崎先生:それで、プロの投資家や学者の間では、株式への投資において年間5%〜6%くらいのリスクプレミアムが得られると考えられている。私もそう思うからすすめているし、いままでもそんな感じで増えてきた。(図表2)

「年間5%~6%」の根拠は…

大橋:どうしてプラス5%なんでしょう。山崎さんがそう思うだけで、個人的な感想じゃないですか。

山崎先生:「GPIF」という国民から集めた年金を、運用して増やそうとしている国の機関があるんだけど、彼らは株式について、だいたい金利プラス5%くらいの計画を立てて、実際、それくらいの利回りで毎年運用してきた。株式のリスクプレミアムはこれくらいで考えておくのは、別に特別なことではなく世間並みだと思うよ。もちろん、絶対に得られる訳ではないけどね。

※ GPIF……年金積立金を運用している公的な機関。世界最大級のお金をインデックス運用している。 ※ 参考値ですが、過去15年において世界全体の株式指数の年間平均リターンは約6〜7パーセント程度と言われています。(「iシェアーズ MSCI ACWI ETF」の運用実績より算出)

大橋:うーん。ちょっとまだわからないんですけど……、いままでは経済成長してきて株価が上がったかもしれませんけど、世界全体の株を買ったところで、これからは、日本のように少子高齢化する国は多いし、景気が悪くなったりするかもしれないのに、それなのに、どうしてプラス5%ももらえるんですか。

山崎先生:そこは、バカが勘違いしやすいところだね。

大橋:バカって……。

山崎先生:リスクプレミアムは、あくまでもリスクをとることに対して生じるものなので、利益成長の予想がゼロやマイナスでも、成長しないという予想が織り込まれているから、「高成長で高い株価」に投資するのと「低成長で安い株価」に投資するのとでは、どちらに投資したら得なのかはざっくり五分五分だね(図表3)。

大橋:経済成長するから株価があがるというわけでもないんですね……。

衝撃!競馬は平均的に勝っても75%、宝くじは45%になる

山崎先生:じゃあ、ここで君が言っていた、宝くじや競馬と株式投資を比べてみようか。競馬は胴元である運営者側が、集めたお金からだいたい25%くらい引いて、残りの75%を、馬券を買ったお客さん同士で取り合う。だから仮にずっと1万円の馬券を買い続けたとしたら、平均的な払い戻し金は、だいたい7,500円になってしまう(マイナス25%だから)(図表4)。

大橋:平均点をとって、7,500円になってしまうのは、損な気がしますね。

山崎先生宝くじは法律で還元率が50%を超えてはならないと定められていて、実際の還元率は約45%くらい。つまり、宝くじを1万円分ずっと買い続けたら、平均で4,500円くらいになる(図表4)。

大橋:そんなに低いんですか!?

山崎先生:うん。ちなみに還元率45%っていうのは驚異的に低くて、世界トップレベルのボッタクリギャンブル。だったら世界株のインデックスファンドでプラス5%を目指したほうがいいでしょう。ちなみに宝くじで損する分は「無知の税金」って言われている。正しい知識があれば、失うことのないお金だからね。

大橋:無知の税金ですか……。

山崎先生:どうせ銀行に預けててもお金はたいして増えないんだから、無理のない範囲でリスクを負って平均でプラス5%が狙えるインデックスファンドを買ってみようよ、ということだね。

オオハシ注

日本では投資をしている人がまだ少ないそうです。それは、この考え方が理解されてないのが原因だと思いました。

投資というと、世の中の情勢をくまなく知って、株が上がるか、下がるか予想する。それで上がったら大儲け、負けたらすっからかん。そんなイメージを持ってしまいがちですが、そうじゃないコツコツ型の「お金の増やし方」があり、欧米ではそれが一般的なのだそうです。

で、ここで言うコツコツ型の「お金の増やし方」というのは、100万円がたぶん105万円になる。減るかもしれないし、もっと増えるかもしれない。でも長い目でみたら、おそらく平均105万。

というやり方があり、これを簡単に実行できる金融商品も出ていて、素人でも難しいことではない。ということなのです。

ギャンブルは「教育娯楽費」?

大橋:ということは、先生は当然、ギャンブルはやらないんですよね。

山崎先生:やるよ。競馬を。

大橋:えーっ! 話違うじゃないですか。ギャンブルじゃなくて投資をやるべきなんじゃないんですか。

山崎先生:そうだよ。

大橋:(開き直った……)じゃあ、なんでやるんですか? さっきの話だと、胴元が25%とるから1万円を使ったら7,500円になるって言ったじゃないですか。

山崎先生:2,500円で熱狂できるし頭も使うからね。私はその精神的効用を買ってるの。くだらない映画を観るよりは全然いい。投資じゃなくて「教養娯楽費」だね。

大橋:(教養娯楽費……)。

山崎先生:とにかく、借金をしてギャンブルにつぎ込むのは問題外だけど、節度をもってやる分には、いい娯楽。

まとめ

・リスクとは増えるかもしれないし、減るかもしれないこと。

・リスクをとることによってリスクプレミアムを期待できる。

・競馬や宝くじは胴元の取り分だけ損をするから経済合理的にはやらないほうがいい。

・ただし、競馬は損が問題ない範囲でやるなら意思決定の練習や精神的鍛錬になるらしい……(本当だろうか!?)。

山崎 経済評論家

大橋 弘祐 作家編集者

(※写真はイメージです/PIXTA)