“悪魔の子”ダミアンに翻弄される人々の恐怖を描き、世界的ヒットを記録した名作オカルトホラー『オーメン』(76)。その前日譚を描く最新作『オーメン:ザ・ファースト』(4月5日公開)では、6月6日午前6時に生まれ、頭に不気味なあざを持つ“悪魔の子”の誕生秘話が明かされる!

【写真を見る】ゆりやんレトリィバァら有識者たちが、悪魔の子の誕生秘話を描く『オーメン:ザ・ファースト』の見どころを語りつくす!

MOVIE WALKER PRESSでは、「日本ホラー映画大賞」の選考委員も務めるお笑い芸人のゆりやんレトリィバァ、『リング0 バースデイ』(00)の鶴田法男監督、ホラー好き声優の野水伊織を迎え、「DVD&動画配信でーた」「PRESS HORROR」編集長の西川亮がMCを務める座談会を実施。『オーメン』とその前日譚となる『オーメン:ザ・ファースト』のおすすめポイントをじっくりと語り合ってもらった!

■「久々にちゃんとしたホラーを観た気がしました」(鶴田)

西川「まずは、新作の『オーメン:ザ・ファースト』をご覧になった感想を伺いたいです」

鶴田「最近のホラーって、いわゆる“ジャンプスケア”という(突然びっくりするような出来事が起きる)脅かしがすごく多かったりするけれど、この作品はすごく真面目に作っている印象があります。1作目を含めて『オーメン』シリーズ全体に対してのリスペクトをものすごく感じました。『オーメン』だけでなく、70年代に一世風靡した『エクソシスト』や『サスペリア』などのテイストも感じて、非常に好感を持ちました。久々にちゃんとしたホラーを観た気がしましたね」

西川「舞台が70年代というのもありますが、音楽にもその雰囲気を感じてオープニングから引き込まれますよね」

鶴田「そうですね」

野水「怖がらせるところはちゃんとあるけれど、最近のホラー映画は『(怖いシーンが)近づいてきてる…』と思ったらなにもなくて、そのあとに『来た!』ってなるような。ジャンプスケアを1回外す、みたいな傾向があるけれど、この作品は来てほしいところで来てくれる(笑)。来てほしいところが(こちらと作品で)合致して、すごく気持ちいいと思いながら観ていました。鶴田監督のおっしゃるように、76年版の『オーメン』など古典的なホラーの良さを踏襲しつつも、飽きさせなテンポ感であっという間でした。本当にノレた!という感じがあります」

ゆりやん「1作目の『オーメン』が大好き。(今回も)めっちゃ面白かったですよね。ダミアンがどうやって生まれたのか。(1作目でダミアンは)山犬の子って言われていたけれど、それってどういうこと?っていろいろ気になることがあって…。それを今回観れたことがめちゃくちゃうれしかったです。続編を観ていると『あれ?前作ってどうなってたかな?』みたいに思うことって多いけれど、前作がこうだったから、こうなって、そうそうそう…みたいに納得しながら観られたのもすごく楽しくて。1作目の“裏側”を観ているような感じがしました」

西川「1作目の『オーメン』はレジェンド・オブ・ホラーと呼ばれる傑作です。1作目のすごさをぜひ皆さん、それぞれの立場から伺いたいです」

鶴田「ホラー映画を作っている人間にとっては“聖書”みたいなもの。脚本のデイヴィッド・セルツァーは(役者に)言うべき台詞をきっちり言わせて、怖がらせ、見事にオチをつけている。『リング』にも個人的には『オーメン』の影響を強く感じています。『リング』に限らず、よくできたホラー映画は基本的に『オーメン』と同じ構造を持っています。そういう意味で絶対に外せない作品。ホラーをやっている人で『オーメン』が好きじゃないとか、観たことがないという人がいたら…それはモグリですね(笑)。やっぱり基本です。若いころは基本的なことは面白くないって、『オーメン』に関しても否定的なことを言ってたこともあるけれど、最近はもう『参りました!』という感じです(笑)」

野水「私は大人になっていろいろなホラー映画を観るなかで『オーメン』に出会いました。“悪魔モノ”って取り憑かれたり、なにかが肉体に宿るみたいなものが多いのですが、自分が愛情を持って育てている子どもそのものが実は…という。自分ではどうしようもない、抗えない怖さというのがすごく面白いと思いました。あとはやっぱりダミアンのキャラクター性。いまでもアイコンとして成立していて、『オーメン』を観たことがなくても(ダミアン=)“悪魔の子”という意味が伝わる」

西川「ゆりやんさんは映画監督をやってみたいんですよね?」

ゆりやん「そうなんです。なので、先ほど鶴田監督が『オーメン』観ていない人にホラーを作るのは無理というのを聞いて『よかった、観ていて』と安心しました。私は本当に1作目が大好き。まず話が面白い。だってそもそも旦那さんが奥さんに正直に話していればこんなことにならなかった!って思うんですよね(笑)。ホラー映画は好きだけど怖いのは苦手。一人で観るのは怖いけれど、『足元見て!』とかみんなでツッコミとかワイワイ言い合える感じとかも面白い。しかも、ダミアンがかわいい!かわいいですよね?」

野水「かわいいです!」

西川「本人はなにも手を下してはいないから、悪いことはしていないですしね」

ゆりやん「メイドさんが代弁しているというか。ダミアンを見守って、助けながらみたいな」

野水「あの人も悪魔崇拝者ですね」

西川「悪の手先というか」

ゆりやん「なんかこのメンバーで一緒に観たくなってきました。ワイワイ言い合いたいです!」

■「ショッキングなシーンでも不快感がないのは、監督の背景も影響しているのかなと」(西川)

西川「本作で印象的だったシーンはありますか?」

鶴田「マーガレット役のネル・タイガー・フリーが途中から僕が監督した『リング0 バースデイ』の(主人公を演じた)仲間由紀恵さんに見えてきちゃって(笑)。いま、皆さんといろいろ話しているうちに、『リング0』の制作当時を思い出していました。怖い作品だけど、ネルさんの芝居をきっちり、じっくり撮っているのがものすごく印象的です。スティーブンソン監督が彼女のことを魅力的に見せようしているのが感じられます。きれいな姿で登場するのに、後半にはとんでもないことになってくる…。若干の特殊メイクはしているけれど、いわゆるCGというわけではない。彼女の芝居で見せていくという気概を感じてグッときました」

西川「アルカシャ・スティーブンソンは女性監督で、驚くべきことに本作が長編初監督なんです。元々ジャーナリストだったそうです」

野水・ゆりやん「へー!!」

西川「よくあるホラー映画とはちょっと違う。結構ショッキングなシーンも多いけれど、そこまで不快感がないのは、スティーブンソン監督のそんな背景も影響しているのかなと」

野水「これまではダミアンにフィーチャーしていましたが、今回はもっとマタニティホラーの要素がありました。女性ならもしかしたら嫌悪感を抱いたり、やめて!という気持ちになるんじゃいかなって。でも、確かに西川さんがおしゃったように、ゴシック要素というか、きれいな感じは保ったままで、生々しさがそんなにない。すごくバランスがいいなと思いました。と言いつつ、ホラー映画好きが『いいわー!』って思えるところもたくさんあって(笑)。76年版への死に方のオマージュもありつつ、悪魔の子の誕生を阻もうとする人たちが、惨たらしく死んでいくシーンはパワーアップしているように感じました。そこも見どころだと思います」

ゆりやん「ですよね。冒頭から『なにをしてんねん!』ってビックリしました」

野水「“予兆”がありますよね」

西川「ガタガタガタ!!みたいな」

野水「これは!ってなる映し方ですよね」

ゆりやん「だから最初から引き込まれたし、もちろん最後までずっとなんですが(笑)。忘れられないシーンもたくさんあります。

西川「映画監督目線で見た演出的なポイントというのは?」

鶴田「先ほども少し触れましたが、ジャンプスケア的なものではなく、本当に役者の芝居で怖がらせるとういこと。主演のネルだけでなく周囲の人たちの芝居もきっちり抑えているところはすごいと思います。ホラー映画を怖く見せるための基本は、化け物とか怖いものが出てくるから怖いのではなく、それに遭遇した人たちのリアクションをどれだけリアルに描くかが重要。僕がやってきたJホラーでは、幽霊など得体の知れないものを描きます。そのわけのわからないものに出会った人たちのリアクションをどれだけきっちり描くのかがポイントになります。この作品に関して言うと、それなりに残酷なシーンはあるけれど、周りにいる人たちの芝居をきっちり撮っているので、すごくレベルの高い作品になっていると思います」

西川「いままでの監督とは目線が違う、ジャーナリストっぽいところを感じたりしましたか?」

鶴田「端役の芝居までしっかりフィーチャーして演出しているという意味では、ものすごく細かいことをやっている。単なるホラーではない。ホラーだけどちょっと一段アップしている感じはあります」

■「私にとってこの作品は“わからなホラー”でもありました」(ゆりやん)

西川「本作の怖さのポイントは?」

野水「今回、ダミアンを阻もうとする者たちがどんどん死んでいくという惨たらしさはありつつも、主人公が巻き込まれていくことに共感もしてしまうというのがすごくあって。もしかしたらそれも、スティーブンソン監督が女性であることや、いろいろ話し合いを重ねて取り組んだ制作背景も影響しているのかなって。私が女性目線で観ているからかもしれないけれど、一体感のようなものがありました。いままでの『オーメン』って、ダミアンが中心だったけれど、ダミアンが出てこないのに自分がまるで中心にいるような怖さがすごくあって。呪われてしまうんじゃないかという体験型の要素があって怖かったです」

西川「スティーブンソン監督はインタビューなどでこの映画のことを“ボディホラー”と言っています。出産シーンなど女性の身体を使ってなにかをする。女性の身体が変化していくことに対して、ボディホラーと解釈して作っていたらしいです。そういうところもこれまでのホラー映画と違うポイントになっているのかなと」

野水「私、めちゃめちゃボディホラー好きなんです。子どもを身籠ることや自分が子どもを見守る怖さみたいなものって、どうしても女性のほうが共感するものなのかなって。いままでは養子としてもらわれてきたダミアンのお話でしたが、今回は誕生に関わっている。誰が産むの?って話になるじゃないですか。そこの怖さみたいなものがすごく描かれていた感じがします」

西川「ゆりやんさんの印象に残っているキャラクターは?」

ゆりやん「出てくる人全員怖いのですが、シルヴァ修道院長はすごく怖かったです。結局なにを考えているのかずっとわからなくて。私にとってこの作品は“わからなホラー”でもありました。わからなホラーですよね?」

鶴田「は…はい!(笑)。ソニア・ブラガがこういう役もやるのねというのが僕の感想でした。あともう一人、気になったのはビル・ナイ。結構な重鎮だし、先日黒澤明監督『生きる』のリメイク『生きる LIVING』でアカデミー主演男優賞にノミネートされていたはず。そんな素晴らしい作品に出た直後にこの『オーメン:ザ・ファースト』って(笑)」

西川「『ラブ・アクチュアリー』とか『アバウト・タイム 愛おしい時間について』といった心温まるいい映画に出ている方で、理想のお父さんのようなイメージもある方がこういう役をやるんだというハズしのキャスティングというのも見どころですよね」

鶴田「ただ、考えてみると76年版『オーメン』もグレゴリー・ペック主演。当時はすごく画期的なことだったはずだけど、いまではもう『オーメン』の主演として定着しているからなんとも思わなくなっていますよね。当時のグレゴリー・ペックは、いまの日本で例えるなら役所広司さんとか渡辺謙さんクラスの大スター。そういう方がホラー映画に主演するというのは当時ではありえないものでした。ホラー映画はいわゆるレベルの低いジャンルとされていたので。68年に『ローズマリーの赤ちゃん』や73年に『エクソシスト』が大ヒットして流れが変わり、『オーメン』が作られることになりました。そこで『アラバマ物語』のグレゴリー・ペックなわけですよ!そういう意味では、ビル・ナイが出ていてもおかしくはないんですよね」

■「ダミアンにつながる物語。“謎解きミステリー”としても楽しめる」(野水)

西川「『オーメン』の前日譚でありつつも、この1本でも成り立つ物語になっています。皆さんは『オーメン』が大好きなので本作で初めて『オーメン』に触れるという体験はできないですが、もし、この1本で楽しむならどんな面白さがあるとおすすめしますか?」

鶴田「人間模様もひっくるめて楽しめる作品ですが、なんといってもマーガレットの登場と終わる時の落差です(笑)。女性の物語として観ても面白い気がしています」

野水「ネタバレになりますが、死に様というのでしょうか。サービスシーンがたっぷりあるところは魅力かなと。怖さよりもショックなシーンですが、惨さがあります。視覚的な派手さもあるので、私のようなホラー好きは華やかなシーンだなと思いながら楽しめました(笑)」

西川「死に様といえば、鶴田監督は車のシーンが印象に残ったとのことですが…」

鶴田「照明での演出の仕方が面白かったです。例えば、夜のシーンなら車が近づいてくるとライトが当たって『来るぞ!』というのが分かるじゃないですか。だから照明を暗くしたり、当てないようにしたり、どうにか工夫をするものなんです。でもスティーブンソン監督は律儀にライトを当てている。ジャーナリスト出身で嘘はつきたくない、リアルなものを伝えたいというのを感じられる作品でした。そんなところも楽しめるポイントだと思います」

ゆりやん「ありのままに」

野水「ジャーナリスト魂ですね。真実を伝えるという」

鶴田「そう。『はい!ここでジャンプスケア』とはならないわけです」

野水「逆に予兆っぽく知らしめたのかな、なんて(笑)」

西川「最後に。本作を楽しみにしている方にメッセージをお願いします!」

鶴田「脅かしのいっぱいある流行の怖い映画とはちょっと違っています。しっかりとドラマがあり、芝居が成立している作品で、76年版『オーメン』につながっていく流れのなかのもの。物語の部分を楽しんでいただければと思います」

野水「怖いところはちゃんと怖がらせてくれる派手さがありつつ、ゴシックホラーとしての美しさもあります。そしてダミアンにつながる物語もしっかり描かれているので“謎解きミステリー”としても楽しめるんじゃないでしょうか。ホラーのジャンルは多岐にわたりますが、この作品はいろいろなジャンルが好きな方が楽しめる一作になっています。76年版『オーメン』もきっと観たくなる作品です!」

ゆりやん「観たあと、いろいろな人と喋りたくなる、答え合わせをしたくなる作品です。考察するのがめっちゃ楽しいと思います。『あなたの周りに、ダミアンはいませんか?』……以上です(笑)」

鶴田・野水「アハハハ!」

構成・文/タナカシノブ

『オーメン:ザ・ファースト』座談会を行ったゆりやんレトリィバァ×鶴田法男監督×野水伊織×「DVD&動画配信でーた」編集長の西川亮/撮影/黒羽政士