味の素が2024年1月から新たに開始した冷凍宅配弁当「あえて、」。多くの冷凍宅配弁当はおかずのみを販売しているが、「あえて、」は、ご飯を炊くこと、店で買って持ち帰ることなども含めた「究極の手間抜き」商品を目指し、ごはんとおかずをセットにしている。昨今の時短ニーズなどに応えた形だ。売上は、2030年までに100億円を目指す。コーポレート本部R&B企画部アクセラレーショングループでマネジャーを務める、羽藤耕一郎氏と金澤治氏に聞いた。

(左から)羽藤氏、金澤氏
(左から)羽藤氏、金澤氏

――「あえて、」はどのような商品群ですか。

【羽藤】日々の食事におけるさまざまな悩みに応えられるような商品群です。おかずとごはんが一体となっており、電子レンジで600Wならば6分で食事が完成します。買い物とか調理とか片付けとか週に1回ぐらい、ちょっと手間を抜いて他の事に時間を当てたい、という話が結構あり、そういう方の役に立つような商品としてスタートしています。

コースは、6食・12食・20食の3つから選択できる形です。メニュー数は約20品をそろえています。販売は想定の2~3倍ほどで推移していて、ターゲットとしていた30~40代からしっかり活用していただけているほか、50~60代の方からも利用していただけています。

【金澤】特長は、ごはんとおかずをセットにしている点です。異なるメニューが入ると、均一に解凍しづらいなどの理由で、多くの冷凍宅配弁当はおかずのみを販売していますが、この冷凍弁当はご飯の上におかずをのせることで、おかずがフタのような役割になり、中で熱が滞留して効率よく温まるという構造になっているんです。ごはんとおかずを均一に解凍でき、それぞれの美味しさを引き出せるようにしました。このごはんの部分が難しかったところで、おかずだけ、ごはんだけ温まってしまうことを避けられるよう工夫しました。開発には1年ほどかかりました。今回、特許も申請しております。

ごはんをセットにした理由は他にもあって。この商品は国が定めている1日当たりの栄養の3分の1ほどを摂取できる設計にしており、混ぜご飯や、白米に玄米を混ぜるなどして栄養をより多くとれるようにしています。

今は20メニューですが、今後はより充実させたいです。1年では難しいですが、将来的に60メニューぐらいまで広げられればと思います。

――なぜ冷凍の宅配弁当市場への参入を決めたのでしょうか。

【羽藤】市場が拡大してきたというのもありますが、味の素グループ全体として今、2030年を見すえた取り組みを進めていて、その中で改めて食事が大事だという話になり、時短ニーズにも応えられ、これまで当社グループで持っていなかった、その商品だけで食事を完結させられる商品として投入しました。

――ワンプレート商品ではなく、宅配弁当として発売した理由をお聞かせください。

【羽藤】提供する価値を考えたときに、この商品は『究極の手間抜き』だと思ってます。料理をする手間、外食へ行く手間、買い物をする手間も省ける形にするならば、家にあることが大事だと思っていて。最も簡便な形を考えたとき、自宅へお届けすることが合ってると思っています。週に1回とか2回、手作りや外食の代わりに使ってもらえたらと思っています。

――実際に販売してみての反響はいかがですか。

【羽藤】想定よりも幅広い方からご支持いただけたのは手ごたえを感じました。どの年代にも忙しくて日々の食事の手間を抜きたいと考えている方はいらっしゃって、そう思っている方が増えたため、ご支持いただけたのだと捉えています。

人のために料理をすることが嬉しい時もあれば、面倒な時もどうしてもありますよね。自分一人の時も同じで、基本的には誰もが良い食生活を送りたいし、家族のために美味しいものを食べてもらいたいという思いはあると考えていて。でも、毎日はやっぱり頑張りたくないし、頑張れないじゃないですか。それがブランド名に続いていて、便利なものを「あえて、」少しずつでもいいので食生活に取り入れて欲しいっていう思いもあります。

〈「、」で一呼吸おいたような世界観など表現、商品は継続して改良を〉

――ちなみに、BtoB(企業間取引)として売る予定はありますか?

【羽藤】声はたくさんいただけているんですけど、すでに発売からたくさん反響いただき、声もいただけているのですが、まずはBtoC(一般消費者向け)のチャンネルでやりたいなと思ってます。ただ、冷凍の一食完結型の食事で、電子レンジですぐに調理できるのは、たぶんBtoCのチャンネル以外のところにもたくさん役立てるポイントあるかなっていうイメージはしています。

――「あえて、」の「、」にはどのような意味があるのですか。

【羽藤】「あえて」という言葉自体は、生活の中で積極的に取り入れてほしい良いモノであるとかを後押しをしたいというインサイトに基づいて作った言葉です。ただ、他にも意味はあります。

一つは、「あえて」という言葉の前後にメッセージを入れたいので、接続を良くするために「、」を入れています。いろんな方によって使っていただくシーンは違うと思います。なので、ブランドサイトでは「あえて」という言葉を使ったいくつかのメッセージを発信していて、「週末の作り置きが尽きるころ。」「あえて、」「彩り豊かな木曜夜の楽しみ。」のように、「、」を入れることで接続が良くなるようにしています。

もう一つは、このブランドを上手く活用して手間を抜いて少し時間を作ろうみたいな、一呼吸を置けるような世界観をお伝えしたいという思いです。

あとデジタル媒体での展開なので、文字で伝わることも結構多いと思っていて。そう考えると、この点があった方が我々の意味とかさっきの世界観みたいなことが伝えやすいかなとも考えています。

――今後、力を入れていくポイントなどお願いします。

【金澤】今の状態が完璧だとは全然思っておりません。より良いご飯の食感はもっとあると思いますし、野菜の見た目や食感もより改良していかないとと思ってるので。基本的には全体のレベルをもっと向上させていきたいなとは思っています。

あと、基本品質の向上は永久にやっていきたいと思ってます。当社の冷凍餃子などは、改良し続けることが会社としてのコンセプトになってますので、この商品もそれはやっていかなければと思います。あとはメニューの拡充ですね。やっぱり選ぶ楽しさみたいなところは絶対に必要だと思ってますので、そこも一生懸命やっていきたいと思っております。

【羽藤】BtoCで販売している商品なので、現状としては利用されている方の数はまだそこまで多くないので、なるべくお客さんの声とかを聞きながら取り組んでいきます。

このサービスはスピード感を持って改善できるかが全てかなと思ってます。Web上でのサービスなので、生活の中でこのサービスがどんな風に役立っているか、冷凍庫がパンパンでもう入らない、ちょっと高く感じるなど、色々な声を見ることができています。必要ならばメニューも増やしますし、改善しないといけないメニューは改善します。価格のところを見直さないといけないのであればそこも見直していきます。

「あえて、」は、調理の手間やメニューを考えてそれを作るストレスなど、本来かかるはずだった様々な手間を省けるので、手作りよりも多少価値を乗せられるという考え方もあると思っています。「あえて、」など冷凍宅配弁当の価値が、他の商品やサービスと比べたときに、ちゃんと価値があると認められるようマーケットを我々は作っていきたいですし、コミュニケーションもしていかないとは思っています。

〈冷食日報2024年4月5日付〉

ごはんの上に乗せたおかずはフタのような役割を果たしている